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内戦が続くシリアから避難した体験を元にしたアドベンチャーゲーム,「Path Out」。作者はどのような思いを込めて,この作品を作ったのか
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印刷2018/04/24 16:40

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内戦が続くシリアから避難した体験を元にしたアドベンチャーゲーム,「Path Out」。作者はどのような思いを込めて,この作品を作ったのか

 ゲームは楽しくてナンボだが,すべての作品が,ただ「楽しい」だけで完結するわけではない。英単語を覚えるための教育用ソフトもあれば,難しい社会問題を理解する助けになる作品もあり,これらも「プレイして楽しい」のは同じだが,プレイヤーはそれ以外の知識や体験が得られる。

「Path Out」公式サイト


 オーストリアのCausa Creationsからリリースされている「Path Out」も,そういうゲームの1つだ。内容としては,「RPG Maker」(RPGツクール)で作られた,「物語を楽しむゲーム」となる。RPG Makerを使用した作品には,「魔女の家」「To the Moon」など名作が多数あり,世界的にもファンが多い。
 だが「Path Out」は,それらの作品と内容が大きく異なり,シリア出身のゲームデザイナーであるAbdullah Karam氏が体験したことを踏まえた,半ば自伝的な作品になっているのだ。

「Path Out」のデザイナー,Abdullah Karam氏
画像集 No.001のサムネイル画像 / 内戦が続くシリアから避難した体験を元にしたアドベンチャーゲーム,「Path Out」。作者はどのような思いを込めて,この作品を作ったのか


内戦が続くシリアから脱出せよ


 「Path Out」の主人公は作者と同名のAbdullah Karam。彼は2014年のある日,大きな選択を迫られる。18歳になったので徴兵され,軍隊に入ることになったのだ。
 だが,2014年のシリアは内戦の真っ只中にあった(今もそうだが)。同じ国民同士が殺し合う戦争に参加することを拒んだ一家は,Karam(とその兄弟達)をトルコへと逃がそうとした。

 しかし,これも安全とはいえない選択だ。徴兵から逃れるのもリスクなら,内戦が続くシリア国内を長距離移動してトルコまで行くのも,文字どおり命がけの旅になるからだ。Karamは北へ逃れることを選び,かくして危険な旅が始まる――というのが本作の導入であり,Karam氏の身に実際に起こったことである。

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 RPG Makerを使ったアドベンチャーゲームとして,本作は標準的な作りになっている。例えば自分の家を出て,北に向かう車に乗せてもらうには,親族や近所の人々の指示に従って必要なアイテムを探してあちこち歩き回るという具合だ。
 このあたり,Karam氏が実際にそういうアドベンチャーじみたことをしたわけではなく,あくまで自分の体験をゲームとして再構築している。

家のあちこちを歩き,必要なアイテムを見つけていく
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 本作の大きな特徴は,Karam氏のオーディオコメンタリーが入ることだ。
 オーディオコメンタリーは,ゲーム実況動画のように画面の左上にKaram氏自身の姿が映る形で,ゲームのさまざまなタイミングで再生される。内容としては,当時の状況を振り返っての一言であったり,「これはゲームだからこういうイベントにしたけれど,実際に僕はこういうことはしていない。だけど当時のシリアでは,ここで示した状況はあちこちで見られた」などの注釈だったりする。
 この効果は絶大で,デザイナーであるKaram氏と一緒にゲームを遊んでいるような気持ちになれるし,同時に,ゲームに落とし込んでしまうと冗長だったり理解しにくかったりする要素について,簡潔な言葉で説明を受けられる。

左上に開いた小窓でオーディオコメンタリーが流れる
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 なお,本作はあくまでアドベンチャーであり,ちょっとしたパズルとストーリーがゲームの面白さの中心となるので,どんな展開が待ち構えているかについて詳しく紹介することは避けたい。

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 ただ,アイテム管理やデータセーブなどのユーザーインタフェースまわりは,さすがにRPG Makerを用いて作られているだけあって,不自由は感じない(良くも悪くもRPG Makerゲームだ)。
 唯一問題だと感じたのは,主人公の移動速度が遅すぎることだろうか。しかし,Karam氏によればこれはRPG Makerの仕様であり,動きを早くすると「10倍速にしたんじゃないかと思うくらいで,ゲームのテイストが壊れてしまう」という。

 本作はこれで完結しているわけではなく,現在,Part2Part3を制作中だという。続編では,ゲームの見た目こそ大きく変わらないが,RPG Makerを使わない選択肢も視野に入れているそうで,これ以降の作品では移動速度の問題が解決するかもしれない。

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 「Path Out」は,物語を主軸に据えたアドベンチャーゲームとして高い完成度を持ちつつ,シリアで何が起きたのかを個人の視点で描き出す作品になっている。シリア内戦にまつわる問題は何かと難しく,我々日本人にとって分かりにくいが,その渦中にあった一人の少年が何を感じ,何を体験したのかを知ることで,問題のすべてとは言えなくとも,一部を理解する助けになり得るはずだ。
 「Path Out」はSteamでリリースされており,無料でダウンロードできる。またItch.toでは作者に寄付金を送ることも可能なので,興味のある人は,ぜひプレイしてほしい。

 REBOOT Develop 2018では作者のKaram氏に話を聞くこともできた。最後にその内容をお伝えしよう。


小さい頃からずっと,ゲームを作りたいと思っていた


4Gamer
 お若く見えますが,何年の生まれですか。

Abdullah Karam氏(以下,Karam氏)
 1996年の4月生まれです。シリアのHamaという街で生まれました。

4Gamer
 「Path Out」をプレイすると,Karam少年はかなりコンピュータゲームに熱中していたようですね。どんなゲームが好きでしたか。

Karam氏
日本のアニメとゲームが大好きだというKaram氏は,グラフィックスのテイストとして日本のアニメを,またゲーム展開としてはJRPGを意識したという
画像集 No.008のサムネイル画像 / 内戦が続くシリアから避難した体験を元にしたアドベンチャーゲーム,「Path Out」。作者はどのような思いを込めて,この作品を作ったのか
 そうですね,「メタルギア」シリーズはかなり遊びましたし,「Grand Theft Auto」シリーズもよくプレイしました。「Far Cry 3」も好きでしたね。それから,もう名前も覚えていられないくらい,たくさんのインディーズゲームを楽しみました。ハードウェアとしてはPCのほかXbox,PlayStationが中心で,なかでもPlayStation 1とPlayStation 2のゲームの思い出が強く残っています。

 そうそう,日本のアニメがベースになったゲームもかなり遊びました。「NARUTO」とか「遊戯王」などですね。一番は「BLEACH 〜ブレイド・バトラーズ〜」だと思います。「BLEACH」に登場する敵キャラが大好きでした。

4Gamer
 「BLEACH 〜ブレイド・バトラーズ〜」は最大4人でプレイできますが,近所の友人と遊んでいたんですか。

Karam氏
 もちろんそれもありますが,うちは5人兄弟なので,兄弟で一緒にプレイしました。

4Gamer
 ゲームは英語版でしたか。それともローカライズ版がありましたか。

Karam氏
 全部英語版でした。おかげで英語が上手になりましたね(笑)。
 実際,正面から語学を学ぼうとすると大変じゃないですか。でもゲームを通じて英語を学ぶことで,すごく簡単に,スピーディに,かつ楽しく学べたと思ってます。僕はドイツ語も話しますが,ドイツ語もゲームで覚えました。語学に限らず,何かを学ぶにあたってゲームは本当に良い教材になります。

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4Gamer
 非常にコアなゲーマーだった様子がうかがえるのですが,家でゲームを楽しんでいる頃から,いつかゲームを作ってみたいと思っていましたか。

Karam氏
 はい。小さい頃からずっと,「自分でゲームを作りたい」と思っていました。
 シリアの小さい子が将来なりたい仕事って,だいたい医者かエンジニアで,学校の「将来の夢を語る」ような授業では,ほとんどみんなそう言います。
 僕はそこで「Electronic ArtsとかUbisoft Entertainmentに就職して,ゲームデザイナーになりたいです」って堂々と言いました。みんなには笑われましたけど,本気でそう思っていたんです。

4Gamer
 でも,その夢を実現されましたよね。EAやUbisoftではありませんが,こうして自分のゲームをリリースし,ゲームデザイナーになりました。

Karam氏
 そうです。これって,僕にとってすごく感動的なことで,「Path Out」がオーストリアのゲームショウで評価されたときは,思わず泣いてしまいました。夢が実現したんだ,と実感したんです。
 だから,これだけは言いたいんです。僕はシリアで何度か死にかけましたが,それでもゲームデザイナーになる夢をかなえられました。つまり,誰にだって夢を実現するチャンスはあるんです。

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4Gamer
 ゲームを作るにあたって心がけていることを教えてください。

Karam氏
 ゲームには,プレイヤーに新しい物の見方を発見させる力があると思っています。もちろんゲームは楽しいものですが,ただ楽しいだけでなく,そこから何かを学んだり,あるいは,語られている物語を共有したりできるんです。
 僕のゲームについて言えば,僕と同じような体験を別の人にしてほしいとはこれっぽっちも思っていませんし,むしろ,そうした体験をする人がいなくなればいいと思っています。
 でもゲームを通じて僕が体験したことを共有したい。あくまでバーチャルな体験として,プレイヤーのみなさんと共有したいんです。

4Gamer
 「Path Out」はRPG Makerで作られていますが,RPG Makerを選んだ理由は何でしょうか。

Karam氏
 予算の都合というところが大きいですね。RPG Makerなら完全にゼロから作る必要はないので,助かります。ただ続編では,別のゲームエンジンを使うことも考えています。ゲームのスタイルを変えるつもりはありませんが。

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4Gamer
 ゲームが完成するまで,どのような苦労がありましたか。

Karam氏
 シリアから脱出するという最初の一歩が,とてつもなく困難でした。
 18歳になった僕は徴兵されることになりましたが,シリアで徴兵されるということは,国民同士が殺し合う戦場に行くということです。そこでできるのは,同じ国の人を殺すか,殺されるかだけです。
 僕は,誰かを殺すことになるくらいなら,殺されたほうがマシだと思いました。シリアを脱出する途中,死ぬ可能性はとても高かったんですが,戦場の狂気の中で死ぬよりも,旅の途中で死ぬほうがずっとマシだと思っていました。

 ともあれ僕はなんとかトルコに辿り着いて,そこで働きながら6か月ほど過ごしました。「Path Out」を作ったのも,トルコにいるときのことです。それからパブリッシャを見つけるためにスウェーデンを目指しました。この旅でもいろいろありまして,結局,オーストリアに落ち着いたという形になります。

画像集 No.011のサムネイル画像 / 内戦が続くシリアから避難した体験を元にしたアドベンチャーゲーム,「Path Out」。作者はどのような思いを込めて,この作品を作ったのか

4Gamer
 オーストリアで,ゲームデベロッパの仕事を得たわけですね。

Karam氏
 はい。Causa Creationsという会社で仕事をしています。この会社は「Path Out」のようなジャンルのゲームをほかにも作っていますので,僕にとって理想の環境と言えます。

4Gamer
 Causa Creationsはシリアスゲームを作っている会社なのですか。

Karam氏
 いわゆる,シリアスゲームとは少し違うと思います。どちらかと言えば,1つのテーマに絞った小さなゲームを作っているデベロッパですね。イメージとしては「Papers, Please」のようなゲームです。
 Causa Creationsでは,自分達が作っているゲームが「Games with a Purpose」というジャンルに属していると考えています。遊んで面白いだけでなく,そこに発見や学びがあるジャンルという意味です。

4Gamer
 「Path Out」は2つの続編がリリースされて完結する予定ですが,そのあと,どのようなゲームを作っていきたいと考えていますか。

Karam氏
 プレイヤーにいろいろなことを学んでもらえるゲームを作りたいと思います。人は本を読んで,そこから知識を得たり,人生の知恵や教訓を得たりします。それと同じように,ゲームを遊ぶことでも新しい知識や知恵,教訓が得られるんです。
 そのようなゲームを,教育の現場でも使ってもらえたら,素晴らしいと思います。

4Gamer
 本日はお忙しい中,どうもありがとうございました。

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「Path Out」公式サイト

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