イベント
スマホゲームにユーザーを呼び込む効率的なプロモーション施策とは。セミナー「LEVEL Apps」で行われたオルトプラスとモバイルファクトリーのセッションをレポート
本稿では,その中から主にオルトプラスとモバイルファクトリーのセッションの模様をレポートしよう。
FROSK |
スマホアプリのエラー検知・解析ツール「SmartBeat」 |
オルトプラス
「スマホゲームのPC展開をしてみてわかったこと」
「結城友奈は勇者である」は2017年6月にスマホ版のサービスを開始し,その4か月後の2017年10月にブラウザ版のサービスを始めている。このタイムラグが生じた理由は,IPの版元との協議の結果,スマホ版はアニメ「結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-」/-勇者の章-」の劇場版上映に,ブラウザ版は同アニメのテレビアニメ版放映に合わせてローンチし,話題を作ろうという話になったからだという。
スマホ版からブラウザ版の移植にかかった期間は,7か月程度。当初は5か月と見込んでいたが,ブラウザ版のサーバーデータの持たせ方に苦戦したことや,不具合対処によって伸びてしまったそうだ。
またブラウザ版の開発費用は,具体的な数字こそ出なかったものの,数十人月レベルで,北村氏いわく「全然かかっていない」とのこと。その理由の一つは,Unityを使って開発したスマホ版を,WebGLに書き出し若干の修正を加えただけでブラウザ版が完成したことにある。
ブラウザ版の初期の集客手法は,DMM GAMESと連携した東京ゲームショウ2017などのリアルイベントでの告知や,ゲーム誌などへのシリアルコード掲載,テレビアニメに合わせたCM展開など。これらにより,ブラウザ版の事前登録者数は3万人強にのぼったという(ちなみにスマホ版のときは45万人)。
スマホ版を含めた全体の売上は,ブラウザ版のスタート以降,3割程度アップした印象。これは主に,お金を使う意欲の高いスマホ版ユーザーが並行してブラウザ版を遊んでいる結果だという。ただし,まだブラウザ版は初動段階を脱していないので,今後の経過を見守る必要がある。
またブラウザ版のKPIは,課金率とARPPUが高いとのことで,これまたスマホ版と並行して遊ばれていることが理由だ。
なお運営コストは,スマホ版を含めた全体で0.5〜1人月の増。当初は5人月増えると予想していたそうで,北村氏は「コストパフォーマンスがいい」と話していた。
運営施策に関しては,スマホ版とブラウザ版で意図的に変えている。もともとはアカウント連携をしているので,どちらも同じにする予定だったのだが,結局同じユーザーがどちらも遊んでいるため,スマホ版だけ,ブラウザ版だけといったように別々の施策を打ったほうがそれだけ反響が大きいと判明したからだという。もちろんこれは,有料通貨の売上にも直結する話である。
ユーザーの動向については,とくにプレイのコアタイムが異なるとのこと。スマホ版は日中でも結構遊ばれているが,ブラウザ版は20:00から2:00という夜にしか遊ばれないそうだ。
またブラウザ版は,実際にゲームをプレイするよりも,ガチャを引いたり,PCのディスプレイでストーリーを読むといったことに使われるケースが多いという。ただし,これはゲームのジャンルやスタイルなどに左右される可能性もある。
ブラウザ版の展開にあたって苦労したことは,スケジュール調整やセキュリティ,負荷および不具合への対応など多数あったとのこと。
まずスケジュール調整については,スマホ版が先行し,かつアカウント連携可能となると,ユーザーがアクティブな状態でブラウザ版をローンチしなければならなくなることがネックになったという。すなわち,スマホ版のアップデートとPC版のローンチの二つをどうスケジュールに織り込むかが問題となったのである。結局,スマホ版のアップデートの谷間に,ブラウザ版をローンチすることとなった。
またセキュリティに関しては,主にPCを使ってプレイするブラウザ版は,スマホ版に施された難読化処理などの対策だけでは,不正をされてしまいやすいという課題を抱えていた。結局,すべての不正に対策を立てるのは不可能という結論に至り,「今回はIPタイトルで,ユーザーはコアなファンが多いから,悪意を持った人は少ないだろう」「何かあったら個別に対応しよう」という性善説で対応しているとのこと。ただし北村氏は,「よりファンベースの大きなIPのタイトルでは,もっと慎重なケアが必要になるだろう」とも付け加えていた。
そして負荷と不具合に関しては,ブラウザ版の場合,使用するPCのスペックとインターネットブラウザの組み合わせが膨大になるため,Androidよりも安定しなかったことが明かされた。最終的には,網羅は無理と判断し,ホワイトリスト方式で「このPCスペックとブラウザなら大丈夫」と推奨環境を提示することにしたという。
北村氏が,ブラウザ版のローンチにおいて残念に思っていることは,せっかくIPタイトルだったのに,事前登録や運営スケジュール,告知などをメディアミックス的にできなかったこと。オルトプラスとしても初めての試みだったので,手探り状態となってしまい,ローンチするだけで精一杯だった──端的にいえば,もっと集客できた,もっと売上を上げることができたであろうことが心残りだそうだ。
モバイルファクトリー
「ノウハウ0からはじめるセグメンテーション分析」
「駅メモ!」のプロモーションは,もともと専門のチームが担当していたが,あるタイミングから中山氏ら運営チームが引き継ぐことになったという。そのため,中山氏らは,まさに“ノウハウ0”の状態からPUSH通知などを使うプロモーションを手がけることとなったのである。
中山氏らの最初の心がけは,「PUSH通知は手段であると割り切る」ことだった。そのため当初は,「PUSH通知とは何か」「何に活用できそうか」という分析に努めたという。逆にいうと,「何が何でもPUSH通知を使う」という姿勢ではなかったのである。
また実際に活用してみて結果がダメだったとしても,それは「効果がない」「失敗する」というケースとしてノウハウに残した。さらに,活用できないと判断した部分には無理に使わないとも決めた。
そして結果が出なかったことはすぐ止める,その代わりに「やってみよう」と思えるネタをとにかくたくさん探すという意識を持って臨んでいたそうだ。
そうやっていくうちに,中山氏らは,「PUSH通知はパーソナライズが大事」ということを知る。すなわち,ユーザー各自の属性や購買・行動履歴に基づいて最適化されたメッセージを送ることが必要というわけである。そこで中山氏らは,かつてのプロモーションチームが行っていたPUSH通知の内容を,ユーザーに関係ありそうな形で作り直すことにした。
具体的には,ユーザーが「駅メモ!」のプレイ開始時に能動的に選択した初期キャラクター別に,PUSH通知のメッセージの口調などを変えたのである。結果としてPUSH通知の開封率はやや改善されたが,リテンションへの影響はほとんどなかったそうだ。
これに手応えを得た中山氏らは,「駅メモ!」のゲーム進行もパーソナライズできると考えたが,工数の関係上,大がかりなことはできない。そこでゲームのパーツを使ってチュートリアルの延長のようなものを作り,それをパーソナライズすることにした。具体的には,ユーザーがゲーム内で特定の行動を取ったときに,キャラクターのメッセージが表示されるというもので,当初は3キャラクターのみに10パターンほど用意したという。
すると,メッセージを用意したキャラクターを選択していたユーザーのみ,わずかながらリテンションが増加し,そうでないユーザーには影響がないという傾向が見られたとのこと。また,そのあと条件を逆にして検証したところ,やはりユーザーにはやはり同じ傾向が見られ,最終的にパーソナライズはPUSH通知はもちろん,ゲーム進行にも有効という結論を得たそうだ。
次に中山氏らが検証したのは,「そんなの当たり前」である。スマホゲームのPUSH通知では,「絵文字を使ったほうがいい」「iOS10以降のリッチ通知の機能を使ったほうがいい」「○○をもらえる! などのインセンティブを付けたほうがいい」……といった“当たり前”“やったほうがいい”があふれているが,「駅メモ!」は一般的なスマホゲームとは異なる独自のシステムを掲げた位置情報ゲームだったため,中山氏らは懐疑的だったのだ。とくにインセンティブに関しては,「北海道でもらえる!」となると,ほかの地域のユーザーから反発があるのではないかと考えたのである。
しかし検証の結果,すべて有効であることが分かったので,現在ではすべてノウハウとして運用フローに取り入れているとのこと。
中山氏らがPUSH通知を活用するにあたり配慮していることは「不要なメッセージを送らないために,内容に合わせた対象を選ぶこと」,すなわち「施策をセグメンテーションすること」である。
ここでハマりやすい落とし穴は,「少しの数字の差」と「外部要因」で,たとえば前者ではPUSH通知のAとBを比較して,Aのほうが多少開封率がよかったとしても,それだけで決めるのではなく,有意差検定を行い公正な判断を行ったという。
また後者の外部要因に関しては,とくにリテンションの場合,プロモーションに左右されやすく,PUSH通知だけの影響ではないケースが多いことから注意が必要とのこと。
さらに「駅メモ!」では,位置情報ゲームの特性上,外出する機会の多い週末に流入してきたユーザーのリテンションが高い傾向にあることを考慮にしなければならない。
加えて,展開しようとする施策を理解することも重要である。セグメンテーション自体はやろうとすればすぐにできるが,だからといって一部のセグメントにだけアプローチすればいいというものではない。中山氏は,「AというセグメントだけにXを送っていい結果が出たからといって,それが本当に効果があったかどうかは分からない。A以外のセグメントに送ってみてどうなるか,検証しなければならない」とし,「ある対象とそうでない対象の差異を見つけることが重要」と語った。
それではセグメントをどう切り分ければいいのかというと,中山氏は「掲げた施策自体にだいたい含まれている」と説明。たとえば「アイテムセールス」の告知であれば,課金ユーザーであれば関心を持つだろうが,無課金ユーザーは興味がないと予想できる。
実際,「駅メモ!」でもメッセージの文言やリッチ通知を駆使したPUSH通知の開封率が頭打ちになってしまうということが起きたそうで,よくよく検証してみたら何もセグメンテーションをせずに通知を送っていたことが判明したという。そこで課金ユーザーと無課金ユーザーをきちんとセグメンテーションした結果,きちんと効果を得られたとのこと。中山氏は,「余計な情報を無理に伝えるのではなく,ユーザーそれぞれに必要がありそうな情報をきちんと伝える」ことが重要とし,「たとえば無課金ユーザーには,アイテムセールではなく,参加できそうなイベントの情報を伝えたほうがいい」とまとめていた。
さらに「PUSH通知でできること,できないことを意識する」とし,ユーザーの休眠復帰施策の事例が示された。「駅メモ!」では,ユーザー全体に向けて定期的にカムバックを促すようなPUSH通知をしているだけでは復帰率は低く,実際データを見ても通知を開封しているのはいつも決まったユーザーだけだったという。
そこできちんとユーザーの目に留まるよう,「駅メモ!」のアイコンを人気キャラクターのものに変更することと合わせてカムバックのPUSH通知を行ったところ,それまでの4倍以上もの復帰率を記録したそうだ。これは31日以上の長期休眠ユーザーにも効果があったとのこと。
中山氏は「PUSH通知だけでは不可能なことであっても,ほかにどうやればユーザーの目に付くか施策を考えるといい」とまとめていた。
ともあれ,こうしてさまざまな企業が具体的な事例とともにノウハウを公開する機会は決して多くないため,本セミナーでは聴講者達が熱心に耳を傾けていた。またこうしたセミナーが開かれることに期待したい。
- 関連タイトル:
結城友奈は勇者である 花結いのきらめき
- 関連タイトル:
結城友奈は勇者である 花結いのきらめき
- 関連タイトル:
結城友奈は勇者である 花結いのきらめき
- 関連タイトル:
ステーションメモリーズ!
- この記事のURL:
キーワード
(C)2017 Project 2H (C)KADOKAWA CORPORATION 2017 Developed by AltPlus Inc. / scopes Inc.
(C)2017 Project 2H (C)KADOKAWA CORPORATION 2017
Developed by AltPlus Inc.
(C)2017 Project 2H (C)KADOKAWA CORPORATION 2017
Developed by AltPlus Inc.