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「電車でGO!」を10年,20年と続くプロジェクトに――AC版「電車でGO!!」開発陣に,新筐体と「復刻版」に込められた思いを聞いてみた
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印刷2019/09/04 13:13

インタビュー

「電車でGO!」を10年,20年と続くプロジェクトに――AC版「電車でGO!!」開発陣に,新筐体と「復刻版」に込められた思いを聞いてみた

コンパクト筐体
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 タイトーのアーケードゲーム「電車でGO!!」にて,新モード「電車でGO! 復刻版」(以下,復刻版)を搭載するバージョンアップ「Ver.5.0」が実装されたのは2019年6月26日のこと。合わせて従来の筐体から大幅な小型化を果たしたコンパクト筐体の稼働もスタートし,アーケードを賑わせている。

 初代「電車でGO!」といえば,電車の運転士になった体験ができるタイトルとして,1997年に稼働を開始した体感ゲームだ。普段は触れる機会のない電車の運転台と運転席を再現した筐体と,“電車を安全に運行する”という,ややマニアックな内容をゲームの目的としたことで話題を呼び,当時ブームを巻き起こした。

 その初代を再現するというアップデートには,いったいどんな思いが込められているのか。4Gamerでは,このプロジェクトに関わるキーマン3名――タイトー開発部の金田 剛氏,制作プロデューサーの林 幸人氏,そして開発を担当したフレイムハーツの東 武志氏に話を聞いてみた。制作にあたって開発秘話や,発掘された貴重な資料などもお見せいただいたので,アーケードファンはぜひ読み進めてみてほしい。

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 タイトーは本日,「電車でGO!!」のVer.5.0大型アップデートを実施し,初代「電車でGO!」を再現する新モード「電車でGO! 復刻版」を追加した。筐体の4画面を使って当時のゲームセンターを再現し,懐かしい雰囲気の中で電車でGO!を楽しめる。また,小型化したコンパクト筐体の稼働も始まった。

[2019/06/26 16:33]

「電車でGO!!」公式サイト



親子で楽しめる「電車でGO!!」を目指して


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まず自己紹介も兼ねて,お三方の「電車でGO!!」との関わりについて教えていただけますか。

タイトー ゲーム開発1部 制作1-1課 課長 金田 剛氏
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金田 剛氏(以下,金田氏):
 「電車でGO!!」の総合プロデューサーを務めています,金田です。タイトーに来てからはアーケードゲーム一本でやっております。

林 幸人氏(以下,お林氏):
 制作プロデューサーの林(おはやし)と申します。林と書いておはやしと読みます。主に新筐体「コンパクト」と「復刻版」を手がけました。

東 武志氏(以下,東氏):
 フレイムハーツの東です。フレイムハーツは,元々は「電車でGO!!」の地図アセットなどの担当として関わっていましたが,「復刻版」の制作にあたっては過去作の移植の部分と,画面内の仮想ゲームセンターの制作も行わせていただくことになりました。

4Gamer:
 林さんは,レトロゲームにかなりお詳しいとか。

お林氏:
 そこそこですが。ナムコ時代は「ナムコミュージアム」を手がけていたくらいでして。元々はアトラス創立メンバーの1人でもあります。その後はナムコ,バンダイ,そしてタイトーと,長いことゲーム業界を渡り歩いています。

4Gamer:
 ということは,ファミコン時代からずっとゲーム業界を見てこられたんですね。その辺りの話も,あとでお聞かせいただければと思っています。まずは「電車でGO!!」について。2017年の稼働から2年弱が経過していますが,プレイヤーの反応はいかがでしょうか。

金田氏:
 大きなシステムの刷新に加え,タッチパネルによる指差確認といったシステムを導入したことで,稼働前は不安がありましたが……結果的には多くの皆さんに遊んでいただけているようで,嬉しい限りです。

フレイムハーツ ゲーム本部 技術責任者 第二プロダクション プロダクション長 東 武志氏
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東氏:
 ガチなプレイヤーさんですと,実際の運転手の方がされるような白手(はくて)を着用して,声を出しつつ指差確認をされたりするようです(笑)。

4Gamer:
 現在普及している筐体はかなり大型ですが,どういうコンセプトで開発されたのでしょうか。

金田氏:
 我々は「通常筐体」と呼んでいますが,そのコンセプトは「電車を作る」ことでした。運転台をできるだけリアルに再現して,運転感覚まで現実に合わせたかったんです。ですが,本物の運転台の設計は,当然ながら鉄道会社の機密事項でもあるわけで,ご提供いただくわけにもいきません。マスコン(マスター・コントローラ)だって現物は絶対に手に入りませんから,筐体の開発はなかなか大変でした。

4Gamer:
 ああいうのって企業秘密なんですね。では,どうやって再現されたんでしょうか。いわゆる目コピですか?

金田氏:
 ええ,目測で再現しています。遊ばれて気付いた方もいらっしゃると思いますが,座ってみると椅子と運転台のスペースが少しキツいんですよね。しかし,こうでないと微妙な操作ができなくなってしまうんです。JRさんはこうしたところまでノウハウをお持ちなんだと,作ってみて逆に感心させられたポイントです。

4Gamer:
 そうか,椅子を後ろに引くと,マスコンを動かすのに腕を伸ばさなくてはならないから。確かに操作しづらいかもしれません。

金田氏:
 マスコンも,ハードウェアチームと私で大宮の鉄道博物館に行って,実物を触って再現しています。レバーがカチカチする感じを手に覚え込ませ,その記憶を頼りに作るんです。目コピならぬ“手コピ”ですね。

4Gamer:
 ははあ。それもまた大変そうです。

金田氏:
 感触の再現性だけでなく,販売時のコストや店舗におけるメンテナンス性も考慮しないといけませんから,なかなか難しかったですね。あと,鉄道博物館で子供達に混ざって実物を触るのも,気持ち的にはハードなタスクでした(笑)。

4Gamer:
 そういう地道な作業の積み重ねで,「電車でGO!!」は作られているんですね。ゲームセンターで見かけても,プレイしているのをついつい窓越しにのぞき込んじゃいますし,横から見ているだけでワクワクするのもアーケードゲームらしいです。

金田氏:
 通常筐体の後部に窓を設けたのは,実はそうした楽しみ方をしてほしかったからなんですよ。単にゲームプレイに集中させようとするなら,筐体を密閉型にして中を薄暗くしたほうがいいんですが。

4Gamer:
 フライトシミュレーターの「ミッドナイトランディング」(1987年/タイトー)が,確か密閉式でしたね。その代わりに,ギャラリー用のモニターが付いてました。

金田氏:
 ええ。一方,本作は電車なので開放型を選択しました。実際,イベントや動画収録などで元運転士の方にプレイしていただく機会もありましたが,そのときも評判は上々でした。ただ,「Gがないので,ブレーキングはゲームのほうが難しい」とおっしゃっていて。

4Gamer:
 あ,プロはGによる車両感覚でブレーキを操作するんですね。


4Gamer:
 オペレーター(ゲームセンターの運営業者)さんの反応はどうだったんでしょうか。これだけ大きい筐体だと,導入が難しい店舗も少なくないと思うのですが。

金田氏:
 おっしゃるとおりで,稼働前の商談会では,我々もそういった厳しい反応が来ることをなかば覚悟していました。

4Gamer:
 そうですよね。

金田氏:
 でも蓋を開けてみると,「家庭用ゲーム機と差別化するには,これ位やってくれないと困る」って励まされたんです。スマホと同じことをアーケードでやっても意味がない。アーケードにお客さんが来るきっかけを作るんだ。我々としても,そう勢い込んで臨んだ商談会だったので,嬉しかったですね。

4Gamer:
 なるほど。でも,よく分かるお話ですね。確かにそのぐらいじゃないと意味がない。一方で,例えばVRを活用するという手もあったと思うのですが,それはいかがでしょうか。

金田氏:
 開発段階では確かにVRも検討しました。設定面積的にも,大型筐体より省スペース化が実現できますし,没入感も高く,「電車でGO!!」というタイトルとも親和性が高いと感じています。

4Gamer:
 レール上を走る電車の操縦ですし,おっしゃるように親和性は高そうです。

金田氏:
 はい。さらには首をめぐらせて運転台を見回したり,後ろに乗客がいるシチュエーションも簡単に演出できます。そういう意味では,非常に魅力的な選択肢だと思いました。ただ,当時は業界の基準が厳しくて,VRだと15歳以下がプレイできなくなってしまうんですね。

4Gamer:
 ああ,なるほど。

金田氏:
 電車が好きな低年齢層を取り込めないのでは,それはプロジェクトにとって本末転倒です。それで現在の形になりました。集客を考えても,できるだけ間口は広く取っておきたかったんです。

でんしゃでゴー!! キッズ
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4Gamer:
 2019年3月には,より子供向けの「でんしゃでゴー!! キッズ」も稼働しています。これもそういった施策の一つでしょうか。

金田氏:
 ええ。まずは「でんしゃでゴー!! キッズ」でシリーズに親しんでいただき,ゆくゆくは「電車でGO!!」へステップアップしていただきたいなと。

4Gamer:
 ファンを中長期的に育てていくことに主眼を置かれてるんですね。

金田氏:
 電車という“IP”には,流行り廃りがありませんからね。ずっとシリーズを遊び続けていただくための,まさに英才教育といったところです(笑)。

4Gamer:
 「電車でGO!!!」とか「GO!!!!」というように?

金田氏:
 はい(笑)。「電車でGO!」はタイトーの看板タイトルですから,今後10年,20年と展開し続けたいと思っています。今回の「電車でGO!!」で初めてシリーズに触れた方が,次は親子で遊べるようなサイクルになっていけばいいなと。

4Gamer:
 かつての「電車でGO!」に触れた世代が,今まさにそうやって親子で遊んでいるのではないでしょうか。実際に遊んだことはなくても,テーマソングは誰しも耳にしたことがあるでしょうし。

※テーマソング……タイトーのサウンドチームZUNTATAの石川勝久氏がゲームタイトルを連呼することでお馴染み。正式な曲名は「電車で電車でGO!GO!GO!」という。

金田氏:
 ええ,そのサイクルをつないでいきたいです。今回の「電車でGO!!」のロケテストで全国を回りましたが,子供から初老の方まで,本当に幅広い年齢層の方々に,このシリーズは知られているのだと実感しました。こうしたプレイヤー層の厚さは,タイトーの大きな財産だと思っています。

4Gamer:
 ロケーションでの反応は上々のようですが,実際のプレイヤーの属性的にはどうなんでしょうか。人気の高い地域であるとか,年齢や性別の特性だとか。

金田氏:
 地域によってばらつきがありますね。自動車による移動が中心になる郊外よりも,鉄道網の発達した都市部のほうがインカムが高い傾向にあります。またアップデートで路線が追加されると,やはりその地域のインカムが伸びるんです。

4Gamer:
 普段乗車している路線のほうが,親しみやすいんですね。

金田氏:
 ええ。とくに総武線を追加したときは顕著でした。沿線のゲームセンターでインカムが平均150〜200%増え,中には400%アップした店舗もあります。

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4Gamer:
 電車は生活に密着した乗り物ですからね。

金田氏:
 年齢は正確には測れませんのであくまで感覚値ですが,25歳前後の層が主力だろうと感じています。これはアーケードのお客さんのボリュームゾーンと同じですね。次いで多いのが親子連れでしょうか。男女比は,やはり男性が中心ですね。イベントも,熱烈な女性ファンもいらっしゃいますが,男性がとても多いです(笑)。

4Gamer:
 その年代ですと,かつての「電車でGO!」を知らない人も多そうです。

金田氏:
 やはり鉄道ファン,かつゲーム好きの人が遊んでくれているみたいです。我々がミスしても,その間違いをきっちり指摘してくださいますし(苦笑)。

4Gamer:
 例えばどんな?

金田氏:
 ……この信号にぶら下がってるカメラなんですけど,分かります? 実はこれ,上下が逆さまなんですよ。

4Gamer:
 そ,そうなんですか?

金田氏:
 ええ,うっかりミスで逆にしてしまったんです。プレイしていても一瞬しか見えないはずですが,稼働初日にご指摘いただきまして。今は修正されていますので,ご安心ください。

修正されたカメラがこちら。最初はこれが上下反転していたとのことだが,気付いたプレイヤーもプレイヤーだと思う
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4Gamer:
 ……すごいですね。こういうオブジェクトもですが,街の景観とかはどうやって制作されているのでしょうか。

金田氏:
 車窓からのデータを取得しつつ,Googleマップを参考にするなど,さまざまな手法を組み合わせています。最終的にはすべて鉄道会社さんに監修していただき,そこでOKが出なければ世には出せません。

お林氏:
 かつての「電車でGO!」では,電車内に大型の撮影機材を持ち込んで怒られたこともあったみたいです(笑)。

4Gamer:
 なるほど。新たに実装する路線を作るのって,やっぱり都市部のほうが手間ですよね。建物なんかも多いでしょうし。

金田氏:
 都市部の方が高コストではあります。ただ,ゲームにした場合はそのほうが楽しいですから,我々としてもそうした路線を優先して実装することになります。ただ雄大な景色というより,目まぐるしく変わる風景のほうがゲームには向いているんです。

4Gamer:
 なるほど。いくらいい景色でも,ずっと変わらないとつまらないですよね。

金田氏:
 短い距離で走ったり止まったりして,操作の手数が多いのも重要ですね。だから山手線なんかはまさにうってつけでして,路線が都市部に偏りがちなのも,ここに理由があります。

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4Gamer:
 海外の路線や,架空の路線というのは需要が低い感じですか。例えば……宇宙を走る銀河鉄道とか。

金田氏:
 海外路線はアリでしょうね。ただ,国内路線と比べると優先順位は低くなってしまいます。風光明媚な路線というのは,どちらかというと家庭用で求められるニーズと考えています。よく知っている・乗ったことのある路線を遊んだあとの,箸休め的な遊び方ですね。架空路線は……あまり求められていないように思います。それより,とにかく実存路線を増やして! という感じです。


タイトーのこだわりが詰まった「コンパクト筐体」と「復刻版」


4Gamer:
 さて,今回新たに導入された「コンパクト筐体」についてですが,制作に至る経緯からお話いただけますか。

タイトー ゲーム開発1部 制作1-1課 制作プロデューサー 林 幸人氏
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お林氏:
 プレイヤーの皆さんと,そしてオペレーターさんからの要望にお応えしたものになります。先ほどは大型筐体でこその体験というお話をしましたが,そうは言っても設置面積の大きさは,店舗さんにとって負担になります。さらにはプレイヤーさんからも,近くのゲームセンターで遊べないから,遠方まで出向いてプレイしなきゃならない,といった声をいただいていました。そこでサイズが小さく,導入コストも比較的小さい筐体を作ることにしたんです。

4Gamer:
 よく分かるお話です。ですが,おっしゃるように体験としてはスケールダウンしてしまうのでは?

お林氏:
 そこをカバーするために,コンパクト筐体でも通常筐体と「同じ感覚」でプレイできることに注力して開発を行っています。サイズこそ違いますが,椅子とペダルとマスコンの位置関係はまったく同じですし,パーツ類もほとんど同じものです。その甲斐もあって,「通常筐体よりも画面が近くて見やすい」という声もいただいています。

金田氏:
 コンパクト筐体は画面サイズが小さいんですが,同じプレイ感覚が得られるよう,画面の角度を1度単位で細かく調整しました。

お林氏:
 アルミパイプで組み立てた仮の筐体で,何度もチェックするんですよ。タイトーのハードウェアチームは世界一ですから,お願いすると翌週には仮の筐体が出来上がってくる。特殊なコントローラも3Dプリンタで作ってくれますし,「本当に面白い企画なら,何でも作ってやるから!」と言ってくれるのがありがたいですね。その代わり,しっかり売上を出さないと怒られちゃいますけど。

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アルミパイプで組み立てられたという仮筐体
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4Gamer:
 これまでの知見が活かされているわけですね。一方で,コンパクト筐体に合わせて実装された初代「電車でGO!」の「復刻版」ですが,こちらはどういう経緯だったのでしょうか。

お林氏:
 コンパクト筐体をリリースするにあたって,もう少し何かフックが必要だろうと考えました。そこで出てきたのが,1997年の「電車でGO!」を現代に蘇らせる「復刻版」のアイデアです。私的に“始祖にして最強”だと思っている初代を,そのままの形で楽しんでいただきたかった。

4Gamer:
 なるほど。ちなみにこれって,いわゆるエミュレーションですか?

東氏:
 いえ。エミュレーションではなく,現行環境に合わせて作り直しています。といっても,本編で使用しているUnreal Engine 4上でではなく,Windowsネイティブで動かすレベルの移植です。

4Gamer:
 DirectXで直にということですよね。では,ソースコードが残っていた感じですか。

東氏:
 PC版とAC版のソースコードが,タイトーさんの倉庫から発掘できまして。とはいえすべてではありませんし,グラフィックスについても拾えたのはテクスチャデータくらいで,3Dモデルはありませんでした。それでもなんとか光明が見えたくらいには,活用させていただきましたけど。

4Gamer:
 おお,それはすごい。

東氏:
 でも仕様の細かい部分はまったく分からず,実際にプレイしながら確かめていくような状態だったんです。加えて,特定の車両には現状に即したリファインをかける必要性もあって,難度は高かったですね。また解像度がそもそも違うので,大きなディスプレイで違和感なく遊べるようにする点も,とくに腐心したポイントです。

復刻版
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4Gamer:
 解像度でいうなら,そもそも「電車でGO!!」は4画面のマルチディスプレイ環境ですよね。その使用しないディスプレイに,当時のゲームセンターの風景を再現するアイデアは,とてもユニークに感じられました。

お林氏:
 ありがとうございます。当初は復刻版では使われない左右の画面にはTIPSなどを表示しようと考えていたんです。ですが,せっかくゲームセンターに来て遊んでいただくのに,ただ文字が出るだけでは寂しい。そこにもなにか,アーケードならではのフックが欲しいと考えまして。

4Gamer:
 初代をワイド画面化するわけにはいかなかった?

東氏:
 その案も考えましたが,拡張された領域に表示させる風景のデータがそもそも存在しないので。

金田氏:
 それに,あえて過去のバージョンを遊んでくださる方にとっては,やはりオリジナルに忠実であることが,なにより大切だと考えました。というわけで3画面化はボツになり,オリジナルに手を加えることもしない方針に決まりました。なのでグラフィックスのアップスケーリングもしていません。

4Gamer:
 確かにそうですね。でも,そこからどうして仮想ゲームセンターに行き着いたんですか?

お林氏:
 試行錯誤の中では,ほかにも色々な案がありました。実際の車窓映像や,あるいはプレイ動画を流してみるとか。そんな中で出てきたのが,「運転士になりきる」のではなく,「当時のプレイヤーになりきる」というアイデアでした。

4Gamer:
 ああ,まさに発想の転換ですね。

お林氏:
 ええ。筐体という箱の中で,タイムスリップした感覚を味わってほしいと思いました。それをフレイムハーツさんにお伝えしたら,これがもうノリノリになってくれて。むしろ忠実に再現されすぎて困ったくらいです(笑)。

東氏:
 あの頃の時代感を求めすぎて,つい他社さんのコンテンツを入れてしまったんです。その……つまり,セガさんのアストロシティ筐体でカプコンさんのストリートファイターが稼働している風景,みたいな(笑)。

4Gamer:
 当時は,よく見た光景なんですけどね(笑)。しかしこれ,記憶を頼りにモデリングされたんですか? それにしては良くできすぎているように感じます。

お林氏:
 色々な部署に話を聞いて回ったら,貴重な資料が出てきたんですよ。これなんですが……タイトーステーションの新店舗がオープンした当時に撮影された写真です。ネガ400本分2000枚の写真がありました。

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4Gamer:
 ……これ貴重な資料ですね。店内だけでなく外観の写真まである。

お林氏:
 これをポジ化してスキャンしたものをフレイムハーツさんにお渡しして,「1997年のTHE・タイトーステーションを構築してください!」とお願いしたんです。結果,ウチの店舗関係で一番偉い常務から「これは当時の池袋店か?」って言われるくらい,再現度の高いものに仕上がりました。

4Gamer:
 文字通りの太鼓判ですね(笑)。

お林氏:
 実際は特定の店舗の再現ではないんですけど(苦笑)。筐体とゲームの選定にもこだわっていて,イーグレットII筐体はハードウェアチームから提供してもらった三面図から起こしました。後ろには,年代を合わせてクレーン機のカプリチオスピン2を。遠いので音は小さいんですが,良く聴くとクレーン機のBGMも鳴っています(笑)。両替機もピンク色で当時のタイトーステーションに多かった特別カラーです。そして,右側にはあえて古いカナリー筐体を配置し,稼働タイトルも古めのものを中心に選んでみました。当時よくあった,いわゆる50円コーナーですね。

4Gamer:
 ああ,確かにありましたね(笑)。これ全部3Dということは,この仮想ゲームセンターの中って歩き回れるんですか?

東氏:
 実機では映像化して流しているので操作はできませんが,開発環境では歩き回ることも可能です。

4Gamer:
 何かに活用できそうですよね。対戦ゲームのマッチングロビーに再利用したりとか。そういえば,お林さんが手がけられた「ナムコミュージアム」にも,仮想の博物館を歩き回るモードがありませんでしたか。

お林氏:
 ありましたね(笑)。ちなみに,この仮想ゲームセンターのなかで流れているゲーム画面は,タイトー所蔵の基板で僕がプレイしたものなんです。実際には,収録されているタイトルの倍くらいゲームを収録しましたけど。

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4Gamer:
 なんと。収録ゲームはどんな基準で選んだんですか?

お林氏:
 まず当時人気のあったものや見栄えがいいもの,それからアドバタイズの音が印象的なものを中心に選んでいます。例えばタイトーステーションなら,「アルカノイド」のステージ開始時「てれれん,てれれれれん♪」というジングルは必須だろう! とか,そんな感じです。

東氏:
 「アルカノイド」と「スペースインベーダー」ですね。1997年当時に稼働していた店舗があったかはともかく,この二つは存在感の大きさもあって,入れることにしました。これに「Gダライアス」のαビームのSEを加えると,すごくタイトー感が出るんですよ。だからBGMよりはSEが重要ですね。

4Gamer:
 なるほど,音にもこだわりがあるんですね。

お林氏:
 音関連では,ほかにもエピソードがいろいろありまして。ZUNTATAの監修で,「ゲームが始まったら,環境音はすべて切ってもらえないか」という意見が出てきたんですが,そこは土下座する勢いでお願いして,現状ママで通してもらいました。

4Gamer:
 ああ。ZUNTATAさんの気持ちも分かりますが……。

お林氏:
 ええ。サウンドチームとしては,良い環境で「電車でGO!」の音をしっかり楽しんでほしいということでしょう。ただ今回のコンセプトは「当時の賑やかさを含めてのゲームセンター体験」でしたので,無理を通してもらった次第です。

東氏:
 ゲームセンターの環境音は,お林さんが実際にプレイされたものをベースに,仮想空間内での筐体の並びと,プレイヤーがいるであろう場所の位置関係からシミュレートしてるんですが……ボリュームを10%くらいまで絞っても耳に残るんですよね。とくに「スペースインベーダー」の存在感がすごくて(笑)。

お林氏:
 あとは「片側の音が響きすぎてバランスが悪いから,筐体の位置を入れ換えてほしい」という意見もありました。「バックで『波動拳!』って声が聞こえるぞ!」って指摘されて,音声ソースを調べ直したりとかも。

4Gamer:
 実際に入ってたんですか?

お林氏:
 いえ,もちろん入ってません(笑)。ストリートファイターIIの音源は使ってないので当然なんですけど,どうも「カイザーナックル」の「鬼孔拳」ボイスがそれっぽく聞こえたようで。

4Gamer:
 なるほど(笑)。ちなみにゲーム以外の音――例えばレバーやボタンの操作音や店内アナウンスといった環境音を入れることは考えなかったのでしょうか。あと,灰皿が落ちる音とか。

東氏:
 環境音を入れてしまうと,ギャグっぽくなってしまうんですよね。

お林氏:
 本当は,23時45分に「蛍の光」と閉店放送を流したかったんですが止めました。あれは店舗によっても内容が違いますしね。

東氏:
 ともあれ,プレイの妨げにならないくらいには調整していますので,そこはご安心ください。とくに通常筐体で遊んでいただくと,もの凄くリアルに感じられると思いますよ。


発掘した幻のゲームを世界へ


4Gamer:
 ところで,さきほど話題に上った,倉庫から発掘されたという初代の開発資料ですが,今日はそれをお持ちいただいているそうで。少し見せていただいてもいいですか。

お林氏:
 はい。私も軽い気持ちで倉庫に行ったんですが,ダンボールが何百箱も積み上がっているような状態で驚きました。暑い中を必死に探して見つけ出したものの一部をお持ちしています。

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4Gamer:
 おお。初代だけでなく,「2」や「3」もあるんですね。なら,これも「電車でGO!!」に移植できるのでは?

金田氏:
 ……実は,既に開発を進めているんです(笑)。

4Gamer:
 え,それ言っちゃって大丈夫なんですか? 

お林氏:
 プレイヤーさんも,セレクト画面で察しているような気がしますし(笑)。なかなかない機会でもあるので,当時の雰囲気を大事にしつつ,移植していければと思っています。

4Gamer:
 つまり,最終的には歴代タイトルすべてが遊べるようになるわけですね!

お林氏:
 そうなったらいいですよね。実現できるよう,上長の説得を頑張ります!
 あ,あとちなみに先ほどの倉庫の話ですが,「電車でGO!」だけでなく,「ナイトストライカー」の仕様書や「サイキックフォース」のオープニングアニメ原画といった紙資料も出てきました。基板モノに筐体モノ,さらにはエレメカも含め,マイナータイトルからメジャーなものまで,タイトーが今までに開発したさまざまなタイトルの仕様書が,きっちり保管されていたんです。

4Gamer:
 宝の山じゃないですか。

お林氏:
 未分類の基板も大量に保管されていて,起動してみないと中身が分からないような状態だったんです。現在の規格では動かないものも多いので,ハードウェアチームに遊べる環境を作っていただき,中身を確認したりもしましたね。

4Gamer:
 成果はありましたか?

お林氏:
 それはもう。ロケテストでボツになったゲームや,開発記録が残っていないゲームなんかも出てきて,驚きましたね。恐らく世の中に存在していること自体が稀有な基板だと思います。

未分類基板を確認している様子。左は恐らく「ニュージーランドストーリー」(1988年),右は「Gダライアス」(1997年)と思われる。このほか,記録にないゲームも見つかったそうだが……
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4Gamer:
 それはぜひ世に出してほしいですね。

お林氏:
 「ダライアス コズミックコレクション」「スペースインベーダー インヴィンシブルコレクション」のように,タイトーとしては今後も過去作の復刻プロジェクトに力を入れていきたいと思っているのでそちらにご期待いただければと。貴重な基板なので,管理もしっかりしたうえで,皆さんの元にお届けできたら,個人的にもうれしいです。

4Gamer:
 開発資料についてはバンダイナムコスタジオも保管とアーカイブ化を進めているそうですが,タイトーさんは資料を公開される予定はないのでしょうか。

お林氏:
 9月の開発者向けカンファレンス「CEDEC 2019」で,セガゲームスさんとバンダイナムコスタジオさんと共同で「セガ/タイトー/ナムコ ビデオゲーム黎明期を切り拓いた各社の開発資料展示」というセッションを行う予定です。ぜひご期待ください。

4Gamer:
 個人的にも,期待したいと思います。ではインタビューの締めとして,「電車でGO!!」のファンに向けたメッセージをいただけますか。

東氏:
 復刻版はNESiCAカードへのセーブができたりと,今回お話した以外にもさまざまなこだわりが込められています。そういったところにも注目して,遊んでいただければ嬉しいですね。
 フレイムハーツとしても今回の実績を元に,アーケードゲーム関連の仕事を広げて行ければ思っています。アーケードゲームの移植/開発ができるデベロッパが少なくなっている中で,弊社にはそうした人材が揃っていますので。

お林氏:
 リアルタイムで「電車でGO!」を遊んでいただけに,今回のプロジェクトに携われて本当に嬉しかったです。このようなタイトルでは,作り手はファンの代表とも言えますから,オリジナルに失礼のないように,時間と予算が許す限り良いモノを作ろうと頑張りました。
 すでにご存じの人もいるかと思いますが,復刻版にもエンディングはちゃんとあります。全部見ると2分くらいかかるという,店舗さん泣かせな部分もありますが,無理を言って仕様として入っています。ぜひ挑戦してみてください。また今後の復刻プロジェクトにも,ぜひご期待ください!

金田氏:
 「電車でGO!」はタイトーにとって大事なIPです。20周年限りの復活ではなく,これからも続けていくための第一歩が「電車でGO!!」であり,10年,20年と受け継がれていくタイトルにしたいと思っています。
 かつてのファンが親になり,お子さんと一緒にプレイするサイクルを途切れさせないよう,次のシリーズへつなげていくつもりです。私の後を継ぐプロデューサーが新たなシリーズを作り,さらに次のプロデューサーへバトンを回していく。そうなったら最高ですね。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

画像集 No.004のサムネイル画像 / 「電車でGO!」を10年,20年と続くプロジェクトに――AC版「電車でGO!!」開発陣に,新筐体と「復刻版」に込められた思いを聞いてみた

「電車でGO!!」公式サイト

  • 関連タイトル:

    電車でGO!!

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