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ファンへの感謝から始まり,競合に対する優位点をアピールしたSamsung「Galaxy Note8」発表イベントレポート
製品の紹介は第一報を参照してもらうとして,本稿ではイベントの概要と,
発火事故からの立ち直りと,Galaxy Noteファンへの感謝で始まる
Samsungの新製品発表イベントは,大がかりな仕かけを用意していることが多い。たとえば,「Galaxy S7」「Galaxy S7 edge」を発表した2016年2月の発表イベントでは,まるで格闘技の興業かと思うようなステージをイベント会場中心に設置したうえ,全座席にSamsungのVRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)である「Gear VR」を設置して,360度全天周コンテンツのイメージを強烈にアピールしたものだ。
また,2017年3月に,やはりニューヨークで開催した「Galaxy S8」「Galaxy S8+」の発表イベントでは,プレゼンテーションをステージの天井部分にまで投影していた。
さて,今回のイベント会場となったPark Avenue Armoryでは,左右2枚のスクリーンに加えて,床一面にLEDパネルを敷き詰めており,すり鉢状に配置した記者席から,これら3面が一体になって見えるような演出がなされた。
こうした派手な演出とは裏腹に,イベントの冒頭でスクリーンに流れたのは,
発火事故の話は,Galaxy Note8の発表記事にもあるので,ここでは繰り返さないが,Samusungは,2017年初頭に,同社と第三者機関による調査結果をインターネットのライブストリーミングイベントで公表している。また,3月のGalaxy S8シリーズ発表の舞台でも,製品の品質や安全性の確保について,つまびからにしてきた。
そんなGalaxy Note 7の登場から,ちょうど1年を経たGalaxy Note8のローンチを,言うなれば「禊ぎの最終段階」としたい意図があるのだろう。次々とスクリーンに流れるGalaxyユーザーからのメッセージは,次第に同社を応援する声や,次期モデルを待望する声へと変わっていく。そして,
- 「Even when we disappointed you」(私たちが,失望させてしまった時でさえ)
- 「So, thank you for believing in us」(私たちを信じてくれてありがとう)
- 「And inspiring us to be better」(そして,「より良い物を」と,私たちにうながしてくれて)
「create for You」(そんな,あなたがたのために作り上げた)と述べるKoh氏(写真中央下) |
Galaxy Note8を披露するKoh氏 |
6.3インチサイズと大型のディスプレイパネルを備えるスマートフォンであっても,しっかりした握りやすさを確保すること。専用スタイラス「S Pen」による操作で,より新しいコミュニケーションを生み出すこと。現時点で最高レベルのカメラを搭載すること。生体認証機能を採用すること。Galaxy Note8に盛り込まれたこれらの要素は,いずれも既存のデバイスや技術の延長線上にあるもので,決してドラスティックな革新を目指すものではない。しかし,2011年に登場した初代「Galaxy Note」の頃からすれば想像もできないほど,さまざまな仕様がGalaxy Noteシリーズには追加され続けてきた。
Koh氏は,「有意義な進歩」という言葉を用いて,幻になってしまったGalaxy Note 7からの堅実な進化と,このカテゴリのパイオニアであり,かつ唯一といっていい選択肢がGalaxy Note8であることを示した。
縦長のInfinity DisplayとS Penを強くアピール
Galaxy Note8の詳細については,製品戦略部門の上級副社長であるJustin Denison氏が担当した。
初代Galaxy Noteは,当時としては大きい5.3インチサイズの有機ELパネルを採用したわけだが,画面サイズの拡大を求める声は,今でも続いているという。2014年登場の「Galaxy Note Edge」は,それに対する1つの回答であり,シリーズの転換点にもなったそうだ。
そして2017年3月には,18.5:9というアスペクト比を持つ「Infinity Display」がGalaxy S8シリーズで登場し,Noteシリーズの技術とInfinity Displayを融合した製品がGalaxy Note8であるという。
同じInfinity Displayという名称を用いているが,Galaxy Note8では,S Penを使って手描きをしやすいように,工夫を凝らしているという。たとえば,Galaxy S8シリーズに比べて側面の湾曲を少なくして,全体がフラットに近くなっている。そのため,左右端に近いところであっても,スタイラスで操作しやすくなっているという。画面右端を大きく湾曲させて「エッジスクリーン」を搭載したはいいが,右端がむしろスタイラスで操作しにくくなったGalaxy Note Edgeの反省点を踏まえたのだろうか。
ただ,Galaxy Note8の左右端も多少は湾曲しているので,完全にフラットなパネルに比べると,多少操作しにくい面はある。
次にDenison氏が取り上げたのは,マルチウインドウ機能だ。
2つのアプリを同時に表示するマルチウインドウ機能は,Android 7.0(Nougat)でOS標準機能として実装されたものだが,Samsungはそれ以前から,独自方式で実装している。
たとえば,車でドライブするときに「マップ」を見ながら音楽を聴くといった具合に,2つのアプリを同時に表示させて,切り替えることなしに操作できるのは,大型パネルを有するGalaxy Note8のメリットだと,Denison氏は述べていた。
さらにGalaxy Note8では,こうしたアプリをペアにしたショートカットアイコンを作り,一度のタップ操作で2つのアプリを同時に起動させる機能を新たに追加した。
機能面で重点を置いて説明されたのは,やはりデュアルレンズのアウトカメラ機能とS Penによるペン入力だ。その内容は,第一報でおおむねレポートしたとおりだが,あらためて復習しておこう。
Galaxy Note8が搭載するデュアルレンズカメラは,ワイド側のメインカメラとその2倍望遠に相当するサブカメラという2つで構成している。いずれも光学式手ぶれ補正機能(Optical Image Stabilizer,以下 OIS)を搭載していることが,競合に対するアドバンテージであるという。
プレゼンテーションでは,「iPhone 7 Plus」を比較対象として,望遠のサブカメラ側をデジタルズームしたときのOISの効果や,より明るいF値のレンズなどによる暗所での撮影性能の良さを強調していた。
ただ,タイミングの問題でこれは致し方ないのだが,iPhone 7 Plusは現在,製品としては末期にある状況で,Galaxy Note8の発売日である9月15日前後には,次期モデルが発表されると予想されているのが現状だ。たとえば日本の年末商戦期では,新世代iPhoneと比べて,なおアドバンテージがあるのかどうかが問われるだろう。
また,こうした背景ボケを,撮影時のプレビュー画面から設定できる「Live Focus」機能や,おそらくファイルサイズは大きくなってしまうだろうが,焦点位置や被写界深度を撮影後に調整できる機能などを備えている。カメラアプリの設定次第では,1回シャッターを切るだけで,標準レンズ側(ワイド側),望遠レンズ側で撮影した画像を両方保存することも可能だ。
ステージで披露されたのは,第一報でも紹介した「Live Message」機能だ。背景となる写真や画像に,筆致を含めた手書きメッセージをアニメーションとして追加できるというもの。
さらに,いつでもメモが取れる「Screen Off Memo」機能は,最大で100ページを記録できるようになった。書いた手描きメモはファイルとして保存できるだけでなく,メモの状態のまま,書き加えて更新することも可能だ。
また,S Penのホバー機能を使った翻訳機能では,通貨の変換表示機能も備える。
AIアシスタントの「Bixby」と,PC風のデスクトップ機能「DeX」もアピール
S Penに続いて紹介されたのは,Samsung独自のAIアシスタント機能「Bixby」(ビクシビー)だ。
Bixbyは,Galaxy S8シリーズから導入されたもので,音声を含むアシスタント機能である。Bixbyの音声アシスタントは,韓国語はもちろん英語でも利用可能で,200を超える市場で利用できるようになるという。
新機能として取り上げられたのは,「クイックコマンド」という機能だ。これは,複数の処理を1フレーズ,あるいは2フレーズの音声コマンドとして登録できるというもの。
たとえば,Bixbyボタンを押しながら「Food Photo」と発声すると,カメラアプリを起動して,撮影モードを「食べ物」に設定。さらに自動的にフォーカスして撮影まで行い,自動的に「食べ物」のアルバム内に保存するという一連の動作をこなせるのだという。
同様に「Good Night」とした設定したクイックコマンドの例では,時計アプリのアラームを午前6時に設定して,スクリーンのブルーライトを低減する「ナイトモード」へと自動的に切り替えてみせた。
こうしたAIサービスを外部サービスと連携させるのは,Amazon.comが,自社の音声認識技術「Alexa」に,「スキル」と称する外部サービスを積極的に追加するという動きから拡大しているからだ。Alexaが上陸していない日本では,まだピンと来ないかもしれないが,SamsungのBixbyも,同様の展開を目指していると言えよう。
残念ながら,Bixbyは今のところ,日本語には対応していない。英語には対応しているので,Bixbyを音声アシスタントとして国内で使うことは可能だ。とはいえ,母国語でない音声ベースのサービスを普及させるのは難しいだろう。
DeXとは,スマートフォンを専用のドッキングステーションに接続して,デスクトップPC的に使う機能である。対応するアプリは,Microsoftの「Word」や「Excel」,Adobe Systemsの「Adobe Acrobat Reader」や「Photoshop Lightroom」といったビジネスユース向けのアプリが多いものの,「Twitch」や「YouTube」といった動画ストリーミングアプリ,さらに「Vainglory」や「リネージュ2 レボリューション」といったゲームの名前も挙げられている。
イベントでは,スマートフォンの状態で始めたビデオカンファレンスを,途中で途切れることなくDeXのデスクトップ画面へと移行したうえで,デスクトップモードで起動した新たなアプリの画面をシェアするというデモを披露した。
ハードウェアにおけるiPhoneへの優位点を大きくアピール
現在では最先端の10nmプロセスルールで作られるハイエンドSoC(System-on-a-Chip)を採用するのに加えて,メインメモリ容量は6GB。これは,4〜8GBが主流のPCと,同等の水準であるとJustin氏は述べる。さらに,microSDカードスロットを備えることで,ストレージ不足の課題も解決できるという。これは,メモリーカードスロットを搭載したことがないiPhoneに対する優位点というわけである。
セキュリティ機能としては,Samsung独自の「Samsung Knox 2.9」に対応し,ハードウェアとソフトウェアの両面でデータを保護するという。個人認証も,PINやパスワード,パターン入力はもちろん,指紋認証や虹彩認証,顔認証といった3種類の生体認証にも対応する。
また,Galaxy Note8は,本体だけでなく付属のS Penも,IP68準拠の防水防塵性能を備えるとのこと。さらに,Galaxy Note 5がサポートしていたワイヤレス充電による急速充電にも対応する。ワイヤレス充電は,端子部分に水滴が残っているといった状態でも機能するため,防水防塵と合わせて,Galaxy Note8の優位点であると,Justin氏はアピールしていた。
Galaxy Note8は,世界市場向けには2017年9月15日から出荷を開始する予定だ。発売する国や地域ごとに事情は異なるが,一両日中には予約もスタートするという。製品ボックスにはSamsung傘下のオーディオ機器ブランドであるAKG製のイヤフォンも同梱されるとのこと。「(付属品だけでなく)ユーザーの好みに応じて,スタンダードなヘッドセット端子に,任意のイヤフォンやヘッドフォンを接続できる」と,3.5mmミニピンのヘッドフォン端子を廃止したiPhone 7シリーズに対する差異を強調していた。
ワイヤレス充電対応やデュアルレンズカメラの搭載など,先行する技術と追いついた技術が入り混じってはいるものの,随所で競合との違いを強くアピールするイベントだったといえよう。
イベントの最後には,2017年9月1日から,ドイツのベルリンで行われる家電展示会「IFA 2017」の予告も行われた。ドイツ時間の8月30日に行われるSamsungのプレスカンファレンスでは,「Galaxyシリーズに新たなスターが加わる」とのこと。スクリーンに映し出されたシルエットからすると,スマートウォッチやフィットネスバンドといった新製品が登場するのではなかろうか。
Samsungの「Galaxy UNPACKED 2017」特設Webページ(英語)
SamsungのGalaxy Note8 製品情報ページ(英語)
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