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「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く
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印刷2013/07/27 00:00

インタビュー

「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く

「神谷待ち」のおかげでチューニングの時間がとれた


4Gamer:
 ドラゴンズクラウンは,アトラスさんに頼んで割と早い段階――作りかけのバージョン――からプレイをさせてもらっていたんですけど,ビルドが上がるごとにメキメキと面白くなっていくのがとても印象的でした。最後のブラッシュアップで心がけていた部分,あるいは調整のポイントみたいなものってあったんですか?

神谷氏:
 それはテストプレイと調整を,しっかり時間を掛けてやった結果だと思います。実際,本当に時間をとることが出来ました。それというのも,素材で大幅に遅れている部分があって,それが全部入るまでは,どのみち終わらなかったんです。で,その部分というのが僕なんですよ。

4Gamer:
 そうなんですか?

画像集#016のサムネイル/「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く
神谷氏:
 「ゲーム中イベントのグラフィックは僕が独りで全部描く」なんてカッコいいことを言ってしまって。シナリオやら監修やら他にも仕事があった,なんて言い訳は格好悪いですが,結局,ものすごく遅れてしまったんです。途中で泣きを入れて,シガタケくん()に代ってくれるよう頼んだら「今更,絵が変わるのはチョット」なんて言われて,笑顔で突っ返されましたからね。
 終盤には,朧村正DLCの作業やドラゴンズクラウンのアートワークも被って,見事な「神谷待ち」が発生してました。とにかく描く作業が積み上がって,僕は絵しか描いてなかったので,入ったばかりの新人にはディレクターだと思われていませんでしたから(苦笑)。

※ヴァニラウェア所属のイラストレーター。同社のほぼすべての作品に携わり,「ハバネロたん」の原作者としても知られている

4Gamer:
 あはは(笑)。

神谷氏:
 トレジャーアートなんかも,実は「神谷待ち」で出来た副産物で,モンスターデザインとパターン画が出来る間,待ってもらっている時間でデザイナーに描いてもらったものなんですよ。まぁ,イベントだけでなく,そのほか諸々の遅れがあったんですが,なんにせよドラゴンズクラウンは,ひたすらテストプレイを重ね,チューニングに時間を掛けられたのがよかったですね。

4Gamer:
 よく「ゲーム開発は最後のチューニングにかける1〜2か月が一番重要」みたいな話を聞きますけれど,それを目の当たりにできたのは貴重でした。

神谷氏:
 もう全部描くなんてカッコいいセリフは,僕は次から言いません(笑)! そういえば,ベイシスケイプの崎元さんも「全曲,俺が一人で作る」みたいなことを言ってて,音楽も結構ぎりぎりだったんですよね。

4Gamer:
 結果オーライと(笑)。まぁ,調整にそれだけの長い期間をかけられるのは,珍しいケースなんでしょうね。

画像集#013のサムネイル/「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く


逆張りの戦略としての,王道/硬派路線


4Gamer:
 ドラゴンズクラウンは,実際プレイしてみても,とても良く出来ている作品だと感じるんですけど,一方で,今の若い人は,この作品を――ベルトアクションというジャンルをどう捉えるのだろう?と興味深いんですよね。

神谷氏:
 そこはどうなんでしょうねぇ。そもそもべルトアクションって,今ではほとんどレトロゲーム枠ですし,若い人にとっては相当ニッチに見えると思うんですよ。

4Gamer:
 でも,そのお話で言うなら,そもそもドラゴンズクラウンって,誰に向けて作ったゲームなんですか?

画像集#027のサムネイル/「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く
神谷氏:
 誰といわれると,それは僕向けになるのかな(笑)。僕自身が一番こういうゲームを遊びたかったし,作ってみたかったんですよ。だからといってお客さんを完全に無視してるってわけではないんですが,おそらくこういうゲームが好きな人は,ある程度いるだろうとは思っていました。

4Gamer:
 ただ,物作りって観点からすると,「自分が作りたい物」と「お客さんに合わせるもの」のどちらに寄り過ぎてもうまくいかないことが多いと思うんです。神谷さんは,そこの“見極め”をどうされているんですか?

神谷氏:
 んん。たぶん,完全に見極めるのはムリですよ(苦笑)。少なくとも自分が買って遊びたいかどうかだと思います。ドラゴンズクラウンの場合,そもそもイグニッションさんに「北米市場向けに作れ」と言われてましたが,結局は好きに作ってコレですから。

4Gamer:
 でも,“ヴァニラウェアらしさ”というか,ヴァニラウェアの“色”って確実にあると思うんですけどね。

神谷氏:
 うーん,ヴァニラウェアはインディーズ開発で,そもそも注目されるような会社じゃないと思うんですよ。本来は,正当派タイトルで一般層に広くというよりは,コアなお客さんを狙って勝負するようなポジションにある会社です。
 でも大手メーカーさんが,コンシューマー全盛期のように意欲的な正統タイトルをあまり出さなくなり,代わりにゲーム市場には美少女売りの作品が増えてきた。そうなると個人的には,供給が満たされているところよりも「誰も作らなくなった正統スタイルのその先」を夢見てしまうのはありますよね。

4Gamer:
 逆張りの戦略としての,王道/硬派路線ですか。

神谷氏:
 ヴァニラウェアで,かつて一世風靡していたような王道RPGを本格的に作るとしたら,どんなだろう?なんて。まあ,実際に作れるかどうかはわかりませんが(笑)。

4Gamer:
 その意味でいうと,ドラゴンズクラウンも“求められつつもなかった”ポジションのゲームですよね。ジャンルもそうだし,世界観的にも。

神谷氏:
 そうなってたら嬉しいですね。ちょっと趣味全開でお茶の間に相応しくない作品ではありますが。

画像集#024のサムネイル/「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く


ヴァニラウェアと言えば“食事”


4Gamer:
 ドラゴンズクラウンは,マルチプレイがかなりフィーチャーされていますよね。

神谷氏:
 はい。目指したのは,ゲームセンターで友人と筐体を囲んで盛り上がるとか,友達の家に集まってワイワイ楽しむ,ああいった感じです。オンラインに関しても,マッチング待ちをすることなく,プレイしていたら誰かが入ってくるので気軽にマルチプレイできると思います。

4Gamer:
 マルチプレイと言えば,プレイヤー同士が戦える「闘技場」はどんな遊びになるんでしょう?

神谷氏:
 いわゆる対戦格闘というよりは「大乱闘スマッシュブラザーズ」寄りでしょうか。テストプレイの最後の頃には,3人がかりで倒せるかどうか,なんて対戦の猛者も現れてましたね。

4Gamer:
 おお,それも楽しそうですね。

画像集#007のサムネイル/「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く
神谷氏:
 闘技場も,ランダムダンジョンと同じく開発予定になかったモードなんです。「今回は無理だけど,本当は街に闘技場をつけたかったんだ」と僕がボソッと言ったのを,プログラマーの野間さんが聞いていて,忙しい仕事の合間をぬって何やら作ってるんですよ。

4Gamer:
 ほうほう。

神谷氏:
 そして「仮に対戦モード入れてみた」と言うんです。背景の西村さんも一枚噛んでて,闘技場のグラフィックまでついて良い感じに動いてるじゃないですか。しかもオンラインのマッチングまで用意された状態ですよ(笑)。

4Gamer:
 ディレクターの神谷さんも把握してなかったってことですか?

神谷氏:
 はい(苦笑)。調整時間がどれくらいかかるか不安でしたが,そんなの見たら元に戻して下さいなんて言えませんよね。野間さんも「仮に」なんて言ってましたが,きっと戻す気なんてさらさらない確信犯だと思いますよ(笑)。

4Gamer:
 そういえば,ヴァニラウェアと言えば“食事”の要素も大切かと思いますが,そこも今回は,マルチプレイを意識した作りになっていますよね。

神谷氏:
 やりたかったのは“ゲテモノキャンプ料理”です。ダンジョンに潜るなら,やっぱり現地のモンスター肉を食すのが「ダンジョンマスター」からの伝統だろうと思いまして。更に,その気持ち悪いゲテモノ料理を「他人に食わせる」っていうのが,あのシステムの初期コンセプトですね(笑)。

4Gamer:
 なるほど。

神谷氏:
 でも,料理グラフィックを担当した山下君が,朧村正のシガタケ君の料理グラフィックに妙なライバル心を燃やして。なんだか,とにかくおいしそうに仕上げてきたんですよ。ワームの肉ですら,美味そうに料理されて。

4Gamer:
 確かにキャンプの料理はやたらと旨そうなんですよね……。

神谷氏:
 だから,企画としては違っちゃったけど,これはこれでよしということで(笑)。

画像集#026のサムネイル/「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く


全力ではあるがハイレベルとは思っていない


4Gamer:
 しかし,これだけこだわりを持って,質の高いアクションゲームを作れているメーカーは少ないと思うのですが,ご自身ではどう感じているんですか?

神谷氏:
 それは,ヴァニラウェアが「レベルの高いアクションゲーム」を作れているって意味でおっしゃっています?

4Gamer:
 はい。

神谷氏:
 んー。毎回,全身全霊を込めてゲームを作ってはいますけれど,ヴァニラウェアが「レベルの高いアクションゲーム」を作れているかというと,そういう自覚はないですよ。

4Gamer:
 でも,例えば朧村正なんかもそうでしたが,少なくともジャンプや攻撃時の“手触り感”みたいな部分はすごく良いと思うんですよ。

「オーディンスフィア」
画像集#023のサムネイル/「ドラゴンズクラウン」は自分が一番作りたかったゲーム――ヴァニラウェアの神谷盛治氏に,完成までの道のりを聞く
神谷氏:
 朧村正は「オーディンスフィア」の反省から,まさにその部分に注力した作品です。 僕らとしては,オーディンスフィアはあくまでプリンセスクラウンの後継作品でした。細かくアニメーションするキャラクターをダイレクトに操作できる楽しさ,レベルを上げたりアイテム合成や料理をして,工夫しながら進んで行くゲーム性,そして何よりもシナリオを楽しんでもらうという,「リアルタイムのRPG」として作ったつもりだったんですよ。
 でも,そんな意図はこちらの勝手で,見た目がアクションだと,やはりアクションで突破しようとするお客さんがほとんどで(笑)。結果的にアクションやシステムの作り込みが甘く,肝心のアイテム合成も理解しにくい,それらが敵の強さと相まって先に進めなくなり,シナリオを楽しんでもらうという目的の障害にもなりました。

4Gamer:
 神谷さん的には,オーディンスフィアは悔いの残る作品だったんですね。

神谷氏:
 だから朧村正は,余計な要素は排除して,とにかく「気持ちよく立ち回れる爽快な戦闘」と「誰もが物語を最後まで見ることができる」というのを目指したんです。しかし,当時のヴァニラウェアは少人数ですから,開発リソースは限られていて。アクションに力を注ぐとすれば,ほかへ回す力は減ってしまいます。
 オーディンスフィアを遊んだお客さんからは,シナリオが減ったとずばり指摘されましたね。配分は,オーディンスフィアがアクション2のシナリオ8だったとすれば,朧村正は6:4と言ったところですからね。

4Gamer:
 その意味で言うと,ドラゴンズクラウンって開発リソースの配分的にはどういう感じなんですか?

神谷氏:
 ドラゴンズクラウンは,アクションとシステムが9のシナリオが1くらいの割合ですね。それでもシナリオは,朧村正のテキスト量を超えてるんですけどね。全体的なゲームやアクション部分は,注力した分,ひとかどのものには仕上がっていると思います。

4Gamer:
 先ほど「レベルの高いアクションゲームは作れてない」ってお話をされていましたが,ドラゴンズクラウンに関しては自信あり,ということですか。

神谷氏:
 そうですね。ドラゴンズクラウンは,ヴァニラウェアの中でという意味では一番自信のあるタイトルです。オーディンスフィアと朧村正の経験から思いつく限りのことはしましたので,あとはお客さんのご意見待ちです。
 見た目はレトロですが,あくまで2013年に発売するゲームとして,広い世代のお客さんに楽しんでもらえるように作ったつもりですので,往年のアーケードゲーマーみたいな方はもちろんですが,ベルトアクションを遊んだことがないって方にも,ぜひ本作を遊んでみてほしいですね。

4Gamer:
 分かりました。

神谷氏:
 奇跡的にこうして発売を迎えられましたが,本当に最後の最後まで波乱万丈のプロジェクトですよね(横にいるアトラスの担当者を見ながら)。ヴァニラウェアはいい波乗りになれそうです。

4Gamer:
 ああ,今度はインデックスさんが大変なこと()になっていますからね……。

※2013年6月27日,インデックスが東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てを行った

神谷氏:
 僕も一時期はアトラス社員ですし,いろいろと思い入れある会社さんなので,うまいこといってほしいですね。

4Gamer:
 まぁ……とにかく,ぜひドラゴンズクラウンを遊んでみてください,ということですかね。

神谷氏:
 はい,よろしくお願いいたします(笑)。

4Gamer:
 今日はありがとうございました。

神谷氏:
 ありがとうございました。

――7月5日収録

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 職業柄,たくさんのゲームに触れる機会のある筆者であるが,その中で,年に1〜2本という頻度で,「これは!」という作品に出会うように思う。例えば,「Demon's Souls」や「ダンガンロンパ」がそうであったし,去年で言えば「GRAVITY DAZE」がまさにそうしたタイトルだった。そして,今回取材をした「ドラゴンズクラウン」も,そうした驚きやリスペクトが感じられる希有な作品の一つである。

 これらの作品からは,なぜ「驚きやリスペクト」が感じられるのだろうか?

 そこには,単なる面白さや,完成度の高さだけではない“何か”がある――そんなことを考えながら神谷氏の話を聞いていたわけだが,結局は,作り手の情熱や熱意といったものが,感情を刺激するエッセンスになっているのかもしれない――陳腐な結論ではあるが,そう感じさせられた取材であった。

 紆余曲折を経て,ついに発売となった「ドラゴンズクラウン」。実際触ってみた感触としても,本作は自信を持ってオススメできるタイトルだ。本稿で興味を持ったという人がいたら,ぜひ購入を検討してみてほしい。

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冒険に役立つ各種データをまとめてドドーンと掲載

「ドラゴンズクラウン」公式サイト

 
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