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「ICO」と「ワンダと巨像」のリマスター版を迎えて。上田文人というゲームデザイナーは,何を考えて作品を創るのか――日本が誇るゲームデザイナーがみっちり語る2時間
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印刷2011/10/26 00:00

インタビュー

「ICO」と「ワンダと巨像」のリマスター版を迎えて。上田文人というゲームデザイナーは,何を考えて作品を創るのか――日本が誇るゲームデザイナーがみっちり語る2時間

 2000年3月に登場した「プレイステーション 2」(PS2)の興奮が一段落した2001年末に突如登場した,アクションアドベンチャーゲーム「ICO」。そしてそれから4年後,「プレイステーション3」(PS3)発売が見えてきた,PS2最終期とも呼べる2005年11月に颯爽と登場したアクションゲーム「ワンダと巨像」(以下,ワンダ)。足かけ16年間にわたるゲーム業界での生活の中で,わずかにその2作品しか世に送り出していないにも関わらず,掛け値なしに世界的な評価を受ける日本のゲームデザイナーが,上田文人氏である。

ソニー・コンピュータエンタテインメント ゲームデザイナー 上田文人氏

 そのどちらの作品も,「体力やスコアなどの画面上のインジケータ」「しゃべりまくることによって状況を説明するゲーム内キャラクター」「敵を倒すことで明確に強くなっていく主人公」「プレイヤー同士/対コンピュータなどで勝ち負けを競う要素」「ゲーム中の雰囲気を盛り上げるBGM」など,既存のビデオゲームでの約束事でもあった基本ルールを踏襲せず,まったく新しい「コンピュータエンターテインメント」として設計された。そしてそれは,日本はおろか海外でも――いやむしろ海外ではより強く――称賛と崇拝を持って迎えられ,氏はわずか2作品で,世界に名をとどろかせる一流ゲームデザイナーの仲間入りを果たしたのだ。

 パズル要素の強いアドベンチャーゲームである「ICO」と,ダイナミックなまでに迫力とリアリティを追求した3Dアクションゲームである「ワンダ」は,そのゲームシステムこそ関連性はないものの,儚くて美しいストーリーライン,幻想的なグラフィックス,ファンタジーに徹していながら,どこかにありそうな世界観という,共通の特徴を持つ。
 このことが大きく影響しているのか「アーティスティック」という形容詞を付けられることも多く,自身の作品について公の場であまり多くを語らないため,ファンにとっては半ば神格化された存在で,その思想の多くの部分はベールに包まれたまま今に至っている。

 過去の数々のインタビュー記事――むろん筆者自身の記事を含め――を引っ張り出して読んでみても,既存のゲームの文脈に乗せて話をしようとすると,その言葉は氏にはまったく刺さることなくかわされ,代わりに疑問文を突きつけられ,どちらがインタビューをされているのかよく分からなくなっていることも多い。
 ではいっそ,教えを乞うつもりでインタビューをしてみるのはどうだろう,と思ったのが,遡ること数か月前である。本来であれば,氏の3作目にあたる「人喰いの大鷲トリコ」(以下,トリコ)の発売前後にそのオファーを出してみる予定だったのだが,作品は延期され,そのタイミングを逸してしまった。

 今回,プレイステーション 3で動くようにリマスターされた「ICO」と「ワンダ」が出るタイミングで思い切ってそのオファーを出してみたところ快諾されたのが,このインタビューである。
 ゲームメディアのインタビューである以上,本来であれば「ICO」や「ワンダと巨像」のゲーム紹介を抜かりなく行い,然るべきのちに上田氏の紹介,およびその開発意図について聞いてみるのが筋だが,今回は趣向を変えて「上田文人氏とは何を考えている人なのか」の一端を,何らかの形で表せるような方向で進めてみた。であるからして,ICOやワンダを知らない読者,そもそも上田氏を知らない読者にとっては,いささか置いてけぼりの感があることをご容赦いただきたい。

人喰いの大鷲トリコ
 以下は,上田氏と行った2時間の「雑談」を,ほぼ余すところなく文字で再現したものだ。話はあっちへこっちへと跳び回っているが,その端々で,上田氏の思想が垣間見える。氏が何を考えて作品を創っているのか,何を重要視して業界に貢献しているのか,その片鱗を,ぜひ感じ取ってもらいたい。
 また,氏やその作品を理解するうえで「ICO/ワンダと巨像 Limited Box」に同梱されているBRUTUS特別編集によるブックレットは外せない。ファンであればもちろんのこと,いまから両作品を遊んでみようと思っている人であれば,ぜひ手に入れておくことをお勧めする。


「ICO」公式サイト

「ワンダと巨像」公式サイト


4Gamer:
 またもや1年ぶりでございます。「次にインタビューするときはトリコの時ですね」と去年話した気がするのですが,違う内容でお会いできました。

上田文人氏:(以下,上田氏)
 そうでしたね,そんな話をしていた気が……。どうぞお手柔らかに(笑)。

4Gamer:
 話は唐突なんですが,実は私と上田さんはほとんど年齢が同じなんです。

上田氏:
 あ,そうなんですね。

4Gamer:
 ですので,あの限定版のブックレットを読んだときに,見てきたものがほとんど同じだな,と思って一方的に親近感を覚えました。

上田氏:
 住んでたのが結構田舎だったので,王道のものっていうんですかね,そういうもの……外れたものじゃなくて,王道のものばかりに触れてきまして。

4Gamer:
 でも,子供の頃とか若い頃とかの体験が,全部今の仕事につながっているという話を読んで,ジョブズのスピーチを思い出しました。

上田氏:
 お,そうなんですね。

4Gamer:
 ジョブズも確か,若い頃の,点でしかなかった一つ一つの経験が全部つながって今があるんだ,という話をしていて。大変うらやましいですね。なぜか私は全然つながらないんです。

上田氏:
 そうなんですか?(笑)

4Gamer:
 不惑の四十とか絶対嘘ですよ。惑ってばかりです(笑)。


モニターの向こうに世界があることが衝撃だった

――正直,ビデオゲームというものをちょっと甘くみてたんです


4Gamer:
 話が前後しちゃいましたが,リマスター版の発売おめでとうございます。

上田氏:
 ありがとうございます。無事発売されました。

4Gamer:
 リマスター版で一番見て欲しい部分はどこですか?

上田氏:
 それよく聞かれるんですけれど,うーん,一番見て欲しいところ……。

4Gamer:
 一番見て欲しくないところでもいいですよ。

上田氏:
 そのへんはちょっと複雑なんですよね。元々PS2でデザインしていたものだったので,それが高解像度になったことで,グラフィックが良くなりました。そこはぜひ見て欲しいんですけど,やっぱり自分が作ったものっていうのは,「もっとこうしたかった」「もっとああしたかった」という反省点もあったりするわけで,今回はそれをほとんど変えずに出してるので。

4Gamer:
 ちょっと気恥ずかしい……というか,若いころの自分の写真を見ている気分ですか。

上田氏:
 と,いう部分もちょっとありますね。

4Gamer:
 ICOなんかは特に,だいぶ変わった感じがしますね。

上田氏:
 そうですね。元々低解像度のゲームだったんで。

4Gamer:
 カットシーンなどで描かれている新たな「左右の部分」って,あれは元々あるデータですか?

上田氏:
 そうです。カットシーンはゲーム中のステージにカメラを置いて撮影しているようなものなので。

4Gamer:
 では,ゲーム中に出てくる背景――例えば階段の段数とか――が変わっているのは,あれは新たな描き起こしですか?

上田氏:
 いえ,ポリゴンモデルはまったくいじってないんですよ。テクスチャの調整によってそう感じたのかもしれませんね。

4Gamer:
 そうなんですね。立ち上げてちょっと進めて「あれっ」と思ったので。

上田氏:
 空間が広く感じられるといいんですけど。

4Gamer:
 ご自分でプレイはしてみました?

上田氏:
 ええ,もちろん。

4Gamer:
 難しくなかったですか? とくにワンダ。

人喰いの大鷲トリコ

上田氏:
 うん……難しいですね(笑)。

(一同笑)

上田氏:
 ICOも違った意味で難しいですね。今だと……今なら,もっと親切に作るよなぁ,って思います。これわかんないだろ! みたいなのもありますし。
 でも,それがいいところでもあり。ユーザーさんも,そこで何回か迷うこともゲームの面白さだっていう風に感じる方もいらっしゃると思うんです。僕も昔の僕とはもう違っていて,もうスレて来てると言うか……。

4Gamer:
 スレて(笑)。

上田氏:
 こなれてきてるというか(笑)。そういう「面白さ」をどんどん排除しちゃって合理的に考えて作るっていうのもまた違うのかな,という風に思うんです。

4Gamer:
 「ゲーマー」の方であれば納得できるんじゃないでしょうか。

上田氏:
 今だと多分こういう風にはしないんだけど,この無駄な部分というんですかね,なんというか,合理的に作られすぎてない部分が良かったのかな,と改めて思います。

4Gamer:
 例えばオンラインRPGとかで生じる,ユーザーさんに強いられる一見無駄な時間のことをダウンタイムっていうんです。自分のキャラが死んで,その死体を回収する時間であったり,壊れたアイテムを修理する時間であったり。
 で,昔のプレイヤーはそれも含めて楽しんでいました。それもゲームの「システム」の一つなわけです。でも昨今の,遊ぶゲームの選択肢が多くてやることもいっぱいあるユーザーさんはそれを非常に嫌うので,ダウンタイムはどんどん削られていってるんですね。いまではキャラクターの移動でさえ「ダウンタイム」扱いです。それはそれでなんか違うんじゃないのかなぁ,とは思うのです。

上田氏:
 そうですね。それに似たような感触です。そういうものがあえて残された状態であるところに,ちょっと再発見がありました。

4Gamer:
 しかも今回はリマスター版ですしね。「リメイク版」のプランとかはあったりしますか?

上田氏:
 リメイクは……この先また,機会があれば,もしかしたら。

4Gamer:
 お? まんざらでもなさそうなお返事が。

上田氏:
 自分の時間がたっぷり取れたらしてみたいな,とは思います。ICOやワンダに限らずですが。

4Gamer:
 ……といいますと。

上田氏:
 なんか,昔のゲームとかリメイクしてみたいなぁ,とか。

4Gamer:
 ご自分の作品以外に言及するとは思いませんでした。

上田氏:
 そうですか? ちょっと面白そうじゃないですか。

4Gamer:
 たとえばどんなものですか? レミングス?(編注:上田氏はレミングスコレクターである)

上田氏:
 レミングスもやってみたいし,ほかにフラッシュバックとかアウターワールドもそうですし。なんかああいうものを今の技術で作るのはワクワクします。……まぁ,いまのところ思ってるだけですけど。

4Gamer:
 しかしフラッシュバックとかアウターワールドとか,世界観と上田さんのイメージは合いますが,意外にアクションゲームがお好きですよね。バーチャファイターもずいぶんやっていたとか。

上田氏:
 そうですね。1と2をずいぶんやりましたね。

4Gamer:
 そういう年代ですしね。

上田氏:
 そうなんですよ。まだ僕がゲーム業界に入る前ですね。

4Gamer:
 とても正直な話,今の上田さんのイメージから,バーチャファイターの雰囲気はあまり想像できませんね。

上田氏:
 そういうもんですかね。でも好きでしたねえ。

4Gamer:
 ラウ使いで。

上田氏:
 です。……うん,色んな意味で好きでしたね。3DのCGの魅力――リアルタイムCGの魅力――を初めて感じたのがバーチャファイターでしたし。
 あと,僕はプレイ後感というか,映像などの感触が頭に残る感じ,手や指に残る感じというのが優れたビデオゲームの条件としてあると思っていて,バーチャはそれがすごく強かったんですよね。

4Gamer:
 具体的にはどのあたりを指してますか?

上田氏:
 なんかこう……例えばアキラで鉄山靠(テツザンコウ)を出した瞬間の,その感触や快感といいますか。「もう1回やりたい!」みたいな。そういう意味でのお手本みたいなゲームでしたね。あとこれもまた鉄山靠の話なんですけど……。

4Gamer:
 ラウ使いじゃなかったんですか(笑)。

上田氏:
 最後にラウ使いになったんです(笑)。
 それで鉄山靠って,技を出したときにスピーカーの音が割れるんですよね。

4Gamer:
 ありましたね。「どがしゃ」みたいな音。

上田氏:
 それです。狙ったかどうかは分からないんですけれど,あれがすごく良かったんですよね。

4Gamer:
 確かに,鮮烈に記憶に残ってますね。あの感触というか「打撃感」というか。でもその感じだと,とくに「格闘ゲーム」が好きだったわけじゃなさそうですね。

上田氏:
 うん,そうですね。だからそれ以外の,鉄拳とかストリートファイターとか,一応プレイはしましたが,やはりバーチャは特別でしたね。

4Gamer:
 そうですね。セガだと「ファイティング バイパーズ」とかも,爽快感や打撃感重視の格闘ゲームとして割と好きでした。
 ……ところでレミングスはなんで好きなんですか?

上田氏:
 あのブックレットでも触れていますが,その当時はまだ現代アートをやってまして。で,ビデオゲームというものを,正直,甘くみてたっていうんですかね……甘くみてたって言い方は少しまずいな(笑)。

(一同笑)

4Gamer:
 「おもちゃ」の延長,みたいな感じですか。

上田氏:
 そうですね。まぁあんまり深いものではないんだろうって思ってたんです。しかし大学時代にレミングスを見て,もうこれはアートに匹敵するものなんじゃないかって思ったんです。最初にそう思ったタイトルが,レミングスだったという。

4Gamer:
 確かにある意味アートですね……。いまどきの子は遊んだことないと思いますが,当時でさえ,割と衝撃でした。

上田氏:
 ですよね。あと,レミングスの動きに細かいアニメーションがついてたんですね。僕は「アニメの動きオタク」っていうかそこが大好きなんで,そういう部分で惹かれたというのもあります。

4Gamer:
 ほかに同じ感触を受けたゲームってありますか?

上田氏:
 さっき話に出たアウターワールドとかフラッシュバックとかがそうですね。

4Gamer:
 すべて,当時すでに「ちょっと変わったゲーム」と呼ばれていたモノですね。まぁ当時は変わったゲームばっかりでしたけど。

上田氏:
 そうですね。やっぱり「モニターの向こうに世界がある」という感じが,それ以外のゲームとは違う印象を与えたんだと思うんです。レミングスも,言うならば2Dでパズルゲームなんですけど,なんかこう,アリの巣の断面図みたいじゃないですか。それを覗いてる感じで,それにインタラクションがあって。だからやっぱり向こうにちゃんと世界があるって感じがしたんです。
 アウターワールドとかフラッシュバックは,まさに向こう側に空間が存在していて,それを覗き見ながら干渉してる感じですし,そういうものに惹かれて,そういうものにロマンを感じたんだと思うんですよね。

4Gamer:
 なるほど。そういう傾向が,恐らくは上田さんを「アーティスティックなゲームデザイナー」と言わしめる要因の一端なんですね,きっと。
 ゲームっていうと,うーん……例えば「シムシティ」のような,ゲームシステムとしての魅力を最前面に打ち出すモノというイメージが強かったですし。

上田氏:
 そうですね,いろいろなマネジメントして。

4Gamer:
 です。「システム」そのものを楽しむといいますか。

上田氏:
 そうですね。
 好みの問題なんでしょうけど,僕はコンピュータの使い方として,計算機の代わりに使ってめんどくさいことをやってもらうというよりは,コンピュータによって生み出される世界とか,コンピュータによって生み出されるキャラクターだとかのほうに魅力を感じますね。それで,自分もそういうものを表現したいのです。

4Gamer:
 今までの2作品はその方向で成功していますよね。

上田氏:
 どうなんだろう。でもさっきから話題にあがっているアウターワールドとかの話を聞いて思いだしたのは,ICOを作ってるときは,キャッチーな――って言うんですかね,背の高い女の子と背の低い男の子を指すんですけど――キャラクターがいればビジュアルインパクトがあるし,とか考えてましたね。
 そういうパッケージ上の計算がありつつも,でもゲームとして表現したいモノはアウターワールドやフラッシュバックみたいな,ああいう「あんまりみんなには知られてないけど,やると絶対面白い」ものを,分かりやすいパッケージングで表現したいということが,コンセプトの一つとしてありました。

人喰いの大鷲トリコ

4Gamer:
 世間一般における「上田文人」は,もうほとんどレジェンド化してしまっていて一種の神格化がなされていて,非常にアーティスティックで,非常にエモーショナルで,とてもはかない美しいものを作る人だ,というイメージがあると思うんですよね。

上田氏:
 そうなんですか?

4Gamer:
 ……だと思います。数年前までの私もそうでした。海外でもそういう評価はずいぶん多いですし。
 でも実は,そういうわけでもないんですよね。話の端々から,割とロジカルに物を作っているのがうかがえますし。

上田氏:
 そうですね。僕自身はそう思ってます。……スタッフがどう言うかは分かんないですけど(笑)。

(一同笑)

上田氏:
 思いっきり感覚で勝負してると言われるかもしれないですけどね(笑)。

4Gamer:
 いつぞやのインタビューのときも「この人は冷静でロジカルな人なんだ」と思いましたけど,そのロジカルな部分は,一体どこから来ているんでしょうか。

上田氏:
 うーん,どこですかね……。
 僕は最初に美術を――絵画をやってたんですね。油絵というか。それで絵画のイメージって,こういった場所(といって会議室の壁を指さす)に置かれてるものですよね。で,多分今日この場所から帰ったら,ここに何があったか,どんな絵があったか覚えてる人ってほとんどいないんですよ。多くの場合,絵画ってそんな存在なんです。
 で,きっと僕はそれが嫌だったんですね。もっとこう,人の記憶に残るようなモノを作りたい。なので絵画だけを目指すのをやめて,ビデオゲームであったり,もう少しその現代アートでもインタラクションのある,例えばインスタレーションとか,そういうほうに進んでいったというのも,そういう理由があったんだと思うんです。要するに,なんかこう,他人の人生に影響を与えたいっていうのがすごくあったんじゃないですかね。

4Gamer:
 友人が昔,漫画雑誌の編集をやっていたんですが,「電車に乗る前に買って,電車の中で読まれて,電車を降りたら捨てられる,そんなものを作るのはもういやだ」っていって,ある時辞めてしまいましたが,その話を思い出しました。

上田氏:
 ちょっと気持ちが分かる気はします。
 消費される。消費されて終わる……。消費されるのは仕方がないんですけど,そういう中で,これは絵画やアートの展示でもいえる話ですけど,どうすれば人の目に止まるんだろうと考える癖がついたんじゃないかと思うんです。


自分が「これだったら買わない」と思うものは作らない

――まず最初のプレイヤーは自分だと思うんです


4Gamer:
 確かにICOにせよワンダにせよ,例えばトリコも見ただけでそうですけど,とても強く記憶に残ります。ゲーム雑誌の編集者風に言うならば,ICOもワンダも,そんなに突飛なゲームではないですよね。

上田氏:
 お姫様を助けるゲームだし,モンスターを倒すゲームだし。

4Gamer:
 で,どちらもいちおう普遍的なテーマに則っています。ボーイミーツガールであったり冒険活劇であったり。そしてゲームシステムとして面白いかと問われると,正直言葉に詰まります。斬新な表現であったり斬新なステージ構成であったりという部分はいろいろあれど,大枠でのゲームシステムが面白いわけではありません。誤解を恐れずに言うならば,パズルアドベンチャーと3Dアクションです。
 ……にもかかわらず,とても強烈に記憶に残るんです。いままで聞いている感じだと,あれは意図的にやってることなんですよね,やっぱり。「売れるゲーム」「面白いゲーム」というものは,ある程度普遍化された記号であったりルールであったりするわけで,当たる当たらないはともかくとして「参考文献」も多いわけですが,「記憶に残るゲーム」というのは,それよりも難しいと思うんです。

上田氏:
 でも作ってるときは,やっぱり売れるものを作ろうとはしてますよ。その中で,あわよくば,記憶に残ってくれればいいという(笑)。

4Gamer:
 あわよくば,って(笑)。そっちのほうがあとなんですか?

上田氏:
 そっちのほうがあとですね。
 さっきもちょっと話題に出ましたけど,ICOとかでいうとまずパッケージありきで,こういうパッケージングにすれば多分目立つ,というか人の目に止まるだろうし,遊んでみたいと思ってくれるんじゃなかろうか,みたいなものを,自分の中で選択していった結果なわけなんです。

4Gamer:
 でも,例えば「ヨルダ」のアクションスクリプトの設定だったり,例えば最近だと「トリコ」の動きであったり,「詰め込めるだけのモノを詰め込んでいる」じゃないですか。リアリティを満たすために。
 それは,多くの人が気付かない場所だったり描写だったり表情だったり行動だったりするわけで,売れるものを作るという趣旨からすると,あまり合致していない行動じゃないですか?

人喰いの大鷲トリコ

上田氏:
 いや,僕は合致していると思います。

4Gamer:
 それはいかなる理由からなんでしょうか。

上田氏:
 まず最初のプレイヤーは自分だと思うので,自分が「これだったら買わない」と思うんですよね,そういうものが入っていないと。

4Gamer:
 期待通りの答えをいただけて,ちょっと嬉しいです。

上田氏:
 なのでそういう意味で言うと,「無闇にこだわってる」とか「完璧主義者」だとか言われるんですけど,自分的にはまったくそんなことは思っていなくて,もう本当にあたりまえのことでかつ最低限これくらいしないといけないレベルのことで,その繰り返しでしかないんです。……そう言うとスタッフは怒るかもしれませんけれど。

4Gamer:
 少なくとも待ってるプレイヤーは,怒りませんけどやきもきしてます。

上田氏:
 さっきも言ったように,元々現代アートとか絵画とかをやっていたわけですが,もうゲーム業界に入って,会社員として生きていこうと思ったわけですよ。僕はある日,どこかのタイミングで。

4Gamer:
 はい。

上田氏:
 会社員であれば会社の利益を追求するべきだと思います。まぁ僕がそれをちゃんと達成できてるかどうかは分かりませんが,もし達成できてないことがあるんだとすれば,それは多分自分の力不足です。

4Gamer:
 会社員なので会社の利益云々という話は非常に納得できるのですが,上田チームというのは今まで2作品を出しているわけで,これはむろん何の悪意もなく,むしろ尊敬を込めて言うんですけど,11年間で2作品しか出していないチームを……。

上田氏:
 おっしゃりたいことはなんとなく分かりますよ(笑)。

4Gamer:
 SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)というのは,とても懐の深い会社だなぁ,と(笑)。

上田氏:
 そうですね,それは確かにそうです。
 ただ,言い訳じゃないんですけど,ちゃんとICOもワンダも当時すでに黒字で,PS2版ワンダは北米だけでも100万本ほど売れています。長い期間作ってはいるんですけれど,少人数で作っているということもあって,ビジネスとして破綻しているというわけではないんですよ。

4Gamer:
 いえ,もちろん存じています。しかし逆に,それならそれで「もっと作れ」と言いそうなものです。大変イヤらしい言い方ですが,上田さんの名前をもってすれば,おそらくそれなりには売れるわけですから。5年に1回じゃなくてもっと作れ,って会社から言われてもおかしくないと思うんです。

上田氏:
 ええとですね,僕も作りたいんです(笑)。
 なんかよく誤解されるんですが,僕が多く作りたくないって言ってるわけじゃなくて,本当に早く作りたいんです。さっき言ったようなものを。

4Gamer:
 先ほどの「最低限の自分のクオリティを満たすモノ」ですか?

上田氏:
 それを素早く作るって言うのが僕の理想です。ただそれがまだまだ出来ていないわけで。
 別にこれは冗談か何かで言ってるわけではなくて,これまでの反省点でもあるし,これからの直すべき点でもあるので,どんどん改善していきたいですね。

4Gamer:
 いやあ,上田作品が1年に1本遊べたら幸せですね。

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