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印刷2011/09/12 00:00

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[CEDEC 2011]立体視に対応するサラウンドサウンドの作り方〜「DISSIDIA 012[duodecim]FINAL FANTASY」のデモを題材に

 CEDEC 2011の最終日である9月8日に行われたショートセッション「3D映像に対するサラウンドの立体音像」をレポートしたい。
 前半(というか全体の3分の2)はプレゼンテーションで,後半はCEDEC 2011運営委員会のサウンド担当者も参加してのパネルディスカッションとなっていたが,今回は,スクウェア・エニックスの油井正幸氏とソニーPCLの長谷川友里氏が担当したプレゼンテーション部分のみを取り上げる。

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油井正幸氏(スクウェア・エニックス 開発部基幹開発サウンドセクション)
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長谷川友里氏(ソニーPCL デジタルプロダクション事業部サウンドミキシングエンジニア/サウンドデザイナー)


立体視対応映像に必要な音響素材とは


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 近年,立体視対応の映画が多数公開され,ゲーム関連でも,立体視対応ディスプレイ/テレビやニンテンドー3DS,立体視対応携帯電話などが登場しているというのはご存じのとおりだ。スクウェア・エニックスではこれを受け,プロモーションの一環として,立体視対応の映像を制作しているのだそうで,今回はその映像が題材となっている。

 今回用いられたのは,PSP用タイトル「DISSIDIA 012[duodecim] FINAL FANTASY」のプロモーション映像。映像,音響ともにスクウェア・エニックスとソニーPCLの共同制作だ。

CEDEC 2011の会場では3D立体視対応プロジェクタが使用できないため,映像は左右2分割されていた。音は5.1chサラウンドだ。BGMは石元丈晴氏が担当。ちなみにこの映像は,ゲームの初回生産限定版サウンドトラックに特典ディスクとして平面視&立体視両対応のDVD-Videoとして収録されている
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 音響制作にあたって,まずは効果音の素材集めから始まったとのことで,油井氏が登壇。当初,氏は,「サラウンドサウンドといっても,2chと大差ないだろう」と考えていたため,環境音や「Foley」(フォーリー。キャラクターと同じ素材の衣装を着て,アクションもまねて動き,そのときの流れをまとめて収録した音),エフェクト,風切り音に分けたのだという。
 ただ,「ソニーPCL側でミックスするときに,どれくらいパニング(定位)をリアチャネルに振るのか,立体表示される波や飛行物などに対してどのように音を作っていくか」が分からないこともあり,最終的には,上長のアドバイスを受けたりしながら,細かく分けて,なるべく多くの素材を渡すようにしたとのことだ。

 環境音1つ取っても,湖のシーンでは,静かな音と,波立つ音とをそれぞれ5.1で用意しつつ,単発のモノラル音も別途用意。エフェクトなどは映像に出てくる回数分用意して,インパクト(衝撃音)や動作音,余韻など個々に分割し,さらに風切り音やFoleyも帯域ごとに分けたのだそうだ。結果,ソニーPCLへ渡ったサウンドデータの数は600を超えたという。

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 その後,ソニーPCLから追加の要望があり,足りない部分を補っていった。映像の最後でタイトルのロゴが光るところでは,手前から奥に向かって音をもっと分けてほしいとか,飛行物が飛んでくるところでは,手前側の分割数をもっと細かくしてほしいとかいった依頼があったとのこと。これらのやりとりは,スケジュールのギリギリまで行われたと,油井氏は振り返っていた。


立体視映像向けの立体音響ミックス手法


 ここから先は,実際にミックス作業を行った長谷川氏が解説した。
 長谷川氏は普段,テレビのコマーシャルやプロモーションビデオ,テレビ番組などのミキシングやサウンドデザインを手がけている人物。2009年に,「FINAL FANTASY XIII」PlayStation 3 / Xbox 360)で3D立体視対応の劇場用プロモーション映像を担当した縁があり,今回の映像も担当したとのことだ。

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 さて,スクウェア・エニックスから,7つに分けられた(Avid製の音楽制作ツールである「Pro Tools」の)セッション形式のファイルが渡された,と長谷川氏。油井氏の発言を受けつつ,各セッションはカテゴリーごとに細分化されていたと補足する。
 長谷川氏にとってイレギュラーだったのは,今回,DISSIDIA 012[duodecim] FINAL FANTASYで音楽を担当したスクウェア・エニックスの石元丈晴氏から,音楽もミックスしてほしいという依頼があったこと。通常,長谷川氏は音楽のミックスは行わないのだが,立体視用に面白いミックスができないかということで,まず,石元氏の側で2chステレオのラフミックスを作ってもらい,参考にしながら,そのステム(stem,ここでは楽器パートごとのデータの意)のミックスを行ったという。

 以下,長谷川氏が説明してくれた作業の流れを,スライドとセットで見てみたい。

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(1)効果音のプリミックスにはソニーPCLの405スタジオを使用。プリミックスにあたっては,バックグラウンド(環境音)とFoley,武器,アロー(矢),VFX,Whoosh(ワイプ音),タイトルSEと,7つのセッションを独立したものとして分けてもらった。そこで,セッションごとに5.0/5.1chのプリミックスを行っていく
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次に同社の408スタジオで音楽のプリミックスを行った。楽曲は楽器のステム32個で構成されているため,各楽器のバランスを取って5.1chにまとめていった
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ミックスの最終段。今回はダイアログ(dialogue,キャラクターボイス)がないので,7つの効果音セッションと,音楽のセッションのみをファイナルミックスしていったとのことだ

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 長谷川氏いわく「(立体視用の立体音響だからといって)特別に何かのエフェクタを通したり,特別なフォーマットに準拠したりするわけではない」。立体音響の歴史は,少なくとも立体視と比べれば古く,かなり前から基礎となるものは確立されている。なので,ベースはあくまでも通常の5.1chのサラウンドミックスになるというわけだ。それを踏まえつつ,3D立体視向けの色づけをどう行うかという話になる。

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 と,ここで長谷川氏は,立体音響の歴史を簡単に振り返った。
 最初は,1台のスピーカーから1音が再生される,モノフォニック(monophonic)と呼ばれるものだった。そこから下って1881年,アデールとい人がステレオフォニックテアトロフォーン(Stereophonic Theatrophone)というものを発明し,フランスのオペラ座からステレオでオペラを発信したと言われている。
 1931年にはブルームラインという人がステレオ録音の特許を取得して,ステレオでレコーディングできるようになった。1952年にはNHKが,第一放送からLチャネル,第二放送からRチャネルを放送するという形で,2台のラジオを用いたステレオ放送を行っていたりもする。

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 次に,1940年のディズニー映画「ファンタジア」で,センターチャネルが増えた。LCRの3.0chになったわけだ。
 そして1977年,「スターウォーズ」と「未知との遭遇」では,「Dolby Stereo」方式(※左右,センター,リアの4.0chサラウンドを2.0chステレオ記録する方式)により,4chで劇場公開された。Dolby Stereo方式は世界中で普及し,現在でも映画のアナログトラックとして用いられているほか,DVDやBlu-rayではDolby Surround,ゲームでは5.0chマトリックス方式のDolby Pro Logic IIシリーズとして発展し,採用されている。

 その後,1992年には「Dolby Digital 5.1」が発表され,翌年には「DTS Digital Surround」(5.1ch),「SDDS」(Sony Dynamic Ditital Sound,7.1ch)も登場して,今日(こんにち)的な立体音響のベースができあがる。現在では5.1chに留まらず,7.1chや9.2chなどなど,さまざまなサラウンドシステムが誕生しているが,基本となるのは5.1chのサラウンドミックスなのである。


立体視映像に向けたサウンドミックスのキモ


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 長谷川氏が3D立体視映像向けのサウンドミックスをするにあたって行うことは,映像を何度も見て,「何が前に飛び出していて,何に奥行きがあるのか」を確認する作業という。ここでサウンドデザインのイメージを膨らませるのが重要で,それは,後々のパニングや音の強弱設定,EQ(イコライザ)設定に影響してくるからだ。

 たとえばパニング。自動車が前にぐんと飛び出してくる映像があるとして,平面視映像の場合,たとえばRチャネルからLチャネルへとパニングを振ったりするだけなのだが,手前に飛び出してくる場合はパニングも「ぐーんと」(長谷川氏)大きくなる。振り幅が大きくなるのである。

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 一方の奥行き処理に関して,氏はリンゴの絵と,「ザワワ〜」「さわさわ」といった文字が書かれてたスライドを示した。
 「ザワワ〜」が近い音。奥で鳴っている「さわさわ」した音のほうに奥行き感を持たせたいと考えたときに何が有効かというと,まずはEQ処理だと長谷川氏は断言する。音というものはだんだんと減衰していく特性を持っているので,音源が遠くなればなるほど音は小さく聞こえるようになるわけだが,このとき,とくに高周波が大きく減衰すると言われている。そこで,これをうまく利用して高周波成分を少し削り,ぼやかした音というか,輪郭を少し削ってやれば,奥まった感じになるわけだ。

 それから直接音と反射音である。室内だと初期反射音が存在し,それによって人間は空間の大きさを認識できる(※初期反射音が「どのくらい時間が経ってから聞こえるか」を人間は空間把握に使う)。なので,残響をつけることによって奥行き感を出すこともできるのである。

 難しいのは屋外の処理だが,屋外でも完全に拡散する(=初期反射ゼロ)ということはないため,短めのリバーブ(reverb,残響)を少し付加したりするそうだ。それでもまだ音がぼやけないときは,スピーカーから一度出力し,それをオフマイク(※音源からマイクを離した状態)で録音したりすることもあるとのこと。
 あとは基本的なことだが,音の強弱をつけ,手前の音をより大きくすることで,相対的に小さい音をより奥で鳴っているように感じさせることもできると,長谷川氏は述べていた。

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 以上,音の定位には,時間差や位相差,音量差,周波数特性差などさまざまな要因があるのだが,「加えて,人の経験で補正されて空間認識が行われると言われている」と長谷川氏。
 人間は左右など,平面的な音の定位を感じ取りやすい一方,上下方向や前後方向の認識は多少曖昧になるとのこと。なので,EQと残響をうまく融合させて立体感を出していくのが肝要だという。

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 それから大事なことだが,音の定位を認識するにあたって,視覚はとても重要である。「視覚は音の定位において,音よりも優位」(長谷川氏)なのだ。
 なので,音で奥行き感などを出し切れなかったとしても,絵に助けられることはよくある。例えば,今回のプロモーション映像で,矢が奥から手前に向かって飛んでくるとき,音はスピーカーより外側には行かないものだが,映像では矢が飛び出てくるように見えるため,体験する人の側では,あたかも矢の音が外に飛び出ているような錯覚を起こす。人の認識が映像に引っ張られるところをうまく利用するということである。

 ここまで来ると,次は音楽のプリミックスである。
 音楽のプリミックスにあたって最初に行ったのは「だいたいの楽器をLCRに配置して,ベースとなる部分をしっかり作っていくこと」(長谷川氏)だそうだ。左からバイオリン,ビオラ……といった具合に各楽器を定位させていき,左・センター・右で音を固めていく。そのうえで各楽器にアンビエンス(残響)――つまりディレイやリバーブを適用し,空間を表現していったという(※序盤でふれたとおり,今回はダイアログがないため,センタースピーカーが使われている。ただ,ダイアログが入る場合,センターは使われないことが多い)。

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 もっとも,このままでは作曲家の石元氏によるオファーにあった「面白い空間を作りたい」という要望を満たせなかったと長谷川氏。そこで,石元氏とやりとりをしながら,コーラスやパーカッションを利用して効果をつけていくことにしたのだそうだ。具体的には以下のとおりである。

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男声コーラスと女声コーラスがあるとこで,前者を前から後ろ,後者を後ろから前に交差させてみたりしたとのこと(左)。また,別のコーラスでは石元氏から「地面から這い上がるような感じで」という依頼があったため,センターから思い切ってリアチャネルへパニングしている(右)
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映像中,ずっとシーケンシャルに鳴っているメタルパーカッションは,ぐるりと一回転させ,サークルディレイをかけて360度回転させた(左)。ミリタリードラムが使用されていたところでは,後ろから「ずんずんずん」と迫り来るようにパニングさせたとのこと(右)

 最後はファイナルミックス。ここではまず,平面視の映像でだいたいのバランスをとっていき,その後立体視用のメガネをかけて,立体映像を見ながら補正していくという手順をとったと長谷川氏は述懐する。
 アクティブシャッター式のメガネをかけると視界が暗くなってしまい,機材の操作がしづらくなる。そのため,2段階の作業を行うことにしたのだという。若干ではあるものの,平面視と立体視ではバランスが変わってくるので,最終的には立体視を見ながら調整するのがよいと長谷川氏はアドバイスしていた。とくに,立体視用と平面視用とでサラウンドミックスを使い回す場合は,立体視用に作ったものをそのまま平面視用でも用いると音が派手になりすぎることがあるため,注意が必要とのことだ。

 「立体視の映像と合わせるからといって,こうしなければいけないということはない」という言葉が,長谷川氏のプレゼンテーションにおけるまとめである。

今回は2分のプロモーションビデオということで,けっこう派手なミックスをしたそうだ
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 と,ここで油井氏が再び登場。今回のコンテンツ制作をソニーPCLと共同で行った結果は社内でも好評で,満足していると補足しつつ,最後に質疑応答が行われた。3問,その内容をざっくり紹介しておきたい。

質問1:家庭用テレビと,映画館の大画面プロジェクターではパニングに違いが出るのか。
長谷川氏:違いは出る。実のところ,今回紹介した映像はもともと劇場用に作られていたのだが,その話がなくなったため,劇場用に大きくパニングさせていた部分などを変更するなど,DVD用に再編集した。

質問2:立体音響と立体視対応ゲームの相性についてどう思うか?
油井氏:個人的にはまだ立体視対応ゲームに携わっていないが,ニンテンドー3DS向けの開発に携わっているスタッフに訊くと,ハード上の制約によるものかどうか,通常の音作りとはとくに変わっていない。今後,ハードが進化したときに,新しいことができればいいかなと思っている。
長谷川氏:映画や劇場で得られる効果を家庭でも出せるよう努力していきたい。

質問3:ハードウェアメーカーとしての質問。今後スピーカーを増やすとして,どこに置けば効果がでるであろうか。
長谷川氏:上下方向がやはり出しにくいので,上方にスピーカーがあると(※LCRの上),よいのではないか。ただし,それを行っても,奥行き感は出せない。出すために,センターと左,センターと右スピーカーの間に追加のスピーカーを設置する人もいるようだ。


セッションでは,ソニーPCLスタジオがリニューアルされた点も報告された。以前はいちいち出し入れして,必要に応じてセンタースピーカーの前に置く必要のあった立体視対応テレビが,常設の立体視対応プロジェクタとワークテレビ切り替えられたそうだ。これによって,平面視と立体視の映像を切り替えて作業できるようになったという
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 ……現在の「サラウンド」サウンドは,基本語意のとおり,「包み込む」ような立体感を維持しながら,要所要所のポイントとなる音だけをダイナミックに動かしたり,リアスピーカーを効果的に使用してトリッキーな「効果」を得たりする,「静と動」のメリハリをつけた方向性が主流となっている。

 映像が立体視対応になったことで,絵の印象に合わせ,従来よりも大きく定位を動かす必要は出てきたが,それでも従来の5.1chマルチチャネルミックスがベースだと繰り返す長谷川氏の主張には,現場で日々エンジニアリングを行っている方の言葉として重みがある。日々エンジニアリングを行っている人からすると,当たり前すぎるほど当たり前のことではあるのだが,知らない人には驚きだったのではないだろうか。

 「新しい技術」というと,何でも新しい技法を使わなければいけないと思いがちだが,オーディオの世界は,映像の世界より歴史がある。長谷川氏も述べていたように,モノフォニックがステレオフォニック――現在の「ステレオ」になったときだって,「立体音響」と呼ばれていたのだ。
 立体音響は,ゆっくりと時間をかけて進化してきたものであり,大部分のノウハウや技法は“枯れた”ものであり,それをどう組み合わせるかこそが,エンジニアの腕の見せ所になる。そう,「こうすれば立体になる」という,夢のような技法は,少なくとも音響の世界にはないのだ。「皆さん勘違いしないでね」という内容のメッセージが,開発者向けカンファレンスたるCEDECの会場で発せられたことには十分な意味がある。

 正直,今回紹介された技法は非常にオーソドックスなもので,立体音響の制作経験があるプロからすると目新しさはそれほどないのだが,そうでない人達を一定のステージへ“引っ張り上げ”,経験者と未経験者の間にある理解度の差を埋める,いい意味で教科書的なプレゼンテーションだったと思う。

 しいていえば,会場にセットされたスピーカーのサラウンドの設定が今ひとつで,デモで十分なサラウンド感を得られなかったのは残念だったが。
  • 関連タイトル:

    DISSIDIA 012[duodecim] FINAL FANTASY

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