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このライトノベルは本当にすごい? 「放課後ライトノベル」第10回は,「このラノ大賞」大賞受賞作『ランジーン×コード』を紹介
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印刷2010/09/18 10:00

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このライトノベルは本当にすごい? 「放課後ライトノベル」第10回は,「このラノ大賞」大賞受賞作『ランジーン×コード』を紹介



 今やアニメやマンガ,ゲームにならぶオタク系コンテンツの一つとなったライトノベル。ここ数年,毎年いくつもの作品がアニメ化されているが,もちろんそれ以外にも多数の作品が刊行されており,その数は年間で1000作品近くにも及ぶ。レーベルも10を軽く超えてなお増え続けており,面白い本を求める読者にとっては「時間がない」「お金がない」と嬉しい悲鳴を上げる状態が続いている。

 そんな戦国時代さながらのライトノベル界に,この9月,また一つ新たなレーベルが加わることになった。宝島社から創刊された「このライトノベルがすごい!文庫」(通称「このラノ文庫」)だ。

 仰々しいレーベル名は,母体となった書籍『このライトノベルがすごい!』に由来する。2004年から毎年刊行されている同書は,読者投票によるランキングなどを通して,その年最も熱かったライトノベルを紹介するガイドブックだ。これまで読者目線で「ホントに面白いライトノベルを紹介」してきた同書だが,今度は「ホントに面白い作品を生み出す」べく,昨年「『このライトノベルがすごい!』大賞」として新人賞をスタート。このたび第1回の受賞作5作品が,このラノ文庫の創刊ラインナップとして刊行されることとなった。

 ある意味最近のライトノベルを知り尽くした,最後発のレーベルだけあって,5作品はいずれも今のライトノベルの傾向を踏まえながら,さらにその先に行こうとしているような印象を受けた。今回の「放課後ライトノベル」では,その中から栄えある大賞受賞作『ランジーン×コード』を紹介しよう。

画像集#001のサムネイル/このライトノベルは本当にすごい? 「放課後ライトノベル」第10回は,「このラノ大賞」大賞受賞作『ランジーン×コード』を紹介
『ランジーン×コード』

著者:大泉貴
イラストレーター:しばの番茶
出版社/レーベル:宝島社/このライトノベルがすごい!文庫
価格:480円(税込)
ISBN:978-4-7966-7882-7

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●作品世界を特徴付ける,言葉が生んだ獣――コトモノ


 舞台は現代日本。「ポッキー」「iPod」といった,我々にも馴染みのある単語もしばしば登場する,現実とさほど変わりない世界。その中で一つ大きく異なるのが「コトモノ」なるものが存在する点だ。

 コトモノとは,「遺言詞(いげんし)」と呼ばれる言葉によって,脳が変質し,通常とは異なる現実を認識するようになった人間のこと。具体的には,たとえば〈インビジブルB〉というコトモノは,自分が透明人間になったと思い込んでいたり,〈天歩人〉というコトモノであれば,天と地がさかさまになっているように感じていたり。実際には起こっていない出来事が,そのコトモノにとっては真実となっているのだ。
 こうしたコトモノの特性は,遺言詞によって別の人間に伝わり,新たなコトモノを生む。人とコトモノ,異なる現実を生きる二つの生命が共存する世界。それが『ランジーン×コード』の舞台だ。

 注目すべきなのは,そうしたコトモノが存在する世界というものが,実に説得力のある描かれ方をしているというところ。多くのコトモノは,同じコトモノ同士で「詞族」というコミュニティを作って生活しているが,中には社会に有益/有害な性質を持ったコトモノもおり,人々はそうしたコトモノたちとの共存の仕方を模索し続けている。

 産業に役立つ性質を持つ詞族と契約し,各所に派遣することを業務としている企業,そうして管理されるようになったコトモノの行く末を憂う科学者,詞族を持たないコトモノを保護し,共に生活している人間……。コトモノに対するさまざまな考え方が,個々のキャラクターに反映され,やがてはストーリー展開にも大きく絡んでくる。コトバのケモノ=コトモノによって作られる,現代ファンタジー世界を存分に堪能してほしい。


●人とコトモノの間で生きる主人公,ロゴの苦悩と決意


 また,コトモノ自体が非常にユニークなのもポイント。
 すでにいくつか例を挙げたが,それ以外にも,視覚ではなく聴覚によって世界を認識する〈G-BAD〉,風の音によってコミュニケーションを行う〈カゼヨミ〉,自分の記憶を自在に編集できる〈マキモドシマイマイ〉など,この1冊の中だけでも非常にバラエティ豊かな多数のコトモノが登場する。

 ストーリー上重要な役割を担ったり脇役だったりと扱いはさまざまだが,共通するのはそれぞれのコトモノが「自分なりの現実」を生きているということ。たとえば,コトモノはあくまで本人の認識が変わるだけであり,現実がそのとおりになるわけではない。そのためコトモノたちは,自分の認識と現実とのギャップを埋めるために,さまざまな工夫をしながら生活している(前述の〈天歩人〉であれば,ワイヤーで天上から吊り下がって生活している,など)。こうした細かな描写の積み重ねによって,コトモノたちがそれぞれの現実――『物語』の中で生きていることが,読者にもしっかりと伝わってくるのだ。

 もちろん異なる現実の中で生きている以上,時にその現実同士がぶつかり合い,対立することもある。人間の中には,理解できない存在としてコトモノを嫌悪する者もいるし,コトモノにも人間と相容れず,仲間同士だけで生きている者たちがいる。主人公の武藤悟朗(むとうごろう,通称ロゴ)はしばしば,両者の間で思い悩むことになる。

 ロゴもまたコトモノであり,コトモノと対面すると,そのイメージを自動的に絵にするという能力を持っている。とはいえそれは左手に宿った〈ダリ〉によるもので,彼自身の外見や自意識は人間そのもの。人間でもあり,コトモノでもあるロゴは,幼いころからコトモノと接し,その表も裏も目にしてきた。今では投げやりに「コトモノと関わるのは本当に面倒くさい」と語るロゴが,物語の中でどう変わり,どんな答えを導きだすのかに注目してほしい。

 なお,ロゴは描いたコトモノをコトモノートという1冊のノートにまとめているのだが,巻末にはそのノートを模した,作中に登場するコトモノたちをまとめたリストが掲載されている。物語の内容に大きく絡むため,読むのは本編読了後をおすすめするが,読めばコトモノという存在への理解が深まること間違いなし。巻が進み,収録されるコトモノが増えていったりすると「ポケモン」的な楽しみも出てきそうで,今後の展開への期待も高まる。


●謎が謎を呼ぶ事件,痛みと喪失の果てにある真実とは


 物語は,全国で起きている詞族連続襲撃事件にロゴが巻き込まれるところから始まる。事件の中で,襲撃者の正体が幼なじみの真木成美(まきなるみ)と知ったロゴ。かつて誰よりもコトモノと,彼らの持つ『物語』を愛していた少女は,その『物語』ごとコトモノを喰らう存在へと変わり果てていた。成美の目的は何なのか。彼女が狙う謎の少女・名瀬由沙美(なせゆさみ)の正体とは。一見単純に見える事件は,その裏に隠されたものが明らかになるにつれ,一気に広がりを見せ始める。

 大人たちの都合に振り回され,迷いながらも真実を追い続けるロゴ。時に悲劇に見舞われ,自身も傷ついてなお立ち上がるロゴの姿は,まさに「等身大のヒーロー」という言葉がふさわしい。そして終盤では,コトモノの特性をフルに生かした一大スケールのバトルが展開する。

 言葉をモチーフとしたコトモノという斬新な設定,各人の思惑が複雑に絡まり合うストーリーライン,それぞれの信念をもって行動する登場人物たち,そして何より,それらすべてを包み込む重厚な世界観。もちろん新人らしい粗もあるにはあるが,上に挙げた要素は些細な欠点など補って余りあるパワーを持つ。これが大賞に選ばれたのもさもありなん,といったところだ。

 ストーリー自体はこの1巻できれいにまとまっているが,設定的には今後いくらでも続けられそうなポテンシャルを秘めている。幸い,2巻の刊行も予定されているとのこと。これから本編を読む人も,読めばきっと,次にロゴたちに出会える日が楽しみになるはずだ。

■注目の「このラノ大賞」受賞作をまとめて紹介

『僕たちは監視されている』(著者:里田和登,イラスト:国道12号/このライトノベルがすごい!文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/このライトノベルは本当にすごい? 「放課後ライトノベル」第10回は,「このラノ大賞」大賞受賞作『ランジーン×コード』を紹介
 昨年の今ごろに募集を開始した第1回「『このライトノベルがすごい!』大賞」は,大賞500万円,総額およそ1000万円という破格の賞金で話題となった。そのためもあってか,4か月という短い期間でありながら,今年1月上旬の締切までに700作を超える応募があったという。多くのライトノベル系新人賞のように,最終選考委員に作家を置くのではなく,評論家や書店員といった,「読み手のプロ」「売り手のプロ」が就いているのが特徴。なお第1回には,特別選考委員としてライトノベル好きで知られる女優の栗山千明さんが参加している。『ランジーン×コード』以外の受賞作は以下のとおり。
 他者の秘密を知りたくて仕方がなくなるIPI症候群という病の治療のため,日常をリアルタイムで配信する少女たちの交流と友情――今トレンドの動画配信サイトなどの要素を取り入れた金賞『僕たちは監視されている』(著:里田和登)。
 横浜の街を,異色の主人公・マウスが疾走する! 独特の言語感覚と作品世界が選考会で物議を醸したという栗山千明賞『ファンダ・メンダ・マウス』(著:大間九郎)。
 ダメ大学生が一人の少女と出会い,非日常へと足を踏み入れていくという,しがない日常描写と神話的スケールとが同居する不思議な読後感の特別賞『伝説兄妹!』(著:おかもと(仮))。
 才色兼備だが性格に難アリの暴走少女と妄想癖激しい少年による爆笑のラブコメディ,優秀賞の『暴走少女と妄想少年』(著:木野裕喜)。なお,5作品とも480円(税込)とお手ごろ価格。5冊まとめ読みすれば,レーベルの方向性が何となく見えてくる……かも。

■■宇佐見尚也(ライター)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。ほぼ創刊直後からかかわっている『このラノ』から新レーベルが立ち上がり,驚きつつも感慨深いものを感じている宇佐見氏。いまは受賞作を一通り読み終え,好みはあれどどの作品も見るべきところがあってひと安心しているとのこと。今後どんな作品が飛び出してくるのか,長い目で見守っていきたいところです。
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