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もしも魔法少女が実在したら!? 「放課後ライトノベル」の第5回は『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』で魔法少女の“その後”を考えてみます
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印刷2010/08/14 10:30

連載

もしも魔法少女が実在したら!? 「放課後ライトノベル」の第5回は『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』で魔法少女の“その後”を考えてみます



 アメリカンコミックス界の鬼才アラン・ムーアが手がけた,『ウォッチメン』。昨年(2009年)映画化されたこともあって,ご存じの人も多いだろう。
 スーパーヒーローたちが実在する東西冷戦下のアメリカを舞台に,架空のアメリカの歴史を描いたこの作品は,綿密な設定,各所に張りめぐらされた伏線,そして,ヒーローという存在に新しい角度から光を当てたことで,大いに話題を呼び,数々の賞を受賞した歴史的名作である。

 どうして,この連載とは関係なさそうなアメコミの話を突然したかというと,今回の「放課後ライトノベル」で紹介する作品はこの『ウォッチメン』を大幅にオマージュし,魔法少女と組み合わせて,血と暴力の世界を描いた異色のライトノベル,『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』だからなのです。関係大アリっす。

画像集#001のサムネイル/もしも魔法少女が実在したら!? 「放課後ライトノベル」の第5回は『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』で魔法少女の“その後”を考えてみます
『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』

著者:伊藤ヒロ
イラストレーター:kashmir
出版社/レーベル:一迅社/一迅社文庫
価格:670円(税込)
ISBN:978-4-7580-4168-3

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●魔法少女たちの挽歌


 異世界から来た怪物“鬼魔”と魔法少女たちが争っていた’90年代。死闘の末,魔法少女たちによって“鬼魔”は一掃され,再び世界に平和が戻った。しかし,“鬼魔”がいなくなったことで,強大な戦闘能力を持つ魔法少女たちの存在が新たに問題視されることになる。
 そこで政府は本作のタイトルにもなっている「魔法少女禁止法」を施行する。魔法少女の存在が法律によって規制された結果,ある者は逮捕され,ある者はステッキを置いて引退する。

 そして’90年代に活躍したすべての魔法少女がいなくなったあとも,たった一人で活動を続けるのが,おしゃれ天使スウィ〜ト☆ベリー(24歳)だ。
 可愛らしい名前とは裏腹に,彼女は夜の街を見回り,犯罪者を見つければ暴力で押さえつける。さらに魔法少女禁止法の存在もあって,彼女は犯罪者と同時に警察までも敵に回し,孤独な戦いを繰り広げていた。

 そんな彼女の元に現れたのが,本作の主人公・魔法少女サクラ
 魔法少女でサクラと聞くと,カードをキャプターする某少女を思い出す人も多いだろうが,こちらのサクラの本名は佐倉慎壱である。名前のとおり性別は雄,男の娘である。
 チンピラに襲われていたところをベリーに助けられたのをきっかけに,ベリーに憧れるようになり,幼馴染が持っていたステッキを借りて,魔法少女(?)に変身することに成功。魔法少女サクラとして,ベリーとともに魔法少女としての活動を始める。

 そして,二人が街で自警活動をしていたある夜,ベリーは暴力団員を締め上げている最中に,その暴力団員から,元魔法少女の一人・金城マリーが死んだことを知らされる。マリーが何者かに殺されたと考えて,ベリーは事件の調査を始めるのだが……。


●魔法少女と『ウォッチメン』のパロディの数々


 本作でまず目を見張るのが,魔法少女という設定とは縁遠く思える,暴力描写の数々だ。彼女たちが戦うのは,異世界からの侵略者などではなく,暴力団であったり,麻薬のディーラーであったりという,普通の犯罪者だ。一般的な魔法少女のようにビームを使うと相手を殺してしまうので,死なない程度の暴力(肋骨を肺に刺さるように折る,手足を折って交差点に投げ込むなど)に訴えかけるしかないのだが,結果として血は流れるし,骨も折れる。

 一方,ベリーを追うのは暴力団や国家権力なので,直接的な銃火器による攻撃や,身内を狙って拉致監禁を仕掛けるなど,現実的な暴力をもってベリーを追い詰めようとする。
 魔法少女というメルヘンチックな設定にもかかわらず,現実で起こりうる暴力の連鎖をごまかさずに書いているのが本作の特徴の一つ。
 しかし何より本作の最大の特徴は,作品全体に『ウォッチメン』や,’90年代に放映されていた魔法少女アニメに対するオマージュというべきネタを散りばめているところだろう。

 そもそも「魔法少女禁止法」というメインアイディアが,『ウォッチメン』に登場する,政府公認ではないヒーローの活動を制限する「キーン条例」のパロディである。また,キャラクターたちの設定にも,『ウォッチメン』を意識したものが多数含まれている。

 たとえば,スウィ〜ト☆ベリーは犯罪者たちに加える制裁として指をぽきぽき折っていくが,これは『ウォッチメン』に出てくるヒーローの一人,ロールシャッハが尋問をする際に指を折っていくシーンのパロディであり,ベリーが体臭を《おしゃれ☆パフューム》でごまかしたりしているのも,犯罪者たちから体臭を揶揄されるロールシャッハのパロディだったりする。

 また,IQ300の頭脳と「世界一頭のいい少女」というキャッチフレーズを持つ,元魔法少女・水貴宇美は,『ウォッチメン』に登場する天才ヒーロー・オジマンディアスと,「美少女戦士セーラームーン」のセーラーマーキュリーこと水野亜美の設定をうまく掛け合わせたものとなっている。

 パロディにしているのはキャラクターだけではない。たとえば各章題は「ミラクル・ロマンス」「天使の羽は無いけれど」といった魔法少女アニメの歌詞を取り込んだものや,「ウィッチメン」というそのまんまなものなど,パロディとなっている箇所は細部にまで行き渡っている。
 元ネタを知らなくても充分に楽しめる作品であるが,『ウォッチメン』と読み比べてみるとより楽しめる。また,DVDなどで元ネタになっている’90年代の魔法少女の活躍をチェックしてみるのも良いだろう。


●夢見る少女じゃいられない


 本作に出てくる,元魔法少女たちのその後は実にさまざまである。
 “魔法少女研究家”としてメディアで活躍する者や,結婚して家庭を築いた者など,順風満帆な人生を送っている者もいれば,一方では犯罪者として捕らえられた者や精神を病んで隔離病棟に入院している者もいる。
 かつて世界を救った少女たちも,年を取れば,一人の女性として生きていかなければならない。過去の経験を糧に成長する者もいれば,その重みに耐えかねて潰れてしまう者もいる。

 魔法少女が魔法少女でいられる時間は大変短い。戦いが終わっても人生は続いていく。そうした先人たちの結末を踏まえて,作中で唯一,十代の魔法少女であるサクラ(♂)がどのような道を歩んでいくのか。
 この作品はその設定から一発ネタに思われるかもしれないが,けっして単なる一発ネタではない。

 オマージュ元の『ウォッチメン』がスーパーヒーローという存在に新しい光を当てたように,『アンチ・マジカル』も「魔法少女」の物語に新しい光を当てて見せようとする意欲作なのである。この作品が今後どのような展開を見せてくれるのかを,ぜひ見守っていきたい。

■合わせて読みたい,ライトノベルの魔法少女モノ

『これはゾンビですか? 1 はい、魔装少女です』(著者:木村心一,イラスト:こぶいち むりりん/富士見ファンタジア文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/もしも魔法少女が実在したら!? 「放課後ライトノベル」の第5回は『アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜』で魔法少女の“その後”を考えてみます
 「魔法少女」というジャンルは本来小さな女の子向けのものだが,では健全な青少年が主な対象であるライトノベルに魔法少女モノがはたしてどれだけあるかというと,結構あるのだ。
 まずは,GA文庫から出ている『おと×まほ』(著:白瀬修)。母親の陰謀によって,長い髪がトレードマークの中学生,白姫彼方(♂)が魔法少女にされてしまうという正統派(?)男の娘ものだ。
 だぶだぶのYシャツにミニスカートという男心をくすぐる衣装がグッとくる。男だとバレないように,スカートの下にスパッツを履いているというのもポイントが高い。
 次はアニメ化も決定した,富士見ファンタジア文庫の『これはゾンビですか?』(著:木村心一)。こちらは正確には魔“法”少女ではなく,魔“装”少女。本作で魔装少女になる主人公は相川歩(♂)。こちらは外見が一般的な男子高校生なので,魔装少女の格好をするとただただ残念な感じに……。男の娘への道は険しい。けど,強いです。武器がチェーンソウですから。骨が折れたり,腕がちぎれたりしても戦えます。ゾンビですから。
 魔法少女の話なのに,男が変身する話ばかりを紹介するのもアレなので,最後にスーパーダッシュ文庫から出ている『魔法少女を忘れない』(著:しなな泰之)を紹介。主人公・北岡悠也と,義理の妹として家にやってきた“元”魔法少女,北岡みらいの交流を描いた作品だ。
 今回紹介したほかの作品とは違い,派手なバトルなどはないけれど,世間ずれしていない妹と兄の微妙な距離感をしっとりとした文章で読ませ,ラストはちょっぴり切ない。シリーズものではなく,一巻完結で手に取りやすいのもポイント。
 ちなみに魔法少女とは関係ないが,主人公の悠也がメイド服に身を包むシーンが出てくるぞ! ……他意はないんですよ。いや,本当に……。

■■柿崎憲(ライター)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。前回,初登場にしていきなり自らの残念な放課後エピソードを告白してくれた柿崎氏だが,どうやら某魔法少女アニメにもトラウマがあるご様子。「小学生の頃は気づかなかったけど,アニメ版のタキシード仮面って,大学生なのに中学生に手つけてたのか! すげえな! 羨ましいな! 僕も大きくなったらタキシード仮面になるよ!! って思ったけど,タキシード仮面の年齢を越えていたことに気づきました。死にたい」とのことでした。どうか強く生きてください。
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