連載
「放課後ライトノベル」の第3回は,TVアニメもスタートした『オオカミさんと○人間になりたいピノッキオ』で真人間を目指してみる
夏だ! 祭りだ!! KOFだ!!!
格闘ゲームの人気が絶頂期だった1990年代中ごろから2000年代初頭にかけて,毎年夏の時期に最新作が登場してきたことから,当時からの格闘ゲーマーにとっては夏の風物詩といっても過言ではない,KOFシリーズ。最新作の「THE KING OF FIGHTERS XIII」が先日から稼動開始したが,皆さんはもうプレイしただろうか?
KOF 2003から続く「アッシュ編」の完結や新システムの導入など,いろいろな見どころがあるKOF XIIIだが,やはり注目すべきは初代餓狼チームの復活! さらにキムチームには初代「餓狼伝説」の敵キャラだった,ライデンにホア・ジャイという懐かしの顔ぶれが参戦!
ホア・ジャイなんてスーパーファミコン版の餓狼伝説(斬影拳の入力が異様に難しいアレ)でしか操作できなかったキャラなのに,まさか再び日の目を見る日が訪れようとは……。そう,時代は今まさに餓狼! きっとそうに違いない!
そんなわけで(?)今回の「放課後ライトノベル」では狼つながりで,TVアニメも放映中の『オオカミさん』シリーズ最新巻,『オオカミさんと○人間になりたいピノッキオ』をご紹介。
『オオカミさんと○人間になりたいピノッキオ』 著者:沖田雅 イラストレーター:うなじ 出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/電撃文庫 価格:578円(税込) ISBN:978-4-04-868645-7 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●御伽銀行のお仕事と愉快な面々
オオカミさんシリーズの舞台となっているのは,生徒収容数3000人を超すマンモス校,御伽(おとぎ)学園。その中で独自の立場を築いている組織が,御伽学園学生相互扶助協会,通称・御伽銀行だ。
御伽銀行では,助けや相談を求めて来た生徒を助けることで貸しを作り,その借りをほかの生徒を助けることで返してもらうという,助け合いの斡旋仲介業を行っている。
これだけ聞くとなかなか良さそうな組織ではあるが,学校中から集まってくる情報を利用して裏で暗躍したり,場合によっては無理矢理,強制的に借りを回収するなど,なかなかどうしてあこぎな組織だったりするのだ。
本作の主人公である,森野亮士(もりのりょうし)もそんな御伽銀行の一員。御伽学園高等部の一年生で,猟師の祖父と暮らしていたことで,パチンコによる狙撃や空気のように気配を消すことなど,さまざまなスキルを習得している。だが,極度の対人恐怖症かつ視線恐怖症のため,ヘタレ扱いされることもしばしば。そんな彼が御伽銀行に入ったのは,先に御伽銀行に所属していた,クラスメイトの“おおかみさん”にどっぷり惚れてしまったため。
本作のヒロインのおおかみさんこと大神涼子(おおかみりょうこ)は,口も悪ければ目つきも悪く,長いスカートに長く伸ばした髪の効果もあってスケバンのようにも見える。さらにボクシングで鍛えていて,御伽銀行の中でもかなりの武闘派。しかしそんなコワモテの外面は,自分の内面を隠すためのポーズで,実際の涼子は,少女小説を愛読したり,虫が苦手だったり,亮士に冷たくされてぽろぽろ涙を流してしまったりする女の子らしい女の子なのである。
ほかにも,幼い外見に反してかなりの腹黒な赤井林檎(あかいりんご)に,御伽銀行の「頭取」にして変装や声帯模写の達人・桐木(きりき)リスト,怪しげな発明や喋り方で場を引っ掻き回す魔女さんなど,個性豊かな人物ばかりがそろっている。
そして,そんな彼らの元には今日も今日とて助けを求めて,一癖も二癖もある生徒達が訪れる。
●登場人物のギャップに注目!
オオカミさんシリーズの最大の特徴となっているのが,誰もが知っている有名な童話や昔話をモチーフにパロディ化しているところだ。
ただし,冒頭の展開や登場人物の関係は元の物語に似ていても,物語が進むにつれて,元ネタから大きく離れていき,思いもよらぬ展開を見せてくれる。
たとえば,本作に登場する浦島太郎は,恋人である竜宮乙姫(りゅうぐうおとひめ)の手によって,元ネタどおり枯れた老人のような姿にさせられてしまうが,その原因は玉手箱を開けたわけではなく,いろいろ搾り取られた末の腎虚だったり……と,元ネタからは想像もつかないアレンジを見せてくれる。
また,このシリーズに顕著なのが,外面と内面にギャップがあるキャラが多いこと。ツンデレヒロインの涼子や,腹黒ロリの林檎はもちろん,ほかにも飄々(ひょうひょう)としているようで忸怩(じくじ)たるものを抱えている人がいたりと,どのキャラも一筋縄でいかない側面を持っている。
そうした元ネタとキャラクターのギャップや,キャラクターの外面と内面のギャップに注目しながら読み進めていくと,シリーズをより面白く読めることだろう。
●御伽銀行にやってくる人々
では,最新巻『オオカミさんと○人間になりたいピノッキオ』に収録されている4本の短編を紹介していこう。
◆「亮士くんピノキオと一緒に○人間をめざすことになる」
互いのフェティシズムについて大いに語り合う「紳士」の集いに通いつめていた亮士くんは,そこで出会ったピノキオ君こと日野基夫から「最近彼女が冷たい」という相談を受けるが……。
愛情は性欲に打ち勝つことができるのかという,思春期男子の永遠のテーマに切り込んだお話。好きな子を“おかず”にすると自己嫌悪に悩まされるので,似ているアイドルで我慢するという,ピノキオ君や亮士くんの考えを,誠意と取るか浮気心と取るかは難しい問題である。
◆「田貫さん宇佐美さんのせいでカチカチになって覚悟を決めることになる」
見た目は美少女,心は乙女,股間にナニがついている以外は完璧超人なオカマの田貫さん。そんな彼(彼女?)が,親友で腹黒ロリの宇佐美さんに酔った勢いで襲われて,股間のナニをカチカチにさせられてしまい……という駄洒落から始まる,女同士(?)の美しい友情を描いた一品。ところで男の娘と女の子の絡みってのも百合扱いになるんだろうか?
◆「おおかみさんかぐや姫の問題を陰ながら解決することになる」
涼子たちの担任である,竹取かぐや先生。生徒思いで優しいと評判の彼女だが,男性教員たちから求婚されると,どれに対してもキツい言葉で一刀両断してしまう。そんな中,三門先生がかぐや先生との仲を取り持ってほしいと御伽銀行に訪れた。かぐや先生にもいろいろな事情があるとはいえ,「頭髪が上手に生え揃ってから,出直してきてください」という断り文句は酷いと思うんですよ。だって頭髪はどうしようもないじゃないですか……頭髪は……(そっと後頭部に手をやる)。
◆「おおかみさんはこびとの国に迷い込んでこびとたちの争いに関わることになる」
純情そうだからという理由で,「マセ始めた同級生に現実の恋愛を教えてやってほしい」と小学生男子に頼まれた涼子。訪れた先の教室で,質問攻めにあったあげく,さらに実践を見せるということで亮士とデートをすることになるが……。
小学生達の要求に折れて,ついついノロケ話を披露してしまうおおかみさん。かなりデレてます。
今巻では,おおかみさんと亮士のイチャつきっぷりもだいぶ板についてきた感じがあるが,それもそのはず,あとがきによれば,『オオカミさん』本編は次巻で終了の予定らしい。物語はクライマックスを迎えようとしており,アニメのほうも絶好調。本作を読み始めるなら,まさに今このタイミングだ!
■たちまち分かる,沖田雅作品
『オオカミさん』シリーズの著者である沖田雅は,2004年『先輩とぼく』で第10回電撃ゲーム小説大賞(現・電撃大賞小説部門)銀賞を受賞し,デビュー。その後,2006年に立ち上げたオオカミさんシリーズがヒットし,2010年には漫画化,さらにはアニメ化される運びとなった。
『先輩とぼく』(著者:沖田雅,イラスト:日柳こより/電撃文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
沖田雅作品の特徴は,ギャグとパロディを散りばめたテンポの良い文体と,妙にアクの強いキャラクターたちによるラブコメ描写の数々。
デビュー作の『先輩とぼく』やオオカミさんシリーズでは,どちらかというとコメディ要素の割合が強いが,ラブ分に関しても抜かりはない。オオカミさんシリーズのサブヒロインである地蔵さんを主役にした『オオカミさんとスピンオフ 地蔵さんとちょっと変わった日本恋話』では,老け顔の花咲君に思いを寄せる一途な少女,地蔵さん(ストーカー→押しかけ女房へとクラスチェンジ)によるラブ要素を前面に押し出している。その濃厚なラブ分の多さは,あまりのイチャつきっぷりに読んでいて,思わず壁を殴ってしまう男子多数。
また話の中に,読んでいて辛くなるような展開が含まれていても,話の終わりにはきちんとハッピーエンドにまとめあげる。読んでいる最中は読者をとことん楽しませ,読後に後味の良い爽快感を与えるその腕前は,まさに純粋なエンターテイナーによるものだと言えるだろう。
|
- この記事のURL: