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[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい
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印刷2009/09/03 12:28

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[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい

ゲームにおける「漫画家と出版社の関係」を作りたい


 「年収1000万円超を稼ぐモバイルゲームのつくりかた」と題されたこのセッション。なんともナマな感じのするタイトルだが,担当したのはモバイルゲームのダウンロードサイトアプリゲットを運営するスパイシーソフトの山田元康氏だ。

スパイシーソフト 代表取締役社長 山田元康氏
画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい
 2001年にNTTドコモの一部携帯電話で「iアプリ」と呼ばれるサービスが開始された。これは,ご記憶の読者も多いだろう。一部の機種でJavaで書かれたプログラムが動作するというサービスで,現在もゲームをはじめとする数多くのアプリケーションが利用されている。
 サービス開始当時,筆者も技術的な興味からiアプリをいじっていたことがあるのだが,スパイシーソフトを経営する山田氏も同様だったそうだ。ただ,残念ながら当時のNTTドコモはベンチャーからの提案を受け付けるような企業ではなく,ならば自分でと立ち上げてしまったのが「アプリゲット」というサイトだったという。
 確かに,俗にいう「勝手アプリ」のダウンロードサイトとして,「アプリゲット」はかなり早い時期に立ち上がっていた記憶が,筆者にもある。

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PCソフトの開発をしていたがうまくいかず,iアプリに関連したサイトをNTTドコモに提案するが受け入れられず,ならばと立ち上げたのが「アプリゲット」だったと山田氏
画像集#003のサムネイル/[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい
アプリゲットにはフリーのクリエイターが作成したゲームが登録されている。ユーザーの間で口コミで広まり利用者が増え,収入が上がる人が出始め,クリエイターが増え……という「プラスサイクル」ができて急速に発展したと山田氏は語る
 いまでは,ゲームを中心に登録iアプリ数は約8000タイトル弱,iアプリを登録しているクリエイターの数は5000人に達するという大手のモバイルアプリダウンロードサイトに成長している。現在でも,アプリゲットに登録されているアプリのクリエイターは多くがフリーで,ゲームにしても既存のゲームベンダーが制作したタイトルではないということが大きな特徴だろう。

 山田氏によると,本格的にサイトが盛り上がりだしたのは「iアプリの制作で収入が上がる人が出てきた2004年頃から」だという。2004年というとデータ定額サービスが始まった頃でもある。
 また,5000人ものクリエイターがアプリゲットに集った理由として氏は「収入を上げたいという人ももちろんいるだろうが」と前置きしつつ「何かを作りたい,一人でも多くの人に見てもらいたいという気持ちからiアプリを作っているはずだ」と分析する。
 そうした中で大ヒットするゲームも登場している。その代表が「チャリ走」だ。

 「チャリ走」は横スクロール型のアクションで,障害物にめげずに自転車で走り続けるという実にシンプルなゲーム。グラフィックスはお世辞にも美しいとはいえないが,その“ヘタウマ”さかげんがなんとも奇妙なゲームワールドを作り上げている。

画像集#004のサムネイル/[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい
開発をはじめた当時は高校生だったというフリーのクリエイター,星野裕太氏が作成したゲーム「チャリ走〜全国一周〜」。2007年に大手ゲームベンダーのビッグタイトルを押さえて堂々の1位に輝いた
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初代「チャリ走〜全国一周〜」はこれ。お世辞にも美麗なグラフィックスとはいえない……というよりかなり酷い。しかし,これが受けたのである。世の中分からないものだ

 星野裕太氏は,現在もチャリ走シリーズの制作を続けており,なんと二十歳の頃に「年収1000万を超えた」そうだ。素人の作ったゲームが,大手ゲームベンダーの大作を抑えてヒットするという現実から「ゲームメーカーは要らないのではないかとさえ思える」と山田氏はいう。大手ゲームベンダーの開発者が集うCEDECだけに,なかなか刺激的な発言ではあるが,ヒットしたタイトルが実際にあるという現実があるだけに説得力はある。

画像集#006のサムネイル/[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい
ゲストとしてチャリ走シリーズの作者,星野裕太氏が登場。大学を中退し,現在はゲームの制作に専念しているという。チャリ走を作ったきっかけについて氏は「手始めにスーパーマリオのようなゲームを作ってみたが,あまりに似すぎて不味いと思い,身近にある自転車のゲームにしてみた」のだと語っていた
 「フリーのクリエイターからヒットタイトルが生み出される理由」として山田氏が引き合いに出すのが漫画だ。「漫画作家は一人で絵を描いてストーリーを書いている。だからこそ独創的なものが次々と生まれてくる。ゲームのクリエイターも同じではないか」(山田氏)というのである。

 そして,スパイシーソフト株式会社が目指しているのは「出版社と漫画家の関係」だという。「フリーのゲームクリエイターを積極的にバックアップして,気がづくと大きな成功が得られているという環境を作っていきたい」と山田氏はスパイシーソフトが目指す方向を熱く語る。その一環として,星野裕太氏と共同出資の形で会社を興す新たな計画なども紹介された。


PCゲームが過去にたどった道ではあるが……


画像集#007のサムネイル/[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい
公開予定というチャリ走の最新作。アイテムをゲットする新しい要素が取り入れられているという
 話を聞きながら筆者が連想したのがPCゲームの世界だ。PCゲームも黎明期はほぼすべて個人の手による作品だった。グラフィックスからプログラミングまで,すべて一人で制作するというのが,ごく普通だったのである。しかし,PCの性能が上がり,グラフィックスが高度になるにつれて一人での制作が困難になり,現在の高度な分業体制へと進化してきたわけだ。
 モバイルも同様で,現在では組込み向け3DグラフィックスAPIのOpenGL ESをサポートする機種が着実に増えつつある。ハードウェアの進化に合わせ,高度なグラフィックスや複雑なプログラミングが要求されるようになると,PCと同じように個人でゲームを制作するのは難しくなっていくかもしれない。
 だが,モバイルゲームにはPCゲームにない特性もある。山田氏がセッションの中でちらりと触れた「モバイルゲームは30秒で終わらせなければならない」という点だ。移動中にプレイするゲームだけに,さっと立ち上げ短時間で楽しめる必要がある。それだけに,アイデアだけで勝負できる余地は,PCゲームより大きいだろう。

画像集#008のサムネイル/[CEDEC 2009]モバイルゲームの世界で「漫画家と出版社の関係」を作りたい
フリーのクリエイター達に,一緒に年収1000万を目指そうと呼びかける山田氏。プロが多く集まるCEDEC 2009で呼びかけても賛同者は少なそうな気がするが……
 モバイルゲームがどうなっていくのか,PCゲームのように個人制作が入り込む余地が減っていくのか,あるいは山田氏が目指す方向が今後さらに拡大していくのか,筆者にはなんとも予測がつかない。
 ただ,本職のゲームクリエイター達も,フリーのクリエイターから飛び出してくるアイデアには魅力を感じているようだ。セッション後のQ&Aでも,星野氏に対して「アイデアはどう練っているのか」といった質問が寄せられていた。
 モバイルに限らず,ゲームの世界では常に斬新なアイデアが求められているわけで,思いも寄らないアイデアは本職よりアマチュアから飛び出してきやすいということは確かにあるかもしれない。フリーのクリエイターをバックアップしたいという山田氏の願いが,ゲームの世界をより豊かにしていく可能性は大いにありそうだ。
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