連載
【西川善司】間違ったHDMI接続だとこう見える
西川善司 / グラフィックス技術と大画面とMAZDA RX-7を愛するジャーナリスト
(善)後不覚 |
ここまで3回に亘(わた)って,HDMI接続時の階調設定が正しいか間違っているかを判断する方法について述べてきました。
→あなたのHDMIが正しく接続されていない可能性
→間違いだらけのHDMI接続
→「正しいHDMI接続」の確認方法
今回は,前回で予告したとおり,「映像出力機器側とディスプレイ機器側とで,階調レベル設定が合っていないとどうなるか」を見ていきましょう。
階調レベル設定が合っていないときの表示例
まずはPLAYSTATION 3(以下,PS3)側の「RGBフルレンジ(HDMI)」設定を,RGB 16〜235階調となる「リミテッド」にしつつ,手持ちのプロジェクタ「DLA-HD350」の「入力」設定を,RGB 0〜255となる「エンハンス」に指定します。
この状態で,前回紹介したテスト画像を表示させ,それを,これまた前回同様,手持ちのニコン製デジタルカメラ「D100」で撮影した結果が,下の画像です。
たいへん重要なことなので,前回と同じことを繰り返しますが,この画像は,プロジェクタが表示した映像を,デジタルカメラで撮影したものになります。デジタルカメラは,撮影した写真を画像データ化するに当たって,独自の階調特性に基づいて処理しますし,そもそも,ディスプレイ機器側が表示する映像のダイナミックレンジの一部分しか撮影できていないため,ここで示した写真はあくまで参考程度にしかなりません。実際に表示されていた映像の階調特性と,この写真は見た目としてまったく違うのです。なので,あくまで「話を進めるうえでの参考資料」と考えてください。
とはいえ,相対的に見る分には,十分に価値のあるデータなのも確かです。ここで,前回お見せした「正しい接続例」から,映像出力機器側とディスプレイ機器側の階調レベル設定を0〜255にしたときの表示と比べてみましょう。サムネイルでも,よく見れば違いは分かりますが,できれば,両方とも拡大画像(※サムネイルをクリックすると別ウインドウで表示します)をダウンロードして,ビューワで順番に見る,あるいは画像処理ソフト上で重ねるなどして,比べてみてください。
正しくないほうの写真が,正しいほうと比べて,暗部ブロックが明るく,明部ブロックが暗くなっているのが分かるでしょうか?
こういう表示になるのは,「互いの階調レベルがあっていないから」という単純な理由によるものですが,もう少し詳しく説明すると,「映像が220段階(16〜235)の表現幅しか持たないのに,256段階(0〜255)の表現幅で表示しているから」なんです。つまり,暗部は急激に明るくなりやすく,一方,最明部は階調の落ち込みが急激になって,暗くなりやすくなるというわけです。
暗部が明るく明部が暗く見えるために,「全体的に情報量の多い表示だな」などと好意的に思い込んでしまう人は多いはず。このケースは,たくさんの映像機器を見た経験がないと,なかなか見抜くのが難しいのです。このパターンに陥っていながら,とくに疑問も持たず,日々を送っている人は少なくないように思います。
続いて,逆のケース,つまり,映像出力機器側の階調レベルを0〜255,そしてディスプレイ機器側を16〜235とした場合の表示を見てみましょう。
結果は,下に示したとおりです。
こちらも,実際に目で見えているものとは違いますが,相対的な特性の違いはちゃんと捉えられています。暗部が過度に沈んでしまっていつまでも明るくならず,一方,最明部付近は飛び気味になって,明るいまま,なかなか暗くならない階調特性になっています。
これは,前出のケースよりは見分けやすいといえますが,コントラスト感が強く表示される傾向にあるため,パリっとした見え方を好む人だと,「お,映像が立体的に見えるじゃん」と,好印象を持つことがあるかもしれません。でも,これは間違った表示です。
暗部が沈みがちで,明部が飛び気味,そしてやたらコントラスト感が強い表示になっているときは,こちらの問題が生じている可能性が高いといえます。
実写写真で見え方を確認してみよう
表示に用いた写真は,ボクが個人的に撮影した,とあるエンジンです。
結果は,以下のとおりです。いずれも,表示映像をデジタルカメラで撮影したものなので,実際に目で見えた映像とは違うのですが,相対的には,各設定の特徴を十分に表しています。サムネイルでもおおよそは掴めますが,できるなら,拡大画像で比較してください。
左上と左下が,0〜255,あるいは16〜235階調で揃った,正しい表示です。
右上は,エンジンの排気パイプ周辺が明るくなりすぎ,また,写真左上の台や,右下のビニール(※サムネイルだと,文字がかかっているので見えません。拡大画像で確認してください)などのハイライトが暗くなっているのが分かります。
最後に右下は,排気パイプ周辺が黒っぽくなってしまい,さらには,左上の台や右下のビニールといったハイライトが,完全に飛び気味となっています。
ここまで読み進めて,思い当たる節があるなら,ぜひ,テスト画像を用いて,正しくないHDMI階調表現になっていないか確認してみましょう。せっかくのHDMI機器の表現ポテンシャルを活かし切れないのは,HDMI機器にとっても,ユーザー自身にとっても不幸なことですから。
さて次回は,「HDMI階調レベル設定の機能を持たない機器」を取り扱います。
■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。4Gamerの連載「3Dゲームエクスタシー」をはじめ,オンライン/オフラインのさまざまなメディアに寄稿したり,バカゲーを好んでプレイしたり,大画面にときめいたり,観切れないほどBlu-rayビデオを買ったり,オヤジギャグを炸裂させたりして毎日を過ごしている。 |
- この記事のURL:
キーワード