レビュー
6年ぶりの新作となる「Dellのゲーマー向けディスプレイ」は買いなのか
Dell S2417DG
明確にゲーマー向けとされる製品は,2010年国内発売の「ALIENWARE OptX AW2310」しかなかったDellが,6年ぶりの新製品「S2417DG」を国内発売したのだ。
発表時のニュース記事でもお伝えしているように,S2417DGは,24インチワイドで解像度2560
「Dellブランドらしく,万人向けを狙いつつ,ゲーマー向けの要素も足した製品」と思っていると足下を掬われるというか,同価格帯にある他社のゲーマー向けディスプレイと比べても遜色のない本気度が感じられると述べていいように思う。
では,S2417DGという「Dellのゲーマー向けディスプレイ」は,実際のところ,どこまでゲーマー向けなのだろうか。今回4Gamerでは,Dellの日本法人であるデルから短期間ながら実機を借りることができたので,気になる性能に迫ってみよう。
組み立てやすく,洗練されたデザインの筐体を持つS2417DG
S2417DGはパネル部と脚部,台座に分かれた3ピース構造で,組み立てはいたって簡単。パネルを下に向けた状態でパネル部を平らな場所に置いたうえで,脚部の爪をパネル部の穴に合うよう填め込み,さらに台座を蝶ネジで固定するだけである。
インタフェースの数が少ないのはG-SYNC対応ディスプレイの宿命的な部分はあるのだが(関連記事),それでも,あと1〜2系統は入力があってもよかったようには思う。
なお,S2417DGはUSB 3.0ハブ機能と,(DisplayPortもしくはHDMIで入力した)サウンドの出力機能も持っており,アップストリームのType-B端子
ちなみに,S2417DG自体はスピーカー非搭載だが,ここをマイナスポイントと考えるゲーマーはそれほど多くないだろう。
また,スタンドはピボット(旋回)のほか,スイーベル(左右回転)とチルト(傾き)もサポートをしており,いずれも調整時の動きはとても滑らかだった。このあたりはさすがDell製ディスプレイといったところである。
なお,スタンドとケーブルも含む公称重量は約6.09kgとなっている。
付け加えると,表面のノングレアパネルがベゼルの一部を覆っているため,額縁は実際よりもさらに細く見えるデザインとなっている。
OSDの操作系はすこぶる残念。画質は良好な一方,メニューの設定項目は最小限
S2417DGでベゼル下辺の右側に寄った計5ボタン中,左の4個がOSD操作用,右の1個が電源オン/オフ用なのだが,4ボタンはメカニカルスイッチで固く,おまけにOSD側の反応も鈍い。ディスプレイ自体がピボットに対応している関係で,固いOSD操作ボタンを押すと画面が傾いてしまうというオマケ付きだ。
とくに最近のゲーマー向けディスプレイは,手元で操作できたり,PCやモバイルデバイスから挙動を制御できたりと,使い勝手に力の入っているものが多いが,それと比べると,S2417DGの前世代感はものすごい。ひょっとするとここの仕様が追いつかなかったがゆえに,今回,ALIENWAREブランドの名を冠さなかったのではないかと思えるほどである。
左から3つめのボタンを押すと,こんな感じでOSDアイコンがポップアップする。アイコンの位置は下のボタンの位置と揃っていた |
最も左の「ショートカット1」にはデフォルトで「色」メニューが割り当てられていた。「色」メニューの実際の機能は後述する |
こちらは左から2つめの「ショートカット2」には,出力音量設定が標準では割り当てられている |
気を取り直して画質関連をチェックしていこうと思うが,前述のとおり,S2417DGは速度性能を優先してTN方式のパネルを採用するため,角度による色の変化は大きい。ただ,24インチワイドという大きすぎないサイズということもあり,正面から見据えることになる実際の利用シーンにおいて,TN方式の欠点は気にならなかった。
一方,24インチで解像度が2560×1440ドットということもあり,ドットピッチは0.2058mm(≒123ppi)と,かなり小さい。結果として,目の前に映る映像は非常に高精細だ。デスクトップの実用度から言えば,この解像度なら27インチくらいは欲しいのだが,ゲーム用途では,24インチで解像度2560
また,表面のノングレア(非光沢)加工は,映り込み低減にも効果がある。ゲーム用途での画質は文句なしに良好だ。
一方,ゲーマー向けディスプレイによくある「ゲームモード」的な機能は,お世辞にも充実しているとは言いがたい。一応,色合いの設定項目「色」には「FPSゲーム」「RTSゲーム」「RPGゲーム」という3種類のゲームに適した(とメーカーが判断している)プリセットモードは用意されているものの,これらは文字どおりの色合い設定でしかないのだ。
たとえば,他社のゲーマー向けディスプレイだと,FPSモードを選ぶと,さまざまな機能をバイパスして遅延を低減する機能が有効になったりするが,S2417DGでは単に色合いが変わるだけ。色温度値が示してあるわけでもない「標準」「暖色」「寒色」も含め,カスタマイズすら不可である。
ユーザー側で色合い設定を行いたい場合は,「ユーザーカラー」を選択して,RGB各色の指定をパーセンテージで指定することになる。
OSDアイコンを開いた状態で左から3つめのボタンを押してOSDメニューを開き,「色」→「プリセットモード」と進んでいくと,ゲーム用のプリセットを選択できる |
ユーザーカラーを選択したところ。RGB各色の強度を0〜100%の範囲で調節できる。ユーザーカラーの設定はこれだけ |
どんな風に色合いが変わるのか,今回はユーザーカラー以外の6プリセットを選択のうえ,画面を撮影して比較することにした。
今回は暗めのシーンとしてPlayStation 4用タイトル「Bloodborne」,明るめのシーンとしてPC版「Fallout 4」のスクリーンショットを用いたが,結果は下に結果で示したとおり。他社のゲーマー向けディスプレイだと,ゲーム系のプリセットを選んだときには暗部の視認性を向上すべくガンマ設定を弄っていたりするが,S2417DGだと,それほど極端な設定になっておらず,若干持ち上げ気味になっている程度なのが分かる。また,それゆえに,明るいシーンで破綻はなく,そういうところからも,単なる色合い調整機能であることを確認できよう。
ULMB(Ultra Low Motion Blur)は,G-SYNCを無効化のうえ,垂直リフレッシュレートを85Hzか100Hz,120Hzのいずれかに指定したときに利用できる,映像の残像感低減機能で,簡単に言うと,テレビ製品などにもある黒挿入機能である。G-SYNCとは排他となる,あくまでも映像再生用の機能だが,G-SYNCディスプレイとして,ULMBがきちんと機能することは確認できた。
S2417DGのOSDメニューには「応答時間」という項目があり,「通常」と「高速」を選択できる。「高速」は他社製品で言うところの,液晶のドライブ信号を工夫して応答速度を速めるオーバードライブを有効にするものだ。
ただ,結論から先に言ってしまうと,S2417DGの「高速」を使うことはまずないだろう。というのも,「高速」選択時の画質劣化が著しいためである。
今回は,EIZOが提供している「Motion Blur Checker(Beta)」を使って4Gamerロゴを1ドット単位で横スクロールさせ,その様子をソニー製コンパクトデジタルカメラ「DSC-RX100 M4」から960fps撮影し,それを1080/24p再生したもので比較を行うことにした。S2417DG側のリフレッシュレート設定は144Hzとしている。
下に示したムービーを見てもらうとすぐ分かるが,「応答時間」を「高速」にすることで,ロゴの縁(へり)に不自然なリンギングが生じてしまう。結果,一見するとゴーストっぽく見えるという,他社製のオーバードライブを強くかけたときにもよく観察される症状が出た。
確かにスクロールはシャープになるが,それと引き替えに見た目の印象は悪くなるので,画質劣化を我慢してまで「高速」を利用するメリットはないというのが筆者の意見だ。
なお,これ以外に画質や速度性能に関する項目はない。G-SYNC対応ディスプレイの場合,映像エンジンの重要な部分をNVIDIA製のカスタムチップが支配するため,メーカー側で凝った実装するのは難しいのだが,案の定という感じになっている。
垂直リフレッシュレート165Hz対応+G-SYNCの威力は十分すぎるほど
ハードウェアと設定周りを概観したところで,S2417DGで最も気になる部分のチェックに移っていきたい。
S2417DGは標準時の垂直リフレッシュレートが最大144Hz対応で,「リフレッシュレートのオーバークロック時には」165Hz設定が可能というのが公式スペックだが,そもそもの話として,S2417DGは,ただPCと接続しただけだと,垂直リフレッシュレート最大144Hzのディスプレイとして認識される仕様だ。
選択すると,画面中央付近に下に示すとおりのアラートが出てくる。分かりにくい文章なのだが,ここで[はい]を選択すれば,自動的にディスプレイが再機動して,オーバークロック設定が有効になるという仕掛けだ。
オーバークロックを行ってディスプレイを再起動したら画面に何も表示されなくなった場合は,いったんDisplayPortを抜いて差し直すとリセットがかかる仕様にもなっている。
さて,「高い垂直リフレッシュレートでヌルヌル」というのは今更繰り返すまでもないと思うが,S2417DGはそれに加えてG-SYNCをサポートする。なので今回は,「GeForce GTX 1080 Founders Edition」搭載システムを使って,G-SYNCを絡めてチェックしてみることにした。
ここでテストに使ったタイトルは「Project CARS」だ。144fps以上が出る設定でProject Carsを実行し,リプレイを前述のDSC-RX100 M4から,やはり960fps撮影する。それを1080/24p再生して,何が起きているか見ようというわけである。
G-SYNCを有効化にすると,フレームレートはディスプレイの上限リフレッシュレートで抑えられるのが普通だが,今回のテストシステムだとリフレッシュレートは150fpsを超えてくる。すると,G-SYNCでは生じないはずのテアリングが,ごくまれに生じるのを確認できたのである。画面奥(=上)で横に流れる柵に注目してもらうと分かりやすいだろう。
とても不思議な現象で,S2417DG独特の挙動だと思われる。
では,垂直リフレッシュレートを165Hzまでオーバークロックするとどうなるのかというと,予想どおり,G-SYNC有効時のテアリングは綺麗に消える。GeForce GTX 1080を持ってしてもProject CARSで165fpsを超えるのはなかなか難しい――解像度を下げたりグラフィックス設定を下げたりしても,先に相対的なCPUボトルネックがやってくる――ため,165fps超級でテアリングが出るのかどうかまでは分からないのだが,「144Hz設定時にG-SYNCでテアリングが生じた場合,垂その直リフレッシュレートのオーバークロックは有効」とは言えるだろう。
ちなみに,「165Hz+G-SYNC」の威力はなかなかのもので,映像のスムーズさに目を奪われる。いったんこの環境に慣れると,他の環境に移るのが難しくなるのではないかと思うほどだ。
測定環境の限界から遅延検証結果は微妙なものに
筆者の手元にあるノーブランドのHDMIスプリッタだと,垂直リフレッシュレートは60Hzまでの対応なので,同じく60Hz対応のS2417DG側HDMIと接続したうえ,今回はこの条件におけるテスト結果を参考として示しておきたい。ここで使うツールは「LCD Delay Checker」である。
比較対象として用いるのは,4Gamerの比較用リファレンスであるBenQ製ディスプレイ「XL2430T」。本機は垂直リフレッシュレート最大144Hz対応だが,HDMI入力時は最大60Hzなので,60Hzに設定のうえ,動作モードは「FPSモード」,パススルーモードにあたる「Instant Mode」は有効という,最も遅延が小さくなる設定で,S2417DGと比べてみる。
下に示したムービーは,前半がS2417DGの「応答時間」を「通常」,後半は「高速」にしたものだ。「通常」だとS2417DGのほうがXL2430Tよりもやや大きな遅延がある。「高速」にすると緩和されるが,再生を一時停止しながら調べた限り,1フレーム未満の遅延がやはり生じているようである。
念のため,「色」→「プリセットモード」から「FPSゲーム」「RTSゲーム」「RPGゲーム」に切り替えて遅延をテストしてみたが,やはりというか何と言うか,前述のとおり,これらは色合いのみを変える機能であって,遅延状況に違いはなかった。
なお,今回は,時間の許す限り足掻こうということで,手元のGeForce GTX 1080 Founders Editionと,「GeForce GTX 980 Ti」搭載グラフィックスカードを使い,カード上にある複数のDisplayPortが持つ組み合わせを全部試し,同じタイミングで出力できる組み合わせがないか試したのだが,つなぎ換えると遅延の発生する,一貫性のない結果になった。なので,グラフィックスカードのデスクトップミラーリングで遅延計測を行うのは,少なくとも試した限りでは不可能だ。
したがって,非常に残念すぎる話なのだが,DisplayPort接続して高リフレッシュレート設定したときの遅延テストについては,今後の課題ということにさせてもらいたいと思う。
ALIENWAREブランドを冠していないのは納得。しかしコストパフォーマンスは高い
以上,駆け足ながら,S2417DGを評価してみた。
画質面や速度性能面における機能並びに設定項目の少なさ,そしてOSDメニューの操作系に対する工夫のなさは,確かにALIENWAREグレードではない――というか,市場で先行する他社のハイクラスモデルと,総合的な完成度で戦えるレベルにはない――わけで,S2417DGがDellブランドで出てきた理由は,このあたりに求めることができそうだ。
機能の貧弱さとOSDメニューの使い勝手の悪さにさえ納得できるなら,2016年9月時点において,最もコストパフォーマンスの高いディスプレイだと結論付けることができるだろう。
S2417DGをAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
デルのS2417DG販売ページ
- この記事のURL: