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垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
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印刷2012/10/20 00:00

レビュー

「最大垂直同期周波数144Hz」はゲーマーに何をもたらすのか

ASUS VG278HE

Text by 米田 聡


VG278HE
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ASUSコールセンター 0800-123-2787(平日9:00〜18:00,土日9:00〜17:00)
実勢価格:4万5500〜5万円程度(※2012年10月20日現在)
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 ASUSTeK Computer(以下,ASUS)から,10月上旬に,最大垂直同期周波数(=リフレッシュレート)144Hzというスペックの,27インチワイド・解像度1920×1080ドット液晶ディスプレイ「VG278HE」が発売になった。

 NVIDIAの3D立体視技術「3D Vision」「3D Vision 2」に対応したディスプレイ製品では垂直同期周波数120Hz仕様のものがすでにいくつも存在しており,一般的な60Hz仕様のディスプレイと比べて,描画の滑らかさ,俗に言う「ヌルヌル感」が違うということは,4Gamerですでに検証済みだ(関連記事1関連記事2)。
 そのためVG278HEには,「NVIDIAの3D立体視技術に対応するディスプレイとして必須の垂直同期周波数」を超えた144Hz表示がもたらす,さらなるヌルヌル感の向上が期待されるわけだが,実際のところ,「プラス24Hz」にはどれだけの意味があるのか。また,そもそもどのグラフィックスカードとの組み合わせで144Hz表示は可能なのだろうか。

 今回4Gamerでは,そんなVG278HEをASUSから借り受けることができたので,144Hz表示を中心に,ゲーム用途を前提とした使用感をまとめてみたい。


3D Vision 2対応もメガネは付属せず

すっきりしたデザインだが,使い勝手には一部疑問も


 というわけで,さっそく組み立てていこう。VG278HEは本体と台座の2ピース構成で,組み立ては両ピースを付属の蝶ネジ×2で固定する仕様だ。重量は8.1kgあるうえに27インチものサイズではあるが,1人で組み立てられないこともない。

2ピースの組み立て式となるVG278HE。台座部と本体と合わせた状態で付属の蝶ネジ2本で固定する仕様だ。なお,本体は100×100mm仕様のVESAマウンタ対応
画像集#003のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す 画像集#004のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す

台座ほか,製品ボックスの同梱物一式。ディスプレイケーブルはDual-Link DVI-DとアナログRGB(D-Sub 15ピン)が付属する。3D Vision 2対応ディスプレイではあるが,アクティブシャッター式メガネは付属しない
画像集#005のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 グラフィックス入力インタフェースはDual-Link DVI-DとアナログRGB(D-Sub 15ピン),HDMIの3系統。3W+3Wの2chステレオアンプとスピーカーが内蔵されており,HDMI経由で音声も出力するよう出力機器側で設定しておけば,そのままサウンドを出力できる。
 また,3.5mmミニピンのアナログライン入力とヘッドフォン出力が用意されており,ヘッドフォンを接続すると出力が自動的にこちらへ切り替わるようにもなっている。

本体向かって背面右の電源端子(左)と左の入出力インタフェース群。いずれも本体背面で下側に向かって用意される。アクセス性がいいとはいえず,コネクタ類の付け外しは結構面倒だ
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 ただし,本体左右背面,左右のスリット部に埋め込まれるスピーカーは,籠もった感じの,「いかにも」といったチープな音で,お世辞にも音がいいとは言えないレベルにある。なら,ヘッドフォン出力を使おうかと思うと,ヘッドフォン出力端子はディスプレイ入力系と同じ場所で,着脱するとき毎回手探りになり,大変使いづらい。ヘッドフォンを常時接続しておくのならアリかもしれないが,筆者はVG278HEのサウンド機能を使う気にはなれなかった。

光沢加工の額縁は好き嫌いがはっきり分かれそうだが,全体としてすっきりした外観なのは好印象
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 額縁は光沢のあるピアノブラック加工で,好き嫌いが分かれそうな印象だが,余計な装飾やボタンが表面に置かれていない,すっきりしたデザインになっているのは万人向けと述べてよさそうだ。
 額縁の太さは下側で実測約25mm,左右と上は同23mmで,狭額とまではいえないが,画面との比率的にはバランスのいい太さではなかろうか。

 「ボタンが表面にないなら,操作はどうするのか」と思った人もいるだろう。VG278HEでは,本体向かって右下部分の下面に合計7個のボタンが並んでおり,ここで操作することになる。

ボタンは本体下側に向かって少しずつ飛び出しているが,電源ボタンだけはその飛び出しが大きく,またLEDが光るようになっている。LEDの色は,電源オン時が青色,スタンバイ時が黄色。角度的にインジケータが見づらかったりすることもあるのだが,LEDが煌々と光るのを見せられるのも鬱陶しいので,これはこれでアリかもしれない
画像集#009のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 ボタンは向かって右端から順に,電源,入力切替,[上],OSDメニュー表示および「決定」となる[MENU],[下],アナログRGB入力時にのみ機能する表示位置自動調整用の[A],後述する「Splendid」モード切替および「戻る」用の[S]となっている。[上][下]は[上]ボタンを先に押したときは輝度の上げ下げ用,[下]ボタンを押したときは音量の上げ下げ用,OSDメニュー表示時には選択項目の上げ下げ用として機能する。

 ただ,これだけずらっと並んでいると,さすがに押し間違えやすい。たとえば「戻る」に使う[S]ボタンが一番左にあるため,[A]ボタンと間違えてしまったり,「決定」に使う[MENU]ボタンが左右中央なので[上][下]と押し間違えたりといったことが起こりやすかった。ボタンが下向きになっていて,手のひらを返して操作することになるのも,押し間違えやすさを助長しているように思われる。

 本体の公称サイズは横幅が643mm,台座の奥行きが249.7mmだが,設置や調整を考えると,設置場所は最低でも650(W)×300(D)mmくらいの余裕があったほうがいいだろう。
 ディスプレイは,高さと左右方向の角度(スイーベル),上下方向の角度(チルト)調整に対応。ASUSの公式スペックだと高さの最小値は437.8mmとされているのだが,実測では453〜545mmの範囲を無段階で調整できるようになっていた。マニュアルでは,高さ調整を100mmの範囲で可能とあるのだが,それよりは若干短いことになる。

標準で取り付けられている本体背面のピン(※輸送用時に高さ調整が機能しないよう固定するピン)を抜くと,高さ調整を行えるようになっている。ピンは最も低い状態で固定するためのものなので,なくさないためにも,一度高さ調整を行ったら差しておくのが正解だろう(※写真の状態では,最も低い状態で固定できない以外は普通に調整できる)
画像集#010のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す 画像集#011のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す

 チルトは下5度,上15度で,スイーベルは左右150度。スイーベルはかなり大きな範囲で調整できるが,後述するように液晶パネルはTNなので,上下左右とも,あまり角度を付けすぎると画面の色が意図とは異なって見えるようになる。
 ちなみに公称の視野角は左右170度,上下160度。色の変化はもう少し浅い角度から生じるが,「何が映っているのか分かる範囲」は意外に広く,たとえば2人で横に並んで対戦ゲームをプレイするくらいなら不自由はない。

チルトのイメージ(左,中央)と,極端に上から覗き込んだところ(右)。黒地の白浮きが目立つようになる
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こちらはスイーベルのイメージ。やはり,左右に大きく振ると色に変調を来すが,何が映っているかは意外と判別できる
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144Hz表示に対応するのはGeForceのみか

3D Vision対応製品なら利用できる気配


表面はノングレア(非光沢)加工されている。グレア加工は見た目はいいものの,ゲームでは暗いシーンでの映り込みが気になることも多いので,ノングレア処理はありがたい
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 冒頭で述べたように,VG278HEは27インチワイド液晶パネルを採用するディスプレイだ。パネル解像度は1920×1080ドット。27インチモデルとしては解像度が高いほうではないものの,ドットピッチが0.311mmと広いので,見やすい表示になっているといえるだろう。前段で「何が映っているかが分かる範囲は広い」と述べたが,ドットピッチが大きい分,開口率も高いということなのかもしれない。
 もちろん,ピクセル密度は81.589ppiと低いので,画面が大きいぶん,表示がやや粗めという紹介も可能だが。

 高速リフレッシュレートに対応するパネルは現状TNしかないので,VG278HEが搭載するパネルはもちろんTN。応答速度はGray-to-Gray(GtG,グレー・トゥ・グレー)で2msとされている。輝度は最大300cd/m2だ。

 ……と,基本スペックを押さえたところで垂直同期周波数144Hzの話になるが,公式に144Hz対応を謳うグラフィックスカードというのは,少なくとも筆者の知る限り存在しない。というわけで実際に試してみることになるわけだが,テストしてみた限り,10月20日時点において,GeForceは対応するが,Radeonは対応していないようである。

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ELSA GeForce GTX 670 S.A.C接続時にWindowsの「ディスプレイのプロパティ」を開いたところ。「画面のリフレッシュ レート」から「144 ヘルツ」を選択でき,実際に表示もさせられる
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R7970 Lightningを差した状態で,「Catalyst 12.9 Beta」の「Catalyst Control Center」を確認したところ。最大75Hzになってしまう。「代替DVI操作モード」を設定したり,ドライバを「Catalyst 12.8」に変更したりしても変化はなかった
 今回のテストにあたっては,「GeForce GTX 670」を搭載するグラフィックスカード「ELSA GeForce GTX 670 S.A.C」をエルザジャパンから貸し出してもらったほか,独自に用意した「GeForce GTX 480」「GeForce GTS 450」カードを使ってみたが,いずれも垂直同期周波数144Hzの表示をサポートしていた。付属のDual-Link DVI-Dケーブルを用いれば,特別な設定も必要ないようだ。
 3D Visionに対応できるGPUを搭載したグラフィックスカードであれば,ほとんど対応できると見ていいのではなかろうか。

 一方,Radeonからは今回,「Radeon HD 7970」搭載のMSI製カード「R7970 Lightning」をMSIの代理店であるアスクから貸し出してもらい,また,独自に用意した「ATI Radeon HD 5770」カードでも試したが,いずれも144Hz表示は行えなかった。というか,120Hzすら不可だった。両GPUとVG278HEを接続すると,最大垂直同期周波数75Hzのディスプレイとして認識されてしまうのだ。

 比較対象機として用意した,3D Vision&垂直同期周波数120Hz対応のBenQ製ディスプレイ「XL2410T」では,Radeonでも120Hzディスプレイとして認識され,表示できる。したがって,75Hzというのはハード的な上限というよりむしろ,ディスプレイのモード認識周りに問題が生じた結果ではなかろうか。おそらく,Display Data Channel(DDC)を通じて送られてくるVG278HEのディスプレイの対応モード一覧を,Catalystが正しく取得できていないのだろう。
 少なくともテスト時点の最新版である「Catalyst 12.9 Beta」と,その1つ前の公式最新版「Catalyst 12.8」では最大75Hzと認識されてしまったので,これはもう,今後のドライバアップデートに期待するほかない。

画像集#020のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
ELSA GeForce GTX 670 S.A.C
静音クーラー搭載のコンパクトなハイエンドカード
メーカー:エルザジャパン
問い合わせ先:03-5765-7615(平日10:00〜18:00)
実勢価格:4万〜4万9000円程度(※2012年10月20日現在)
画像集#021のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
R7970 Lightning
MSIのフラグシップモデル「Lightning」のHD 7970
メーカー:MSI
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
実勢価格:4万1000〜5万円程度(※2012年10月20日現在)

 ちなみにVG278HE付属のマニュアルには,垂直同期周波数144Hz設定の注意事項として,「デュアルリンクDVIケーブル接続により互換NVIDIA-GPUグラフィックカードを使用する場合(中略)144Hz機能を有効化してください」という(分かりにくい)記述が見られる。ASUS側でも,NVIDIA製GPUの利用を想定しているらしい気配が窺えよう。

 というわけでなので,RadeonユーザーがVG278HEの購入を検討するのであれば,ドライバの対応を待ってからにしたほうがいい。現時点では,120Hz対応ディスプレイとしてすら使えないからだ。


144Hz表示の効果は「ある」が,効果は「微妙」

120Hzとの違いはほとんど分からず


 さて,144Hzの効果検証である。市場にはすでに120Hz対応のディスプレイが複数出回っているので,144Hzと120Hzとの間にどれだけの違いがあり,それを体感できるかがポイントになる。
 ゲームの場合,そもそも安定して平均144fps程度のフレームレートが出なければ,ディスプレイが144Hz表示に対応していても意味がないという,なかなか高いハードルがある。そこで今回は前出のELSA GeForce GTX 670 S.A.Cなど,のテスト環境で,垂直同期を無効化し,できる限り高いフレームレートが出るように設定し,140fps程度のフレームレートが期待できるタイトルいくつかを試してみることにした。

※GeForce GTX 480の使い道は後述する
画像集#043のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す

 以下,テスト結果はムービーで示していくが,ここではELSA GeForce GTX 670 S.A.Cのプライマリディスプレイ出力側にVG278HE,セカンダリ側にXL2410Tを接続し,クローン出力設定を行っている。
 Windowsの仕様上,プライマリディスプレイ側の垂直同期周波数設定を最大にすると,セカンダリ側も機器の最大で固定されるため,ここではVG278HEが144Hz,XL2410Tが120Hzとなる。テストに先立って,ディスプレイ側の情報表示で,2台のディスプレイの垂直同期周波数を確認済みだ。

 まずは,ヌルヌルと画面が動くことのメリットが大きなクルマゲームから,「DiRT 3」を試してみよう。
 DiRT 3では,ゲーム側のグラフィックスオプションからプリセット「MEDIUM」を選択すると,今回のテスト環境で平均140fpsを超えてくる。この状態でVG278HEと,前段で比較対象にするとしたXL2410Tを接続し,カシオ製ハイスピードカメラ「HIGH SPEED EXILIM EX-FH100」(以下,EX-FH100)を使って240fps設定で録画してみることにした。

 そのテスト結果が下のムービーだ。以下,2台のディスプレイを並べたムービーでは左がVG278HE,右がXL2410Tだが,ここでは「ガードレールの流れ方」を比較すると,VG278HEのほうがやや滑らかという違いが見られる。

 もっとも,それが人の視覚で分かるかというと微妙だ。というか筆者にはよく分からなかった。クルマ系は画面の動きが速いので,余計に分からないということはあるかもしれない。


 そこで,「Battlefield 3」(以降,BF3)から,もう少し動きがゆるやかな,ミッション「COMRADES」冒頭の車上シーンを比較してみよう。
 BF3では「ビデオ」の「映像品質」を「中」に落とすと,今回のテスト環境で120〜150fps程度が得られ,概ね140fpsを超えてきているので,これで見比べてみたが,違いが分かる場所はほとんどなかった。VG278HEのほうが滑らかに見える場所がないわけではないのだが,逆にXL2410Tのほうが滑らかに思えたりするところもあったりするので,やはり「微妙」という評価になる。


 そのほか,(垂直同期の無効化時に)144fpsを大きく超えてくるタイトルとして「Enemy Territory: Quake Wars」(以下,ETQW)も試したが,ETQWではそもそも高速な垂直同期周波数自体に意味がなかった。

 ETQWが採用しているゲームエンジンは,俗に「Quake 4系」と呼ばれる「id Tech 4」だが,これは競技を前提としていることもあって,初期は公平性の観点から上限60fpsの縛りがあった。この縛りは著しく不評で後に外されたため,ETQWでも,設定で上限を外せば,今回のテスト環境なら240fps以上を叩き出せる。
 しかし,内部のレンダリングパイプ自体が60fpsに最適化されているため,画面の動きは一定の滑らかさ以上にはならないようだ。フレームレート自体は144fpsを大幅に上回っていても,キャラクターやオブジェクトの動きはそれに追随できていないことが,下のムービーからは見て取れよう。古いタイトルでフレームレートが出るから144Hz表示の意味があるだろうというのは早計というわけである。


 実のところ,144Hzと120Hzの違いを実感できたのは,ゲームではなく,通常のWindows操作,たとえばウインドウ最大化/最小化のアニメーションだったりする。これは一目で120Hzとの違いが分かるほどだった。
 もちろん,60Hzと比べれば圧倒的にヌルヌル感が高いので,垂直同期周波数120Hz超級ディスプレイとしては十分すぎるほどの価値はあるが,120Hzからの「プラス24Hz」分の違いは微妙で,少なくともゲームプレイの体感を左右するほどのものではないというのが筆者の結論だ。


ASUS独自の映像エンジン「Splendid」を採用

コントラスト拡張機能「ASCR」には意味ありか


SplendidのプリセットはVG278HEのOSDで最も目立つ場所に置かれている
画像集#022のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 ボタンのところでその名を挙げたが,VG278HEは,ASUS独自の映像エンジン「Splendid」で,用途に合わせた映像へと自動調整する映像高画質化技術「Splendid Video Intelligence Technology」を採用している。VG278HEでは6種類のプリセットモードから選んで利用する仕様で,プリセットはOSDメニューから選択的に切り替えられるほか,本体右下部の切り替えボタンを押すごとに順繰りで切り替えていくことも可能だ。

 6種類のプリセットとその効果は下に示したとおり。VG278HEで用意される,画面を左右2分割してSplendidの効き具合を比較する機能「Splendid Demo Mode」を用いてBattlefield 3の一場面を撮影したもので,画面は左半分がSplendid無効,右が有効である(※Splendidの効果が無効になる「標準」と「sRGB」ではSplendid Demo Modeが機能しない)。

(C)2011 Electronic Arts Inc.
画像集#023のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
風景写真向けとされる「シーン」
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Splendidの効果を切っているという「標準」
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ビデオ再生向きとされる「シアター」
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文字どおりゲーム向けという位置づけの「ゲーム」
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暗めのビデオやゲーム画面に適しているという「夜景」
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IEC(国際電気標準会議)策定の標準色空間に即した「sRGB」

 上で示したのは明るいシーンなので,「夜景」モードの効果を見るべく,暗めのシーンもチェックしてみよう。
 実際に暗いシーンで「標準」「ゲーム」「夜景」の比較をしてみたのが下のスクリーンショットだが,「夜景」モードでは,「標準」と「ゲーム」と比べて,画面奥の壁が若干見えやすくなっている。ただ,極端なコントラストや色合いの調整は行われておらず,ごく控えめな印象なので,「ゲーム」と「夜景」は好みで選んでしまってもいいのではないかと思えるほどだ。

(C)2011 Electronic Arts Inc.
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 なお,Splendidのプリセットは決め打ちではなく,OSDメニューの「色」から明るさやコントラスト,彩度などを細かく調整して上書きできるので,とことん調整したいならこれを使う手もある。
 やり過ぎて何がなんだか分からなくなった場合,Splendidのメニューからデフォルト設定へ戻すこともできるので,その点は安心だ。

画像集#032のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
「色」メニューから明るさやコントラスト,彩度,肌の色合いなどを調整できる
画像集#033のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
プリセットに上書きしたユーザー設定は,Splendidメニューから簡単にリセット可能

 「色」メニューに用意された項目は一般的なテレビで見かけるものと基本的に同じなのだが,ASUS独自の「SmartView」は,マニュアルにも「画面の傾斜を調整し,よりクリアな画面にします」(原文ママ)とあるだけで,よく分かりにくい。使ってみた印象では,画面を斜めから見たときに自然な色合いやコントラストを維持できるようにするモードのようだが,実際には自然になるというより,画面が白っぽくなる効果のほうが強く感じられた。

「ゲーム」モードでSmartViewの無効(左)と有効(右)を比較してみた。SmartViewをオンにすると画面が白っぽくなるので,暗いシーンでは見やすくなる効果がある……とは言えなくもない
(C)2011 Electronic Arts Inc.
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「画像」メニューに「ASCR」が用意されている
画像集#036のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 もう1つ,「画像」メニューにある「ASCR」(ASUS Smart Contrast Ratio)にも触れておく必要があるだろう。
 ASCRはコントラストを5000万:1にまで拡張するという技術(※無効時は1000:1)で,「標準」と「sRGB」以外で有効化できる。ASCRは実際に効果がある印象で,とくにゲームでは画像の精細さが上昇したような感覚が得られる。
 通常のWindows操作時は画面がきつく見えるので無効化すべきだが,ゲームでは有効化するのもアリだ。

「ゲーム」でASCRを有効化したところ(左)。右はSplendidのプリセットを説明したときに用いた「ゲーム」の画面を参考までに再掲してあるが,ASCRの有効化によって,床の見える範囲が広がっていると分かる
(C)2011 Electronic Arts Inc.
画像集#037のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す 画像集#038のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す


VG278HEの遅延は若干ながら大きめ

Splendid回路の影響か


 最後にゲームで重要な遅延をチェックしてみよう。まずは一般的な60Hz表示からだ。
 60Hzの比較では,グラフィックスカードにELSA GeForce GTX 670 S.A.Cを利用。Gefen製のDVIスプリッタ「Gefen 1:2 DVI DL Splitter」(型番:EXT-DVI-142DL)を使って出力を2分割しつつVG278HEとXL2410Tに接続し,その状態で「LCD Delay Checker」(Version 1.4)を実行することになる。それを,前出のEX-FH100の240fps設定で録画するという流れだ。

 テスト時の設定は,VG278HEがSplendidの「標準」と「ゲーム」。比較対象となるXL2410Tでは「FPS」モード選択のうえ,パススルーモードに相当する「Instant」を有効化して,最も遅延の小さい状態にした。
 その結果が下のムービーで,144Hzのテスト時に気づいた人はいるかもしれないが,VG278HEのほうが遅延はやや大きい。遅延状況は「標準」と「ゲーム」でほとんど変わらず,LCD Delay Checkerの経過時間表示で比較すると,XL2410Tに対して最大で20ms前後の遅れが生じている気配である。


 20msというと60Hzで1フレーム以上となり,やや大きいが,これには理由がある。
 ASUSいわく,VG278HE内蔵の制御ボードは60Hz表示をハードウェアレベルではサポートしておらず,60Hz入力時にはフレームレートコンバータ(以下,FRC)を介しているとのこと。FRCの遅延は16.67ms(≒60分の1秒)前後になり,そのほかの遅延や誤差も含めると23ms程度の遅延が生じるのだそうだ。

 ムービーをよくチェックすると,遅延の大きさが20ms前後で揺らいでいるのを確認できるが,これはFRCの影響と見ていいだろう。遅延関連で問い合わせたところ,ASUSからは「100・120・144Hzならハードウェアレベルで対応しているため,ゲームで利用する場合は100Hz以上で使ってほしい」というメッセージが得られたので,VG278HEは,ゲーム用途で60Hz設定してはいけないディスプレイということになりそうである。

 なお,Splendidの効果を無効化する「標準」モードでも,Splendid映像エンジンの回路自体は通っているとのこと。「標準」にしても遅延状況に変化がないというのは納得できるところだ。

MSI製「N480GTX-M2D15」のGPUクーラーを「Accelero XTREME Plus」へ換装したもので120Hzクローン出力を試みた
画像集#039のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 では,ASUS推奨の120Hz表示だとどうなるだろうか。GefenのスプリッタはDual-Link対応なのだが,それでも120Hzには対応できないため,グラフィックスカードが持つ2系統のDVI出力を用いてクローンモードで比較せざるを得ない。
 ただし,グラフィックスカードによっては2系統のDVI出力に遅延状況の違いが生じるケースが多々あり,今回テストに用いるとしたELSA GeForce GTX 670 S.A.Cでも当てはまってしまった(※セカンダリのDVI出力で遅延がある)。そこで,事前に厳密な検証を行い,2系統のDVI出力に違いがないことを確認できている(リファレンスデザインの)GeForce GTX 480カードを用いることにした。のキャプションで後述するとしたカードだ。

 また,LCD Delay Checkerは120Hz表示に対応できないため,今回は「Refresh Rate Multitool」(Version 1.4)も用いる。クローンモードなので参考程度になることを踏まえつつ,下のムービーを見てほしい。

 Refresh Rate Multitoolでは(設定にもよるが)画面を横10×縦12に分割し,白い四角がきっかり1秒で左上から右下へ流れていく。その動きを比較すれば遅延状況が分かるという仕組みだが,ここでVG278HEはXL2410Tから若干遅れているように見える。


 Refresh Rate Multitoolでは具体的な遅延時間をチェックできないのだが,動画を一時停止し,「白い四角の書き換わり状況」で比較すると,ほぼ1フレーム弱程度遅れていることが確認できた。つまりXL2410Tに対して120分の1秒,約8.3msの遅延があるわけだ。
 ここで注目したいのは,60Hz表示設定時と比べると遅延の大きさが安定し,ムービーをどこで一時停止させても120分の1秒程度の遅れになっていること。ネイティブ対応の垂直同期周波数なので,60Hz時と比べて遅延は短くなり,また安定するというわけだ。

 あくまでゲーマー向けディスプレイたるXL2410Tと比べた場合の遅延ではあるものの,遅延が8.3ms以下であれば気になるゲームはさほど多くはないはずで,120Hz表示する限り,ゲームプレイ中に大きな遅延を感じることはないはずだ。

TraceFreeの強度は0〜100の範囲を20ステップ刻みで調整可能だ。数値が大きいほど応答速度は上がるとされる
画像集#040のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 ところで,ここまであえて触れてこなかったが,VG278HEでは,OSDメニューの「画像」以下に,「TraceFree」という項目が用意されている。TraceFreeというのは液晶パネルの残像感を改善する技術だそうで,設定値は0/20/40/60/80/100。初期値は60となっている。

 というわけで,120Hz表示設定時にTraceFreeを100にしてみたときのテスト結果が下になる。TraceFreeの値を上げるとバックライトの発光量を上げ,同時に発光時間を短くしているようで,120Hz表示時は,白い四角の明滅速度が標準の60よりも高速化したように見える。ただし,TraceFreeの値を上げても,遅延周りが改善するわけではない。


 要するにTraceFreeというのは,表示のもたつきを改善する機能と見てよさそうだ。人によるのかもしれないが,筆者はTraceFreeを100にしていてもとくに不自然さは感じなかったので,ゲーム用途では常時100設定でいいように思われる。


Splendidのパススルーモードは欲しかったが

120Hz超級の27インチディスプレイとしては価値あり


製品ボックス
画像集#041のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 以上,VG278HEを細かく見てきたが,ゲーマー視点では,やはりXL2410Tと比べて若干ながらも遅延があるのは気になった。ゲーマー向けを謳うXL2410Tのパススルー表示に対し,映像エンジンであるSplendid回路を通るVG278HEが表示遅延面で不利なのは致し方ないのだが,垂直同期周波数144Hzを謳うのであれば,同時に低遅延動作モードを用意してほしかったというのが本音でもある。

 また,すでに市場投入されている120Hz表示対応ディスプレイとの明確な違いがWindowsデスクトップ表示くらいでしか確認できないというのも,指摘しておく必要があるだろう。ゲーム用途では,120Hzと144Hzに大きな違いはないのだ。

VG278シリーズには,3D Vision 2対応エミッタを内蔵(というか搭載)し,アクティブシャッター式メガネが付属した「VG278H」という製品もある。はじめから3D立体視メインで考えるならそちらもありだろう
画像集#042のサムネイル/垂直同期周波数144Hzの効果はいかに? ASUS製ディスプレイ「VG278HE」を試す
 とはいえ,遅延は120Hz表示させる限りXL2410T比で10ms未満の気配であり,ほとんどの場合,遅延周りの不安は感じることなくゲームをプレイできるはずだ。また,120Hz超級の表示に対応するディスプレイとして60Hz表示に対するメリットは明確であり,高速ブラウン管ディスプレイに匹敵する144Hzという表示が行えるようになった意義も大きい。VG278HEは,極めて画期的というわけではないが,現状でトップクラスのゲーマー向けディスプレイといった印象である。
 120Hz超級の垂直同期周波数を持つディスプレイのなかで,VG278HEでなければならない理由は残念ながら欠くものの,「なるべく大きな画面の(3D Vision 2に対応した)高速液晶ディスプレイが欲しい。でも,ただ高速なだけではなく,ゲームプレイ時以外には映像エンジンを駆使してみたい」というニーズに応えられる製品が出てきたことは歓迎したいところだ。

 できれば,VG278HEをベースにした,それこそ「R.O.G.」ブランドのゲーマー向けディスプレイが出てきたりするとより面白いのだが。

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ASUSのVG278HE製品情報ページ

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