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印刷2019/07/08 00:00

業界動向

Access Accepted第617回:ある人気YouTuberの死

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第617回:ある人気YouTuberの死

 ファンの間では“エティカ”として知られていたYouTuberが自殺を遂げた。奇抜で大袈裟なリアクションが人気の人物だったが,友人や家族に秘めていた心の病があったらしい。なぜ,警察とのやり取りや,自分の人生を終わらせるという報告までソーシャルメディアで行ったのか? 彼の行動を追ってみたい。


人気YouTuber,エティカの死


 2019年6月24日,YouTubeの視聴者やファンの間で“Etika”(エティカ)というハンドルネームで知られた29歳のアメリカ人,デズモンド・アモファ(Desmond Amofah)さんが,自宅に近いニューヨーク州のイースト川で水死体になって発見された。彼のお気に入りのNintendo Switchが入ったバックパックがマンハッタン橋に置かれており,19日に飛び降り自殺を図ったとみられている。

29歳で命を絶った“エティカ”ことデズモンド・アモファさん。任天堂タイトルのファンで日本のアニメカルチャーも大好きなYouTuberとして知られていた
画像集 No.002のサムネイル画像 / Access Accepted第617回:ある人気YouTuberの死
 アモファさんは,「大乱闘スマッシュブラザーズ」「ポケットモンスター」などの任天堂タイトルや,日本のアニメカルチャーの大ファンとして知られており,エティカというハンドルネームも,「ソニックバトル」に出てくるカオスコンビネーションのパスワード「EkiTa」をもじったものだという。YouTubeに自分のチャンネル「EtikaWorldNetwork」を作成して動画配信を始めたのが2012年のことで,Nintendo Directなどの実況放送に自分の映像を重ね,番組内で新発表があるたびに大げさに驚いたり,体の動きで喜びを表現したりするオーバーなリアクションが話題となった。

 日本でも彼の人気は高く,その奇抜な髪型が「ストリートファイター」のガイルに似ていたことから“ガイル君”とも呼ばれていた。YouTubeでは最盛期に66万ほどのサブスクライバーを集めるという人気を誇り,またTwitchでは32万,インスタグラムでは25万ほどのフォロワーを獲得していた。彼の熱心なフォロワーやファン達は,アモファさんが名づけた“ジョイコンボーイズ”として知られている。

 そんな彼は2018年10月,Twitchでのライブ配信中に性的マイノリティへの差別用語とされる単語を使ったため,アカウントをバンされてしまう。その後,Twitterの生配信中にかかって来た友人からの電話でのやりとりの中で,黒人に対する差別用語を使ったことから,こちらのアカウントも失うことになる。これに対して,「黒人同士で,こうした用語を使うことは普通だ」と批判する怒りの映像をYouTubeに掲載したが,なぜかその直後にポルノ映像の配信を始め,活動の中心だった場所さえ無くすことになった。

彼のトレードマークだった,大袈裟過ぎるリアクション
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 これに失望したのか,アモファさんは10月25日,ソーシャルメディアに「どうやら自分の(死ぬ)順番が回ってきたようだ」というコメントを残し,当然ながら彼のフォロワー達から心配の声が上がった。
 しかし,このときには「世界を壊してやった:D」という謎の発言もしており,普段のエキセントリックな言動から,「ひょっとしたらARG(代替現実ゲーム)かなんかじゃないの?」といった意見も出て,この一件は見過ごされることになる。その後の3日間は何をしていたのか不明だが,以前からのYouTuber仲間だったフィオナ・ノヴァさんが10月28日,「エティカは大丈夫。今,彼は近しい友人達や家族と一緒にいるよ」とツイートし,アモファさんも同日,「ファンを騒がせてしまった」という謝罪文をRedditに書き込んだ。


警察とのやり取りまで実況中継


自殺をほのめかしたためファンに通報されたアモファさんだったが,警察がドアを破って入ってきてから30分間,その様子を動画配信し続けた
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 2019年に入り,YouTubeやTwitchのファンも戻りつつあったアモファさんだったが,4月16日,買ってきたばかりだというピストルを持った姿とともに,「今度こそ死ぬときだ。馬鹿な人間達よ,恥を知れ」とか,「ブルックリンに埋めてくれ」という投稿を始めたのだ。後日,分かったことだが,このときはアモファさんの友人がかたわらにおり,自殺をほのめかす言動が続いたために病院に向かっている途中だったという。しかし,彼の精神状態を知らない人達からは,「もうウケ狙いの馬鹿な行動しかしなくなった」といった意見が多くRedditに寄せられていたようだ。

 4月28日になると,アモファさんは彼の友人や有名なYouTuberに次々とダイレクトメッセージを送り,誠意ある回答がないとブロックするという行動を始めた。そのため,彼の友人達が心配して警察に通報したようで,29日にアモファさんの自宅マンションは警察の強制捜査を受けてしまう。驚いたことに,アモファさんはその様子をインスタグラムライブで実況中継し,その際にも「革命はテレビ放送されないぞ!」などと意味の分からない発言をしていた。ライブ放送を見たファンや野次馬が集まっていたのだろう,カメラのフレームの外からは囃し立てるような声も聞こえている。

 アモファさんはそのあと,拘束ベルトでベッドに縛られた状態で救急車に乗せられるが,入院はしなかったようだ。上記のノヴァさんは「彼は双極性障害の軽躁病と診断されており,過去にもこうした奇抜な行動をとっています。心配しないでください」とツイートした。アモファさんの病気が公にされたのはこれが初めてのことだったが,どうやら適切な診断を受けたにも関わらず,アモファさんは薬で症状を緩和するのを拒んでいたようだ。

キームスターさんも過激な言動で知られ,インタビューの際も白熱した口論になった。この時点でキームスターさんは,アモファさんの病気のことを知らなかったようだ
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 さらにアモファさんは30日,YouTubeニュースで有名なキームスター(Keemstar)さんのチャンネル「DramaAlert」のインタビュー映像に出演した。これは事前に収録されたものだったが,そこでアモファさんは「人生はビデオゲームだ」や「すべてはボクが仕掛けたとおり,予定どおり進行している」「ボクはアンチクライストで,世界に死をもたらす」といったことを早口でまくし立てている。
 ただ,キームスターさんは「収録していないときは,フォロワー数が増え始めていることを報告するなど,いたって普通な様子だった」と語っており,このときキームスターさんは,アモファさんの言動をファンを喜ばすための演技だと思っていたようだ。これも後の話だが,このインタビューではキームスターさんとアモファさんが口論になり,キームスターさんが「崖から飛び降りてしまえ」と発言したため,これが「自殺教唆ではないのか?」とネットで批判されることにもなった。


「I’m Sorry」


 アモファさんはその後もTwitterなどに過激な投稿をすることはあったが,6月中旬に開催されたE3 2019の際にはNintendo Directのリアクション動画を配信したりしている。そして6月20日,前日に録画されてアップが予約がされていたと思われる最後の動画「I’m Sorry」が公開された。そこで語られたアモファさんのメッセージは,以下のようなものだった。
 「みんなを失望させ,突き放したことを申し訳なく思っている。自殺するなんて思ってもいなかったけど,こんなに早く自分のまわりに壁ができていくことも想像できなかった。汚れたイメージで終わるのは残念だけど,ボクのストーリーがYouTubeでの何かの教訓になればと思っている。カッコつけ過ぎると,人生を台なしにしてしまうんだ。いつからか自分の妄想から抜け出せなくなり,まったく意味のない言動を繰り返すようになっていた。みんなを失望させたことについては,本当にゴメン」

 この動画を見る限り,アモファさんには自分の状況を冷静に判断する力があり,動画の一部はきちんと編集されているようである。彼自身,「自殺を決意することが精神病だといえば,そうかもしれない」とも語っている。ネット上で狂気を演じるうちに病状が悪化していった自分を振り返っているようだ。
 アモファさんは,キームスターさんを含めた友人達にも個別に動画メッセージを送っていたようだが,アモファさんの母親は後日,このときに送られたメッセージの内容などから,キームスターさんのインタビューの際の言い争いと彼の自殺に関係はないと,ファンに向けたコメントの中で語っている。

 E3 2019では,フォロワー数100万人を超える人気ストリーマーのドクター・ディスリスペクト(DrDisrespect)さんが,ショーフロアの実況でカメラを回したまま会場のトイレに入り,結果としてTwitchアカウントは閉鎖され,今後イベントへの入場も拒否されるというトラブルが発生している。中の人がチャックを閉める前にカメラの方向に向いたりすれば,Twitchが放送法に違反してしまうからで,こうした動画の配信は禁止されているのだ。過去には,日本に旅行したYouTuberが青木ヶ原で発見した自殺死体のモザイク処理映像を公開して謝罪に追い込まれた。ファン数やエキセントリックさを追求するあまり,普段では考えられないような行動に出てしまう映像配信者は少なくない。

 アモファさんにも「YouTuberをやめる」という選択肢があったはずだが,彼はそれを選ばず,常にソーシャルメディアの中で生き,最後のメッセージまでネットに託した。「みんないつかはボクのことを忘れるだろうけど……」と語っていたアモファさんだが,現在ジョイコンボーイズを中心に,彼のYouTubeチャンネルを復元して思い出を残そうとする嘆願も行われている。
 29歳で死を選んだアモファさんに哀悼の意を表するとともに,彼の仲間,ファン,そして家族が受けたショックが早く癒されることを願うばかりだ。

R.I.P. Etika
画像集 No.006のサムネイル画像 / Access Accepted第617回:ある人気YouTuberの死

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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