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Access Accepted第516回:ゲームメーカーに抗議デモを行ったアメリカの声優達
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印刷2016/10/31 12:00

業界動向

Access Accepted第516回:ゲームメーカーに抗議デモを行ったアメリカの声優達

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 ゲームの中でキャラクターが普通にしゃべり,演技をするようになった現在,アメリカでは声優やパフォーマーに対する需要が高まり続けている。ゲーム産業がハリウッドの映画産業の規模を超えたといわれて久しいが,そんなアメリカの声優達が,ゲーム企業に待遇の向上を訴えてデモを行った。今週は,アメリカの声優事情を紹介したい。


ゲーム産業の巨大化と共に,需要が増え続ける声優達


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 アメリカの声優,ナレーター,役者,そしてスタントマンなどが所属する組合SAG-AFTRA(Screen Actors Guild - American Federation of Television and Radio Artists)は2016年10月21日,プラカードを持っての抗議デモを行った。場所はカリフォルニア州ロサンゼルスの郊外,Electronic Arts Los Angeles(EALA)スタジオの前だったが,抗議の対象に挙がっているのはEAだけでなく,Activision Publishing,Insomniac Games,Take-Two Interactive,WB Gamesなど,我々の良く知るゲームメーカーや,声優エージェントなど11社だった。

 SAG-AFTRAが公開しているパンフレットによれば,ゲーム業界と声優との契約内容は,20年前から変わっておらず,ゲーム産業の規模が映画産業を超えるまでになったにもかかわらず,声優や役者に対する報酬は少ないという。さらに,大声で叫ぶようなセリフが多く負担が大きいことや,モーションキャプチャのために顔や体にさまざまなものを付けて動き回らされ,危険であること,また,自分がどういう状況でしゃべっているのかを具体的に知らされないという透明性の欠如など,いくつかの不満や改善要求が記されている。

「inFAMOUS Second Son」の主人公デルシン役のトロイ・ベイカーさんは,2004年に声優業を始めて以来,さまざまなゲーム作品に声をあててきた。2012年の「バイナリードメイン」でパフォーマンスキャプチャに初挑戦して以来は,アクションや演技でも評価を得ている
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 ゲームにおける声優の役割は,年を追うごとに大きくなっている。記憶容量の大きなCD-ROMが普及した1990年代前半,アメリカでFMVというゲームのサブジャンルが生まれた。詳しくは2014年9月8日に掲載した本連載の第434回「怪作“ナイトトラップ”は復活できるのか」で紹介しているが,FMVとはフルモーションビデオの略で,ビデオ映像を活用したゲームのことだ。このあたりから,俳優や声優に対するゲーム産業の需要が高まってきたように思える。
 1996年の「Duke Nukem 3D」では,当時,ラジオのDJをやっていたジョン・セントジョン(Jon St. John)さんが主人公のデューク役に抜擢され,決め台詞の数々を披露して我々に強い印象を残した。また,ゲームとは直接の関係はないが,2000年代にアメリカで起きた日本のアニメブームも,声優という職業を認知させる力になったように思われる。

 有名な声優としては,「The Last of Us」のジョエル,「シャドウ・オブ・モルドール」のタリオン,「inFAMOUS Second Son」のデルシン,さらに「METAL GEAR SOLID V: The Phantom Pain」のオセロットや「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」のサムなど,大作タイトルに引っ張りだこのトロイ・ベーカー(Troy Baker)さんが挙げられる。俳優でもある彼の場合は,声の演技だけでなく,顔の表情,アクションまですべて同時にデータ化するパフォーマンスキャプチャまでこなせる演技力が高く評価されている。

 もっとも,現在のハリウッドでも声優業をやや下と見るような意識は残っており,ディズニーアニメでは専門の声優ではなく,プロモーションを兼ねてハリウッドスターを起用する場合が多い。映画やゲーム向けの“声優のみ”で生計を立てている人は,実のところあまり多くないのが実情のようだ。しかし,ゲーム産業の需要拡大とともに,質の高い声優がアメリカやヨーロッパで増えてきていることも間違いない。


時給200ドル以上は高いのか安いのか


 前記のパンフレットによれば,SAG-AFTRAとゲーム業界は,過去19か月にわたって話し合いを重ねてきたものの,合意には至らず,そのため今回の抗議に出たという。組合に所属する声優や俳優300人の署名を集めており,改善要求が認められなければ,2016年末から2017年以降にリリースされるゲームのうち,25%の作品に影響がおよぶというから,穏やかではない。

 ゲーム情報サイト「GamesIndustry.biz」には,今回のデモに先立ってゲーム産業側の弁護を担当する弁護士事務所Barnes & Thoneburgへのインタビュー記事が掲載されている。記事によれば,「名前の挙がったメーカーは,出演者に対して100ドル以上の時給や,各種手当を支払っている」とし,SAG‐AFTRAの要求は法外であると共に,同組織の公式サイトなどに掲載されている情報は正確ではない,と弁護士事務所の代理人は述べている。
 これに対してSAG-AFTRAは,「要求の多くは,双方で妥結済み」というゲームメーカー側の言い分は正しくないとしており,双方の歩み寄りには時間がかかりそうだ。

SAG-AFTRAによれば,今回の要求は制作費25万ドル以下のゲームにはおよばないとのこと。大手メーカーのみを対象にすることで,ゲーム業界の成長を妨げないための一定の配慮を見せている
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 SAG-AFTRAは,「4時間のセッションで最低825ドル」を基準に,200万本のセールスを記録するごとにボーナスを提供することを求めている。しかしこれは,いわゆる「ハリウッド基準」であり,現状の時給100ドル以上と,組合が主張する時給200ドル以上が高いのか安いのか,外部の人間が数字だけで判断するのは難しい。

 声優や俳優は安定した職業ではない一方,映像コンテンツを制作するうえでは欠かせない職種でもある。ゲームグラフィックスの向上に伴い,リアルさや臨場感の高さを演出するために,プロのパフォーマーの価値も上がっている。それが,より高い報酬を求めるという今回の抗議行動につながったのだろう。

画像はUbisoft Entertainmentの「アサシンクリード ユニティ」の開発に関わったメンバーの一部。モントリオールスタジオだけで500人という規模で開発を進めており,さらに世界各地にある同社の支部でもアートワークやマルチプレイモードの開発が行われていた。ゲーム制作の規模は,ここまで大きくなっているのだ。今後,さまざまな職種でも待遇改善の声が上がってくるかもしれない
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 とはいえ,ゲーム産業側の言い分も理解できる。映画と比べてゲームの開発には,長い時間がかかり,「ゲームの面白さ」の大部分は,デザイナーやプログラマー,グラフィックスアーティストなどに負う部分が大きいからだ。
 アルフレッド・ヒッチコック監督はかつて,「役者は道具でしかない」と述べている。準備段階や裏方の仕事を含め,何百人という人間が役割分担する映画製作では,役者は歯車の1つに過ぎないとヒッチコック監督は考えており,役者が自分の思ったとおりに演じることを望んだという。

 アメリカの声優達が,待遇改善を求めて声を上げた今回の抗議行動。泥沼の状況に陥ることだけは避けてほしいが,果たしてどういう結果に落ち着くだろうか。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

来週の「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載となります。
次回の掲載は11月14日を予定しています。
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