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Access Accepted第441回:Microsoftと「Minecraft」
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印刷2014/11/17 12:00

業界動向

Access Accepted第441回:Microsoftと「Minecraft」

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第441回:Microsoftと「Minecraft」

 2014年9月に発表されたMicrosoftによるMojang買収は,欧米ゲーム業界で大きく注目された。Mojangの開発した「Minecraft」が,「MineCon」という専門ファンイベントが開催されるほどの世界的なヒット作であるだけでなく,開発者のマルクス・ペルソン(Markus Persson)氏が,大企業とは一線を画した「インディーズ精神」にこだわる発言を繰り返していたからだ。今週は,そんな買収劇の背後にあるものを探っていこう。


買収額は25億ドル


 2014年11月6日,MicrosoftでXbox部門の責任者を務めるフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏が自身のTwitterに,Mojangの買収手続きが終了したことを書き込んだ「Minecraft」で知られるゲームメーカー,MojangのMicrosoftによる買収が発表されたのが9月14日のこと。以来,7週間をかけて買収が進められ,このたび晴れてMojongがMicrosoft Gamesの傘下に収まったというわけだ。

2009年にPC向けにリリースされた「Minecraft」は,完成前のβ版をテストを格安で販売する「アーリーアクセス」という新たなビジネスモデルを切り開いた。現在はさまざまなプラットフォームに移植され,不動の人気を得ている
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第441回:Microsoftと「Minecraft」

 買収金額は25億ドル(約2896億円)とされているが,この金額がどれほどのものなのか,過去の例と比較してみよう。
 2014年7月にVR対応ヘッドマウントディスプレイのOculus VRを買収した際,Facebookが支払った金額がおよそ20億ドルとされており,また2014年8月に,AmazonがTwitchを買収した際の買収額は9億7000万ドルとなる。
 ゲームメーカーに限れば,Electronic Artsが「Mass Effect」「Dragon Age」シリーズで知られるBioWareを傘下におさめる際に支払ったのが7億7500万ドル。そして2011年,同社が「Bejeweled」「Plants vs. Zombies」で有名なPopCap Gamesを買収する際の買収額は7億5000万ドルだった。
 さらに,ZyngaによるOMGPOP Gamesの買収額は1億8000万ドル,Square EnixのEidos Interactive買収では1億2000万ドルといった感じで,それ以外,1億ドルを超えるような買収劇はあまり見られない。
 以上のように,今回の25億ドルの買収はつまり,ゲーム業界ではあまり例のない規模であり,それだけの価値が「Minecraft」に見出されたというわけだ。

 「Minecraft」は“Notch”という愛称で親しまれていたスウェーデンのプログラマー,マルクス・ぺルソン(Markus Persson)氏によって開発された,サンドボックスタイプのクラフティングゲームで,2009年にα版がリリースされた。
 プレイヤーは,自動生成されるブロックを使って自分の家を建てたり,夜になると現れるクリーチャーと戦ったり,トラップを仕掛けたりと,さまざまなことを自由に楽しめる。
 現在までにPC版が1500万本,Xbox版の「Minecraft:Xbox 360 Edition」が1200万本,モバイル向け「Minecraft - Pocket Edition」が2100万本といわれるセールスを記録しており,世界中には1億人ものプレイヤーがいるとされる。

 「The Wall Street Journal」(電子版)のレポートによれば,2013年のMojangの収益は前年比で38%のアップとなる3億2200万ドルで,利益は1億2800万ドルに達したという。同社は現在,新作カードゲーム「Scrolls」のβ版をリリースしてはいるが,実質的に,この利益のほぼすべてが「Minecraft」だけで得られたものだろう。α版のリリースから5年を超えた「Minecraft」だが,複数のプラットフォームで遊ぶ熱烈なファンの存在と,常に新しいユーザーにアピールする魅力がある作品であることは間違いない。


Microsoftの「Minecraft」


Mojangは,2009年5月にマルクス・ぺルソン氏を含む3人のスタッフによって,ストックホルムに設立され,現在までに40人ほどの開発者を抱えるメーカーに成長した
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第441回:Microsoftと「Minecraft」
 この買収のタイミングに合わせて,マルクス・ぺルソン氏はMojangを退社することを明らかにしている。「Minecraft」のヒットによってMojangを設立する以前,同氏はゲームポータルサイトを運営するかたわら,プログラマーとして自主制作のゲームを開発しており,「Minecraft」も,その流れで誕生したゲームだった。
 独立独歩の人物ならではの歯に衣着せぬ物言いで,名を上げたのちは,インディーズ開発者の顔役としてゲーム業界にさまざまな苦言を呈してきた。Valveのゲーム配信サイト「Steam」に否定的なのはよく知られているが,最近では,Oculus VRがインディーズハードウェアメーカーを標榜しながら,大企業であるFacebookの傘下に入ったことに反感を示し,「Minecraft」による「Oculus Rift」のサポートを撤回した。
 そういう経緯があるだけに,「やはりMojangを手放したのは25億ドルの誘惑に勝てなかったのか」という憶測を語るゲーマーも少なくない。

 買収によって得られた資金が,どのように分配されるのかは分からないが,ペルソン氏のほか,Mojongのオーナーだった人達が“ビリオネア”(億万長者)の仲間入りをするのは間違いない。
 買収が発表された翌日の15日,ぺルソン氏は個人ブログに「I'm Leaving Mojang」(私はMojangを辞めます)という(現段階で)最後のエントリーを残しているが,そこには,約5年で会社を手放した理由として「自分はプログラマーであって経営者ではなく,巨大化し過ぎた『Minecraft』のシンボルであり続けるのが怖くなった」と述べている。今後は,ぺルソン氏がアマチュア時代に活動拠点にしていた,48時間で実験的作品を作るウェブコミュニティ「Ludum Dares」に参加して,自由気ままなゲーム作りを続けていくとのことだ。

自身が開発したゲームが巨大化し過ぎたことへの恐怖心が,Mojangを手放す決断をするきっかけになったというペルソン氏。今後は,ネット上で実験的なゲームを作るフリーのプログラマーに戻るようだが,そこから「Minecraft」を超えるアイデアは生まれてくるだろうか?
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 視点をMicrosoftに移してみると,たとえMojangが2013年に1億2800万ドルの利益を上げたといっても,これは買収額の20分の1ほどでしかなく,リリースから5年が経過している「Minecraft」だけで元が取れるとは思えない。しかも,シンボルであったぺルソン氏がいなくなった今,ファンへの求心力は少なからず低下するはずでもある。
 にも関わらずMicrosoftは,買収を発表直後のリリースにおいて「2015会計年度中に,投資した資金を回収できる」という興味深い記述を行っている。

 北米の金融サービス会社Wedbush Securitiesのアナリスト,マイケル・パクター(Michael Pachter)氏がゲームブログPolygonで語るところによると,Mojangへの投資を1年で回収できるというMicrosoftの見解は,「業績報告書の視点」から述べられたものであり,「25億ドルを銀行に置いた場合の利子よりも,『Minecraft』から得られる収入のほうが運用先として旨味がある」ということなのだという。ちなみに,Microsoftの企業価値は、3460億ドル(約40兆円)で,うちの850億ドルをキャッシュで保有しているとされる。

 Microsoftにとって「Minecraft」を独占タイトルにできるのは魅力的であるはずで,Xbox 360やXbox One,Windows Phoneなどにおける主力ソフトの1つになるのは間違いない。これまで,「Halo」「Gears of War」などコアなプレイヤー向けのタイトルに力を入れてきたMicrosoft Gamesのラインナップに,単独でゲームイベントが開催でき,グッズ販売などの効果も期待できるソフトが加わったことは,イメージ戦略からも価値は高いはずだ。果たして,Microsoft傘下のMojangと「Minecraft」はどのように成長していくのか。その過程をじっくり見守りたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

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