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Access Accepted第390回:過激な書き込みでテロ容疑者にされたゲーマー
「League of Legends」のプレイヤーが,Facebookで行った書き込みが元となって逮捕され,テロリスト犯として8年もの実刑判決を言いわたされたことが,北米ゲーマーの話題になっている。「自分のクレイジーさ」を友人に笑ってもらおうと,つい表現が過激になってしまったらしいが,結果として,18歳の若者が大きく人生を狂わせることになってしまった。今回は,そんな事件をとおして,現在アメリカ社会の一端を紹介したい。
不用意な書き込みでテロ容疑者となったゲーマー
日本でも問題視される「ネット犯罪予告」だが,アメリカで「League of Legends」のプレイヤーが不用意な書き込みを行い,それが元で懲役8年の実刑判決を受けるという事件が発生し,北米ゲーマーの大きな話題になっている。
ところが翌14日,カナダ在住のネットユーザーがFacebookに書かれていた上記の一文を発見し,警察当局に通報。まもなく,カーターさんは逮捕されることになってしまった。
逮捕容疑は「テロ活動の予告」というもの。テロの脅威があふれる現代においては,たとえ仲間うちでは通じても世の中には通じないジョークもあるし,会話の流れを知らず,ネット用語に疎い第三者が「小学校に押し入って銃撃する」とか,「心臓を食べる」といったおぞましい文言を深刻に受け止めてしまったのも無理はないかもしれない。
犯罪予告とジョークの境界線
ちょっとした書き込みで逮捕されるとは思ってもいなかったカーターさんは逮捕後,絶望と孤独に耐えきれなかったのか,うつ症状が見られるようになり,罪状認否でも十分な答弁ができなかったようだ。
テキサス州オースティン在住で,両親や弟と同居しているカーターさんは,年齢から考えて高校を卒業して一年も経っていないはずだ。そんな社会慣れしていないカーターさんだけに,刑務所の生活には厳しいものがあったようで,カーターさんの弁護士によれば,虐待や心労などによって,カーターさんは自殺願望があると診断され,数か月間,独房で過ごしていたという。
ところが,7月10日になって,突然「無名の善人」から50万ドルの寄付が弁護士をとおして行われ,7月11日にカーターさんは釈放された。その人物が誰なのか,個人なのか団体であるのかさえ,両親には明らかにされていないという。
こうした,なんとか釈放されたカーターさんだったが,「テロ容疑者」の汚名を晴らすための裁判は続けて行われるという。これまでにもゲーマーコミュニティを中心にある程度の募金は集まっているが,今後も多額の裁判費用が必要になるのは間違いない。
確かに軽率で不謹慎な書き込みではあったが,テロとの戦いという名目で社会全体に監視の目が光る最近のアメリカが,若者のうかつな行為さえ許さない,寛容さの欠けた社会になりつつあるという指摘もある。手で拳銃の形を作った,パンを拳銃の形にかじったなど,他愛ない行為で停学処分になってしまう小学生のニュースもしょっちゅう聞こえてくる。テレビでは毎日のように戦争や撃ち合いの様子が流されているが,学校では「警察と泥棒ごっこ」さえも行ってはいけない。今回のカーターさんの一件からは,そんな現代アメリカ社会の一端も見えてくるようだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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