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印刷2010/11/29 13:51

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第285回:定番ミドルウェア,「SpeedTree」にまつわる物語

奥谷海人のAccess Accepted

 「Fallout: New Vegas」の赤茶けた大地をさ迷いながら,「Fallout 3」に出てきた,美しいオアシスのことを思い出した。あのオアシスに生い茂る草や木を作り出したのが,ノースカロライナにあるIDVというメーカーが開発したミドルウェア,「SpeedTree」だ。今週は,ゲームファンなら何度も目にしたことがあるはずだが,ほとんど話題に上がることがない,このミドルウェアの物語を紹介したい。

第285回:定番ミドルウェア,「SpeedTree」にまつわる物語

 

ゴルフゲームから生み出された業界人気のミドルウェア
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ゴルフゲームから進化した樹木生成専用のミドルウェア「SpeedTree」。樹木生成に必要なツールがセットされており,今やデファクトスタンダードとして,その地位は揺るぎない。大量の樹木が必要なオープンワールド型のゲームにとって,なくてはならないミドルウェアと言えるだろう

 韓国産MMOゲーム「9Dragons」,人気の高いストラテジー「Empire: Total War」,Epic Gamesのアクションゲーム「Gears of War」,映像の美しいMMORPG「Age of Conan: Hyborian Adventures」,都市建設シミュレーション「City XL」,そしてBioWareの「NeverWinter Nights 2」と「Dragon Age: Origins」。発売された時期もジャンルもまったく異なるこれらのゲームに,ある1つの共通点がある。それは何か? 
 ……といっても,記事タイトルから答えはバレバレなのだが,実は,これらのタイトルはすべて,樹木生成を専門にするミドルウェア,「SpeedTree」を使用しているのだ。今回は,そんな地味な仕事を専門にこなす裏方ソフトの物語をお届けしよう。

 SpeedTreeの誕生は,まさに「偶然の賜物」というべきものだったらしい。デベロッパであるInteractive Data Visualization(IDV)は,その堅い雰囲気の社名とはウラハラに,もともとはスポーツゲームの開発を目的に1999年に設立された会社だ。彼らが制作していたのはゴルフゲームだったが,ゴルファーは普通,木のそよぎを見て上空の風の強さや方向を読む。
 彼らは,それをゲーム内で実現するテクノロジーを探したものの,市販されているミドルウェアや公開されたプログラムには彼らを納得させるだけのものがなかったことで,仕方なく自分達でプログラムを作り始めることにしたのだ。

 とはいえ,IDVにはゲーム業界での経験もなかったうえ,樹木のモデラーや物理シミュレーションを研究しているばかりでゴルフゲームは一向に完成せずに,ついに頓挫。なんともしまらない話だが,その代わりにと,樹木生成プログラムを「3D Studio Max」のプラグインとして市販することにした。当初は建築や造園,都市景観などのビジュアライゼーションに利用されることを期待していたようだが,やがてゲームで使えるリアルタイムレンダリング版の開発にも着手し,これが現在我々の知るSpeedTreeへ生まれ変わることになったのだ。

 このSpeedTreeをライセンスした最初のタイトルが,Mithic Entertainment(現BioWare Mythic)から2003年にリリースされた「Dark Age of Camelot」の拡張パック「Trials of Atlantis」だ。
 その後,Linden Labsの「Second Life」(2005年)を始めとして,NetDevilの「Auto Assault」(2006年),Active Developmentの「WWII Online: Battleground Europe」(2006年),Sony Online Entertainmentの「Vanguard: Saga of Heroes」(2007年)など,広大なマップを埋める樹木生成を効率的に行う必要のあったMMOG(多人数参加型オンラインゲーム)タイトルでの使用実績が増えていく。さらにEpic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine 3」にインテグレートされたり,MicrosoftのXbox 360 Platformの公式ミドルウェアに選ばれることなどによって,業界内での知名度を上げていったのだ。

 

木を見た人っているかい?
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むき出しの大地や錆びた鉄板だらけの,殺風景で気の滅入るような「Fallout 3」の世界に,突然オアシスが登場する。緑の大切さを感じる一瞬,などと表現するのは大げさかもしれないが,ホッとするシーンの1つだ

 そして,SpeedTreeの評価を一気に高めることになったのが,2006年にBethesda Softwareをトップメーカーに押し上げた傑作「The Elder Scrolls IV: Oblivion」での使用だった。Bethesda Softworksは,メリーランド大学の地理研究所が行っていた,土地の性質や地勢,気候によって,樹木の成長がどのように変化するかという研究結果を,SpeedTreeで再現したMODを開発。それをIDVと共有し,SpeedTreeとオープンワールド型のゲームの相性の良さを認識したのだ。The Elder Scrolls IV: Oblivionは,草木の生成にプログラマーやアーティストがあまり関与せず,ほとんど他社のプログラムに頼った同社初のゲームになった。

 この後もIDVとBethesda Softworksは協力体制を維持し,2008年の「Fallout 3」でも,SpeedTreeが利用されている。核戦争によって荒廃した世界が舞台のFallout 3で,わざわざSpeedTreeを使う必要はない気もするが,まばらに生えた潅木や雑草の生成に使われたほか,焼けただれ,ひん曲がった木々さえも,SpeedTreeは簡単に作ることができるのだ。

 ところで,Fallout 3に「Galactic News Radio」という架空のラジオ局があったのを,ゲームをプレイした人は覚えているだろうか。そのラジオのディスクジョッキーであったThree Dogは,何度も「お聞きの皆さんの中に,木を見た人っているかい?」と聴取者に話しかけていたが,マップをくまなく散策すると,核戦争による火災や被爆をからくも逃れたと思われるオアシスが見つかる。あまりにも自然に見えるオアシスの樹木は,もはや手作業で行うには手間がかかりすぎるというレベルで,SpeedTreeの独壇場だ。
 Fallout 3では,荒れた土地を緑に変えるという夢の機械「G.E.C.K」(Garden of Eden Creation Kit)が重要な役割を果たすなど,「樹木」が核戦争以前の世界を象徴する存在として位置づけられている。荒れ果てた,地肌がむき出しの大地を踏みしめてオアシスに近づくにつれ,次第に美しい緑が増えていくあの感動は,おそらく誰もが忘れられないはずだ。
 このシーンを,Bethesda SoftworksがIDVに贈った感謝と友好のシンボルと考えるのは,あながち的外れでもないだろう。

 トリプルAクラスのゲーム開発に莫大な資金が必要となる最近の状況下では,開発費と人件費の削減に,SpeedTreeなどのミドルウェアを使うことが不可欠になりつつある。IDVの公式サイトによれば,SpeedTreeのライセンス料は邦貨で100万円程度。単純すぎる言い方をあえてすれば,腕のいいプログラマの給料1か月分ほどのコストで,ゲーム中の樹木のすべてが生成できることになる。
 2009年にアップデートされた「SpeedTree 5.0」では,アーティストが細かく樹木をモデリングできるHand Control機能が追加されるなど,順調に進化しているようだ。映画でも使用できる精密なプリレンダリングが可能になったバージョン「SpeedTree Cinema」のライセンスをIndustrial Light & Magicが取得するなど,今やSpeedTreeは,樹木生成ソフトウェアの,名実共に第一人者となった。
 セガの「戦場のヴァルキュリア2 ガリア王立士官学校」や,ソニー・コンピュータエンタテインメントの「スポーツ チャンピオン」など,国産タイトルにも利用が広がっており,日本での知名度も上がっていきそうなSpeedTree。ゲーム中,ふと樹木の美しさに気づくことがあったら,それはSpeedTreeで作られたものかもしれない。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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