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印刷2010/05/10 11:45

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第262回:正念場が続くActivision Blizzard

奥谷海人のAccess Accepted

 ゲーム業界内外の注目を浴びている,Activision Blizzardに対するInfinity Wardの訴訟問題。双方とも正面からがっぷり四つの体勢で,超ヒット作「Call of Duty: Modern Warfare 2」を間に挟んだ争いを繰り広げている。加えて,Activision Blizzardの稼ぎ頭の一つであるBlizzard Entertainmentも,韓国国内で問題を抱えているのだ。設立以来最大の正念場ともいえそうな,Activision Blizzardの現在の様子をお伝えしよう。

第262回:正念場が続くActivision Blizzard

 

集団訴訟まで起きた,Activision BlizzardとInfinity Wardのトラブル
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2007年12月,Blizzard Entertainmentを傘下に置くVivendi Universalと,Infinity Wardの親会社であるActivisionが合併し,Activision Blizzardが誕生。欧米ゲーム業界の勢力地図は激変した。潤沢な資金を持つ同社をやっかみ半分で「悪の帝国」になぞらえる向きもあったが,今回の件で“ヴィラン”のイメージがついてしまったことは間違いない

 Call of Dutyシリーズの開発元であるInfinity Wardのトップと,親会社である世界最大のパブリッシャ,Activision Blizzardとの間で起きた軋轢が報じられたのは2010年3月初めのことだ。Infinity Wardの幹部だったジェイソン・ウェスト (Jason West)氏とヴィンス・ザンペラ (Vince Zampella)氏の突然の解雇については,当連載の第259回「歴史的作品 Call of Dutyシリーズの舞台裏」でお伝えしたとおり。
 解雇からしばらくして,ウェスト/ザンペラ両氏が新たなスタジオであるRespawn Entertainmentを設立し,Electronic Artsから新作を出すというニュースもお知らせしているが,これら一連の動きは現在も収まる気配が見えてこない。

 まず,ウェスト/ザンペラ両氏がActivision Blizzardを訴えて以降,主要メンバーのInfinity Wardからの流出が続いている。当初,「Call of Duty: Modern Warfare 2」のリードデザイナー,トッド・アルダーマン(Todd Alderman)氏や,シニアプログラマーだったフランチェスコ・ジグリオッティ(Francesco Gigliotti)氏といった中核メンバー達が一人ずつ抜けていく感じであったものが,最近はデザイナーやアーティストだけでなく,ビジネス部門のメンバーまでInfinity Wardを退職しており,その数は社員数の約半分,40人近い規模になった。しかも,その多くが,個人ブログなどから,Respawn Entertainmentへの参加が確認されているのだ。

 さらに4月下旬には,新たにInfinity Ward の社員(退職者を含む)38人によって集団提訴が起こされている。訴状によると, Activision Blizzardは,Infinity Wardに2800万ドル(26億円)の成功報酬は支払い済みであるものの,ほかに5400万ドル(約50億円)ほどが未納であるというのだ。これに,約束されていたロイヤリティや追加ボーナス,そしてストックオプションなどを含めると,最大で1億2500万ドル(約115億円)にもなる,とてつもない金額をめぐる裁判になるようだ。

 ちなみに,Call of DutyシリーズはActivision Blizzardに累計で3億ドル(約275億円)を超える収益をもたらしたといわれており,集団訴訟の要求額が多すぎるというわけではなさそうだ。この訴訟に関して,Activision Blizzardは「我々に契約面での落ち度はなく,元Infinity Wardのメンバーによるこの訴訟は不当であり,無駄な労力になるだけだ」としている。とはいえ,経済的な問題だけでなく,企業イメージの悪化には苦慮させられることになりそうだ。

 

期待されるModern Warfareシリーズの最新作はどうなるか
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発表された新作「Call of Duty: Black Ops」は,2010年11月9日の発売が予定されている。開発しているのは,Call of Duty: World at Warを手がけたTreyarchで,こちらは順調。問題なのが,2011年の作品で,このところ,Infinity Wardが手を入れたエンジンを使い,Treyarchが翌年の作品を制作するという手順が確立していただけに,2011年以降の成りゆきが非常に気になるところ(写真はCall of Duty: World at War)

 欧米ゲーム業界において,大手のパブリッシャとデベロッパとの確執は良く聞く話だ。「E社は,O社やW社のような名門を買収しては,次々に閉鎖してきた」とか,「I社はB社にヒット作の開発費をペイバックしないまま倒産した」とか,「E社が経営危機に陥ったのは,I社の開発者達が予算を湯水のように使ったせいだ」といった話は昔からあるもので,本連載でもさまざまな事例を幾度となく話題にしてきた。

 Activision Blizzardの場合,2007年末のVivendi Universalとの統合に際して容赦なく新作ソフトの開発中止や売却を断行し,多くのゲームメーカーから反発を受けた。最近では,海外投資家向けの懇談会の席上,Activision Blizzardの元CEO,ボビー・コティック(Bobby Kotick)氏が「ゲームの開発現場から“楽しさ”をなくすべきだ」という趣旨の,開発者にプレッシャーを与える発言をしたとして,ディベロッパコミュニティの間で不評を買った。

 現在の主要コンシューマ機が登場する前のActivisionは,“超”が付くようなヒットシリーズには恵まれず,どちらかといえば2番手,3番手の立場で手堅く作品を送り出してきた印象がある。現在のように業界のヴィラン(悪役)として見られるようになったのは,世界最大のゲームパブリッシャに登りつめたあとのことだ。

 もっとも,こういった開発者(あるいはゲームファン)のネガティブイメージを払拭するようなニュースも同社には多く,その一つとして,Haloシリーズで知られるBungieが,10年間の販売契約をActivision Blizzardと結んだことが挙げられるだろう。
 長らくMicrosoft Game Studiosの傘下にあった(2007年に独立)Bungieは,2001年にリリースしたXbox向けタイトル「Halo: Combat Evolved」で,これまでコンシューマ機には向かないと言われていたFPSを大成功させた実績がある。Haloシリーズの販売累計実績は2700万本ほどで,Call of Dutyシリーズの半分にも満たないものの,Activision Blizzardにとっては,潜在的なヒット作の枠が一つ増えたことになる。もっとも,Haloシリーズの権利はMicrosoftが持っているため,Activision Blizzardからリリースされるのはまったく新しいタイトルになるだろう。

 一つ心配なのは,訴状によって存在が明らかになった,「2011年に発売される予定だったCall of Duty: Modern Warfare 3」の先行きだ。2010年11月9日に「Call of Duty: Black Ops」がリリースされるというの発表がつい先日あったばかりだが,こちらは,2009年の「Call of Duty: World at War」を制作したTreyarchが開発を担当している。
 Call of Dutyシリーズの権利はActivision Blizzardにあり,今後もTreyarchが開発を続けていく可能性は十分にある。とはいえ,Infinity Wardと一年交代でシリーズ作品を送り出すことは可能でも,Modern Warfareシリーズまで担当するのは無理だろう。

 いずれにせよ現状を見る限り,2011年にCall of Duty: Modern Warfare 3がリリースされる可能性はかなり低くなったわけで,今後同社は発売スケジュールの変更を迫られることになりそうだ。そうこうするうちにRespawn Entertainmentが開発し,Electronic Artsから販売される新作タイトルも登場するわけで,裁判の行方以上に,ミリタリーFPSファンにはとって気になる状況が続きそうだ。

 

Starcraft IIの韓国リリースにも黄信号
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βテストも始まり,かなり発売が近付いてきたと思われる「StarCraft II: Wings of Liberty」。しかし,12年にわたって人気を持続させ,潜在的なファンがもっとも多い地域であるはずの韓国では雲行きが怪しくなっている。Blizzardは,今後さらにトーナメントの開催などでのプレゼンスを高めていきたいようだ

 Activision Blizzardのもう一つの稼ぎ頭であるBlizzard Entertainmentも,ちょっとした頭痛のタネを抱えている。こちらについては,本連載の第260回「ゲーム業界を揺るがす二つのトラブルとスキャンダル」でも取り上げたが,つまりは「StarCraft II: Wings of Liberty」に関して韓国eスポーツ協会(KeSPA)と折り合いがつかず,完全に袂を分かつことを決めたらしいのだ。

 KeSPAは現在,韓国内における「StarCraft」および「StarCraft: Brood War」の権利の大部分を掌握しており,ゲームの販売やトーナメントの開催はもちろん,TV放映権やプロゲーマーのマネジメントまでを一括して行なっている。実に12年にもおよぶ,韓国におけるStarCraftに対する熱狂ぶりはほかに例を見ないほどで,その背後にKeSPAの努力があったことは間違いない。
 もし韓国でここまで盛り上がらなかったら,StarCraftもここまでのヒット作にはならなかったはずで,その意味では,StarCraftの成功とBlizzardの知名度アップは,ひとえにKeSPAの力によるものといえるだろう。

 しかし,本連載でお伝えしたように,BlizzardとKeSPAの関係は冷え切っていた。その理由は,トーナメントの収入や,タイアップ商品などのロイヤリティをBlizzardが受け取れず,すべてKeSPAのコントロール下にあることだ。つまり,Blizzardはゲームの販売による収益だけしか得られず,韓国ゲーマーの熱狂から得られる恩恵は少なかったのだ。

 Blizzardのマイク・モーヘイム(Mike Morhaime)氏はメディアのインタビューに答え,「BlizzardがStarCraftシリーズに関する知的財産権を保持しているのは明白であるのに,この権利がリスペクトされることはなかった。新作がもうすぐ出ようとしている現在,我々は(これまで3年以上にわたって行なってきた)実りのない話し合いをやめ,新しいパートナーを探すことを決定した」という発言をしており,新作の発表を機に,KeSPAとは異なる販路を開拓する意志を固めたようだ。

 もっとも,Blizzardが,StarCraft II: Wings of Libertyで同じような成功を収められるかどうかについては,当然ながら確証はない。12歳以上から遊べた前作とは異なり,韓国内では「18歳以上への販売のみ可能」なタイトルに指定されてしまったのだ。グラフィックス能力が大幅に向上したため暴力表現がリアルになったこと,そしてゲーム内のムービーで使用されている言葉の荒さといったことが審査の理由だ。
 リリースまでに,こういった部分を直して再審査の申請を行なうことは可能とはいえ,前作と同じような購買層を考えていたBlizzardにすれば,寝耳に水の話だったに違いない。官民共同で韓国市場からの締め出しを図られているような印象を持ったかもしれない。

 現地時間5月3日,Blizzardは,Starcraft II: Wings of Libertyを2010年7月27日に発売すると発表した(関連記事)。オンラインストアなどで調べると,一般的な価格よりも10ドルほど高い59.99ドルに設定されており,しかも三部作として発売される予定であるため,すべてのパッケージを購入すると,合計180ドルほどにもなる。ファンにとっては許容範囲かもしれないが,プレミアム料金の導入が失敗の理由の一つとなった「Hellgate: London」を連想してしまうのは筆者だけではないだろう。

 Infinity Wardの元社員による集団訴訟や,韓国におけるKeSPAとの確執など,頭の痛い問題を抱えるActivision Blizzard。こうしたトラブルはビジネスには付きものとはいえ,欧米ゲーム業界トップの正念場は,しばらくの間続きそうな雰囲気だ。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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