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印刷2009/08/14 12:41

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第229回:可能性を秘めたニュービジネス「InstantAction」

奥谷海人のAccess Accepted

 安価なゲームエンジンのライセンスで知られるGarageGamesが運営するブラウザゲームのポータルサービス,「InstantAction」。そのInstantActionに北米ゲーム業界の重鎮ルイス・キャッスル氏がCEOとして参加した。パッケージビジネスが終わり,その後はクラウドゲーミングへ加速していくだろうと一部で予想されるPCゲームの流れの中,InstantActionはどこへ向かおうとしているのだろうか。

第229回:可能性を秘めたニュービジネス「InstantAction」

 

RTSの生みの親が賭けた新ビジネスとは?
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InstantActionのメイン画面は(現在βテスト中であるためか),やや野暮ったい感じだ。GarageGamesが開発したゲームの移植作が8タイトル用意されており,アクションからパズルまでジャンルもさまざまだ。ゲームそのものをダウンロードする必要はないが,プラグインのローディングには数分の時間を要するようだ

 アメリカのゲーム業界の重鎮,Louis Castle(ルイス・キャッスル)氏は,それまで長らく在籍していたElectronic Artsを退職し,IACという新興企業に新たなCEOとして迎えられることになった。オレゴン州ポートランドをベースにするIACは,ブラウザゲームを無料で楽しめるポータルサイト「InstantAction」を,2008年3月からテスト中であり,キャッスル氏はこのサービスの正式ローンチや,それに絡む新作ソフトの開発に貢献するため,ネバダ州ラスベガスにおかれた支社で活躍していくことになる。

 ルイス・キャッスル氏は,リアルタイムストラテジーというゲームジャンルを確立したCommand & Conquerシリーズの生みの親であり,同氏の設立したWestwood StudiosがElectronic Artsに買収されて以降は,同社のロサンゼルススタジオでさまざまな作品をプロデュースしてきた。
 最近では,すでに閉鎖されたEA Blueprintで実験的な作品の開発を指揮したり,RTSをゲームコントローラーでも遊べるような改良に挑んだり,映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏と組んで「Bloom Box」をリリースしたりしている。

 そんなキャッスル氏を引き抜いたIACは,GarageGamesから分社する形で誕生した企業で,検索サイトのAsk.comや,マッチング系のMatch.comなど,人気サイトをいくつか保有している。GarageGamesは,「Red Baron」や「The Incredible Machine」で1980年代に全盛を築いたデベロッパ,Dynamix出身のJeff Turnell(ジェフ・ターネル)氏らが,Sierra On-Lineを2000年にスピンオフして設立した会社で,「Tribes」などで使われていたゲームエンジンを「Torqueエンジン」としてライセンスするビジネスを展開。類似のゲームエンジンの5分の1程度といわれる格安のライセンス価格で,とくに独立系ゲーム開発者に広く受け入れられた。Electronic ArtsやNCsoft,Disney Interactive Studiosなどがリリースした作品を含む,200タイトル以上がTorqueエンジンで作られている。

 そうしたエンジンビジネスを通じてゲーム開発会社の要望を直接聞いてきたGarageGamesだが,新たなPCゲーム市場の開拓を目指して制作しているのが,InstantActionである。無料をうたい文句にしたブラウザベースのポータルサイトは少なくないが,InstantActionは現在フィーチャーされているタイトルのすべてが3Dグラフィックスである。最新のFPSと比べるのは酷だが,無料で遊べるゲームとしてのグラフィックスクオリティは高い。
 現在,InstantActionはInternet Explorer,FireFox,そしてSafariに対応しており,プラグインをインストールするだけでWindowsやMac,LinuxといったOSを問わず,誰でも楽しめるのだ。メッセージやフレンド(バディ)機能など,ソーシャルネットワーキングに不可欠なサービスも網羅しており, βテスト中ながら,すでに140万アカウント以上を獲得している。今後は,Torqueエンジンとの本格的なインテグレーションも予定しているとウワサされており,さらにハイレベルなグラフィックスを実現する可能性も高い。

 

クラウドゲーミング時代の幕開け
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InstantActionの看板タイトルとも言える「Fallen Empire: Legions」。広大なマップ上で乗り物を駆使して戦うのが斬新だった「Starsiege: Tribes」(1998年)の精神的な続編にあたる作品である。このような魅力的なタイトルをどれだけ揃えられるかに,InstantActionの将来がかかっている

 ブラウザベースであるためPCの性能にそれほど依存しないところや,3Dグラフィックスでマルチプレイのアクションゲームが楽しめるという点は,2009年2月にid Softwareがローンチした「QUAKE LIVE」に似ている。ただ,QUAKE LIVEがゲーム内広告というビジネスモデルにとどまっているのに対し,InstantActionはマイクロトランザクションにも力を入れている。

 現在のところ,トーナメントの入賞者や,アンケートに答えるなどをした使用者に,“アクショントークン”と名づけられたゲーム内通貨が支払われており,これを使ってキャラクターのカスタマイズや特殊アイテムを獲得するというシステムが採用されている。もちろん,このトークンをクレジットカードで購入することも可能だ。

 用意されたゲームは,現時点で8タイトルで,内容もアクションゲームばかりでなく,ストラテジーやパズルもある。
 現在のプレイヤー数から見ると,InstantActionの看板タイトルといえるのが,「Fallen Empire: Legions」だ。チームベースのタクティカルなFPSで,Dynamixがかつてリリースした「Starsiege: Tribes」や「Tribes 2」の“精神的な続編”といわれるのもうなずける内容になっている。
 最近IACは,多数の旧Dynamixタイトルを,所有権を持つActivisionから買い取っているが,その中にはStarsiegeやTribesも含まれているため,やがて正式な続編やリメイクされたタイトルが登場する可能性が考えられる。

 このほか,2003年にXbox Live! Arcadeでリリースされた「Marble Blast Gold」をマルチプレイ化した「Marble Blast Online」や,ベテランゲーマーには懐かしいコンバットフライトアクション「Ace of Aces」などが用意されており,ここに,上述のキャッスル氏らが開発する新作が加わっていくのだ。

 今年(2009年)に入って,欧米のゲーム業界では「クラウドゲーミング」という言葉が盛んに使われるようになってきた。Game Developers Conference 2009で初登場し,現在βテスト中という「OnLive」や,同様のサービスである「Gaikai」は,ゲームプログラムの計算をすべてサーバー側でまかない,PCにそれをストリーミングするというというもので,最近の欧米ゲーム業界で大きく注目されている。
 また,Icarus Platformのように,3DのPCゲームと2Dのモバイルゲームをクロスプラットフォームしてプレイできるようなテクノロジも試されており,クラウドゲーミングが一般化することで,PCゲームとコンシューマ機,モバイル端末との垣根は限りなく低くなっていくだろう。
 InstantActionの試みは,厳密にはクラウドゲーミングのカテゴリには属さないかもしれない(もともと,言葉の定義はいささか曖昧だ)が,TorqueエンジンのコンポーネントとしてInstantActionが組み込まれ,サーバー側でゲームの演算を行い,それをブラウザにストリーミングするというテクノロジが確立されれば,一気にビジネスチャンスは広がるだろう。

 ネックとなるのは,やはり膨大なアクセスに耐えるだけのインフラ構築で,InstantActionも正式ローンチまでには1億ドル(約95億円)ほどの投資が必要とされている。InstantActionがアーリーアダプタで終わるのか,それともメジャーなポータルサイトになるのかは,キャッスル氏やターネル氏らの手腕にかかっている。

 

※次回8月21日のAccess Acceptedは,著者取材のため休載いたします。ご了承ください。次回の更新は8月28日を予定しております。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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