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[CEDEC 2012]今後増加する「世界同時発売」に備え,ローカライズ環境をどう整えるべきか。「ゲームに使える翻訳支援ツールの要件」レポート
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印刷2012/08/22 20:39

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[CEDEC 2012]今後増加する「世界同時発売」に備え,ローカライズ環境をどう整えるべきか。「ゲームに使える翻訳支援ツールの要件」レポート

サイバーコネクトツー 東京スタジオ ローカライズ担当 矢澤竜太氏
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 2012年8月20日から22日まで,CEDEC 2012が開催されている。本稿では,開催3日目となる8月22日に行われたセッション「ゲームに使える翻訳支援ツールの要件」の模様をレポートしよう。

 本セッションでは,サイバーコネクトツー 東京スタジオ ローカライズ担当 矢澤竜太氏により,ゲームのローカライズで必要となる「翻訳支援ツール」についての考察と,関連する事例の紹介がなされた。
 なお本セッションは,現在のサイバーコネクトツーでの取り組みや使用ツールを紹介するものではなく,矢澤氏の8年間におよぶビジネス系ソフトウェアのローカライズの経験と,1年間のゲーム専門翻訳者経験,そしてサイバーコネクトツーでの経験などをもとに,近い将来,ゲーム開発に必要とされるであろう翻訳支援機能を提案しようという内容である。

 まず矢澤氏は,現在,ゲームのローカライズに求められている要素として,翻訳の高品質化,商機を逃さないための全世界同時発売の実現と多言語化,そしてゲームがプロダクトからサービスへと変化しつつあることに伴う,サポートの長期化を挙げる。矢澤氏は,それらが当たり前に求められる状況では,ツールに頼ることなくすべて人力で賄うことは不可能と断言する。

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 またゲームのローカライズには,デベロッパ,ローカライズベンダー/翻訳者,パブリッシャの三者が介在するが,それぞれが担当する業務には,本来やるべきこと以外の余計な作業が付きまとい,本業における付加価値の創出を阻害していると,矢澤氏は述べる。
 それでは,各自が本業に専念し,付加価値を創出できるようにするには,どうすればいいのか。その回答として氏が掲げるのは,余計な作業を可能な限り自動化することと,業務における待ち時間を極力減らす柔軟な作業環境の確立という目標である。その目標を,より具体化したのが,以下の3つのポイントだ。


・翻訳資産の参照手順を自動化
・手動作業→ルールベース自動処理
・運用:マスターデータに定位置を確保(開発・翻訳間でテキストの非同期アップデートを可能に)


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 さらに矢澤氏は,ローカライズが抱える3つの問題から,上記で掲げた目標およびポイントの重要性を説いていく。

矢澤氏は,翻訳作業を芝刈りに例える。同じ芝刈りといっても左の写真のようにある程度整地されていればクオリティを高める余裕も生まれるが,右の写真のように荒れ果てていたら,刈り取るので精一杯というわけである
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 最初に挙げられたのは「翻訳品質が上がらない問題」である。まず矢澤氏は,ローカライズベンダー/翻訳者から納品される翻訳文について,同一用語なのに訳が統一されていなかったり,文脈にそぐわない訳になっていたりする事態が頻繁に発生することに言及。これは必ずしもローカライズベンダー/翻訳者が手を抜いているわけではなく,与えられた作業時間/コストに対して,雑務が多すぎるからであるという。

 とくにゲームの場合,シリーズものであれば,前作までに登場したキャラクターなどの固有名詞は統一した表現にしないとチグハグになってしまうだろう。例えば,翻訳のクオリティを保つために100の時間を与えられたとしても,既存シリーズの表現を確認するために30から40を消費してしまうこととなり,実質の翻訳には60から70しか使えない。これでは翻訳のクオリティを保つのも難しく,まして付加価値を創出するのは夢のまた夢である。

 こうした事態を避けるための手法として,矢澤氏は,発注側のデベロッパが希望する品質をきちんとローカライズベンダー/翻訳者に伝えることと,有用な(ただ量が多いだけではなく!)資料の提出に加え,“便利な道具の提供/共有”──すなわち,ローカライズベンダー/翻訳者が強いられてきた手作業の自動化を挙げる。

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 ローカライズが抱える二つめの問題は,「翻訳支援ツールって何?」というものである。ちなみに翻訳支援ツールとは,いわゆる機械翻訳ソフトのことではなく,翻訳作業において人間をサポートし,作業の効率化を図るためのものだ。具体的には,これまでに蓄積された用語の対訳などを有効に利用したり,頻繁に発生するタスクを自動化したり,今,作業がどの段階にあるのかというステータスを管理したりといった機能を持つツールのことである。矢澤氏は,翻訳支援ツールの重要性は,「有用な参照データを毎回全部使う」「毎回生ずる作業は可能な限り自動化する」という2点にあるとまとめた。

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翻訳支援ツールの用語集を活用することで,特定の用語の対訳を自動的に統一できる
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翻訳支援ツールの「翻訳メモリ」は,過去に訳したテキストから,類似のものを自動的に検索する機能。例えばシリーズもので,過去に1回だけ登場したキャラクターがどう表現されていたのかなどを参照するときに便利
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ボリューム算出で,ワード数を確認することにより,翻訳作業に必要なスケジュールをかなり正確に把握できる
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ステータスを表示することで,タスクの進行度合いを確認できる

 しかし,現状で広く使われている翻訳支援ツールは,マニュアルの改訂などを想定した“ドキュメント用”であり,必ずしもゲーム開発に必要な機能を備えているわけではないという矢澤氏。というのも,ドキュメント用翻訳支援ツールは,ベースとなる原文があり,その一部のテキストを差し替えたり,追加したりするケースを想定して作られているからだ。
 一方で,ゲームのテキストは,頻繁なアップデートにより原文が大幅に書き替えられたり,あるバージョンを翻訳している最中に新しいバージョンが来てしまったりというケースが生ずる。そうなるとドキュメント用翻訳支援ツールでは,アップデートのたびに翻訳ファイルを新しく作ることになってしまう──つまり,上記で紹介した翻訳メモリなどがうまく機能しなくなってしまうのである。

ドキュメント用翻訳支援ツールの使われ方。ソフトのバージョンアップに伴うマニュアルの改訂などを想定している
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 それなら,アップデートした部分だけを差分としてローカライズベンダー/翻訳者に渡せばいいのではないか,という話にもなるが,事はそう簡単ではない。矢澤氏は,こうした差分だけ翻訳に出すことを,「翻訳者からすると,機械のネジだけ渡されて,用途を推測するようなもの」と例え,前後の文脈を理解するために,莫大な手間がかかってしまうと説明する。

会場では,GDC 2011のセッションにて明かされた「Guild Wars」のローカライズ事例も紹介された。同タイトルでは,アップデートの差分と前後の文脈が分かるテキストをローカライズベンダー/翻訳者に渡すという,極めて手間のかかることをやっている
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 ならば結局,どうすればいいのかという疑問に対する回答は,ローカライズが抱える三つめの問題「差分/Version管理が煩雑!」の中で語られた。
 まず矢澤氏は,こうした差分/バージョン管理の問題は,そもそも単位の概念に誤りがあるのではないかと指摘する。これまで,ローカライズの翻訳1列は,プログラムにおけるコード1行と同等……というように考えられてきたが,実際は,翻訳1列はプログラムコード1ファイル,翻訳ファイル一つがプログラムのフォルダ一つに相当するのではないかと氏は仮説を立てる。

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 この仮説に基づくと,翻訳文字列一つをデータベース上の1Recordとしてバージョン管理することとなるが,上記のとおり,ゲームのテキストは頻繁に変わる可能性がある。そこで文字列それぞれに,String IDを付ければいいというのが,矢澤氏の考えであり,実はすでにこうしたID指向の翻訳支援ツールを採用しているゲーム会社もあるそうだ。

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 さらに矢澤氏は,「Fable II」のローカライズの事例を紹介。同タイトルは42万ワード,4万8000の音声ファイルを15言語(うちフルローカライズは7言語)でローカライズしているのだが,この事例で重要なのは,原本と各言語翻訳版の2種類のマスターデータが存在することだ。
 具体的には,デベロッパが最新の原本ファイルをローカライズベンダーに渡すと,ツールによって自動で差分が検出される。その差分をローカライズベンダーが翻訳し,組み込みを終えた翻訳版ファイルを再びデベロッパに送り返すのである。両者の作業は独立しているので,バージョン管理やお互いの進捗を考慮することなく,自分達のタイミングで作業に集中できるというわけである。また,そこには作業ファイルは存在せず,常に原本と翻訳版のデータのみが存在するというわけで,バージョン管理の手間がほぼなくなるのだ。

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 以上をまとめて,矢澤氏は,今後のゲーム開発のローカライズおよび翻訳支援ツールに必要なポイントとして,次の3点を掲げる。

・開発・翻訳間で“作業ファイル”を送り合わない
・String ID単位での文字列管理
・ルールベースの自動処理


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 とはいえ,そういった新たな翻訳支援環境には,懸案事項もないわけではないと矢澤氏。まずは膨大な文字列を扱うことを想定し,初期段階から高精度のID振り分けをしておかなければならない。矢澤氏自身,開発途中でIDの振り分けを変更されてしまったために,それまでのデータの蓄積が使えなくなった経験があるそうだ。
 また新しい環境を導入するとワークフローも変わるので,慣れるまでに時間がかかるということもある。とくにゲームのローカライズは,1社だけでなく,デベロッパ,ローカライズベンダー/翻訳者,パブリッシャが関わることを考慮に入れなければならない。環境が変わったときに発生しうるメリット/デメリットをきちんと共有し,全員が納得ずくでないとなかなか話が進まないだろうと,矢澤氏は指摘する。

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 最後に,矢澤氏は「今後増えるであろうシムシップを力技でやろうとすると,ローカライズの過程で無理が生じ,最悪,死人が出るかもしれません。その状況を何とかしたいと思いました」と,あらためてセッションの趣旨を述べる。続く質疑応答ののち,氏は「皆で生き延びましょう!」と聴講者に呼びかけ,セッションを締めくくった。
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