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[GDC 2012]Epic,「Kepler」で動かした「Samaritan」デモを披露。GTX 580の3枚差しが必要だった技術デモが次世代GPU 1基で動くカラクリとは
2012年末に公式発表される予定の次世代ゲームエンジン「Unreal Engine 4」は,残念ながら一部のソフトウェア開発者に向けた限定公開とされていたが,報道関係者向けのセッションでもさまざまなデモが披露されていたので,今回はそのあたりをまとめてみたい。
GTX 580×3で動いていた「Samaritan」を
Kepler 1枚で駆動。そのカラクリとは
順番は前後するが,セッションの最後で行われたデモの話から始めたい。デモ自体はGDC 2011で発表された「Samaritan」で,公式ムービーは下に引用したが,これが,NVIDIAの次世代GPU「Kepler」(ケプラー,開発コードネーム)搭載機上で動いているというのだ。
もちろん,ここで動作しているのはKepler搭載のデスクトップPC向けグラフィックスカード。デスクトップPC向けKeplerを用いた動作デモとしては世界初公開になる。
GDC 2011のとき,Epic Gamesは,1200Wクラスの電源ユニットを搭載し,「GeForce GTX 580」(以下,GTX 580)搭載グラフィックスカードを3-way SLIで構成したPCを用いてデモを行っていた(関連記事)。それが,Kepler搭載カード1枚で動いているというのだから,正直,驚きである。
ただ,「だからKeplerはGTX 580の3-way SLIと同等の性能を持つ」と考えるのは,さすがに性急だ。というのも,「NVIDIAとEpic Gamesのコラボレーションによって生まれた」(Epic Games)というアンチエイリアシング手法「FXAA」(Fast Approximate Anti-Aliasing,バージョン表記も入れるとFXAA 3)が,今回のデモでは用いられているからだ。
従来のMSAA(Multi Sampled Anti-Aliasing)と異なり,FXAAはポストエフェクトで処理できるため,非常に負荷が低い。GDC 2011のときは4x MSAAを適用するのにGTX 580の3枚差しが必要だったのに,Keplerなら1枚でこなせるカラクリはここにある。
Epic Gamesによると,4x MSAAを適用した場合,Samaritanデモは約500MB――GTX 580カードが搭載するグラフィックスメモリ容量の約3分の1――を消費するとのこと。これが原因で,高解像度テクスチャをグラフィックスメモリ上に展開しきれなくなったりするわけだが,FXAAならそこまでのメモリ容量を要求しないため,メモリ周りの負荷が下がり,いきおい,性能を引き上げられるというわけだ。
残念ながら,Keplerの詳細は語られていない。また,Unreal Engine 4についても,ライティングの処理を独立して行うことで陰影のリアリティを増そうという技術「Deferred Rendering」の研究開発を進めているということくらいしか明らかになっていない。
「一部のソフトウェア開発者」だけが入ることを許された秘密の部屋でいったいどのようなデモが行われていたのか。その答えは,今年後半以降,順次明らかになっていくのだろう。
Unreal TechnologyはPS Vitaや
Wii U,Flash 11にも対応
さて,セッションでは,Epic Gamesの副社長であり,スポークスパーソンとしてもおなじみのMark Rein(マーク・レイン)氏が登場。同社のゲーム開発エンジンで現在の中核を成す「Unreal Engine 3」は,WindowsにMac,PlayStation 3,Xbox 360,iOS,Androidだけでなく,PS VitaやWii U,さらにはFlash 11もサポートできるようになったと紹介した。ツールキット「Unreal Development Kit」(以下,UDK)は「130万コピーが開発者へ配布されている」という。
実際に独立系開発者がUDKを使って制作したゲームは,商業サイトで売る場合に初めて99ドル(約8000円)のライセンス料が生じる形式になっている。そのため,「商用を考えず,ゲームエンジンに触れてみたいだけという人ならば,無料で1本のゲームソフトを作り上げることすらできる」とRein氏は強調していた。
さらに,商用だとしても総額5万ドルまでの販売にはロイヤリティはかからない。5万から25万ドルまでが25%,それ以上になった場合でも再契約を結んで,ロイヤリティ(≒権利使用料)を減額する交渉権が残されるというとのこと。中小のインディ開発チームには優しい料金体系になっているのである。
4Gamer読者にはあらためて説明するまでもないと思うが,Unreal Technologyを採用したソフトは無数に存在する。実際,2011年度に販売額が多かったゲームソフトのトップ10のうち,3本はUnreal Technologyベースだったが,2012年以降もWii U向けには「Batman: Arkham City」(Warner Bros. Interactive)や「Aliens: Colonial Marines」(2K Games),PS Vitaに向けには「Doctor Who: The Eternal Clock」(BBC)と「Mortal Kombat」(Neverrealms Studios)が登場する予定とのことだ。
今回のセッションでは,PS Vita版Mortal Kombatのライブデモも行われている。
ところでEpic Gamesは,3月7日に行われた第3世代「iPad」の発表会において,iOS向けの新作ゲーム「Infinity Blade: Dungeons」の制作を発表した。これは,これまでのInfinity Bladeシリーズのような1対1での戦いではなく,複数の敵と戦う見下ろし型のゲームになるという。
今回のセッションでは本作の短いデモムービーを見られたのだが,解像度は第2世代iPad対応のもの。Epic Gamesによれば,最終製品では,ちゃんと第3世代iPadの2048×1536ドット解像度に対応するとのことだったので,期待したいところだ。
もう1つEpic Gamesのセッションで,第3世代iPad対応以上に注目されていたのが,Flash 11によってUnreal TechnologyベースのゲームがWebブラウザ上で動くようになることである。すでにEpic Gamesの公式Webサイトでは,Flash 11.2のRC1上で「Citadel」デモを見られるようになっている。
なお,セッションではUnreal Engine 3で開発された「Dungeon Defenders」や「Unreal Tournament 3」のFlash 11版も発表され,クライアントソフトを必要とせずに動作することを示すライブデモも披露された。どちらも製品として発売される予定はないそうだが,Flashでグローバルイルミネーションを実現しているなど,Flash 11とUnreal Technologyの相性はかなりいいようだった。
こういったFlash 11への対応には,それこそUnreal EngineのようにC++言語で作成されたプログラムをFlash向けにリコンパイルできる「Adobe Alchemy」が用いられているとのこと。この技術が進めば,今後は現行世代のゲーム機に劣らない3Dグラフィックスを,Web上で体験できるようになるわけで,こちらにも引き続き注目していきたい。
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GeForce GTX 600
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