レビュー
折りたたみ可能な省スペース型コックピット
AP2 Foldable Racing Wheel Stand
ただ,ステアリングコントローラを使ってゲームをプレイするとき,実際にクルマを運転するときのポジションに近い配置にできているかというと,できていない人のほうが多いのではなかろうか。机やテーブルに固定して使っているという人が大多数だと思う。
実車に近いドライビングポジションで遊ぶための解決策はある。それは,パイプフレームなどで組まれ,ステアリング部やペダル部の設置場所が最適な位置に設けられた台座――その外観や機能から「コックピット」と呼ばれる製品だ。
ただ,コックピットの導入には,多くのハードルがある。具体的には,数万円はする価格や,ゲームへの理解が薄い家族の目といったものだが,なかでも最大のネックとなるのが,設置や収納スペースの問題だろう。日本の一般的な家庭では,コックピットにステアリングコントローラを付けたまま置いておけるスペースは,なかなかとれないのだ。
常設でなく,使いたいときすぐ準備できて,遊び終わったらコンパクトに片付けられるコックピットがあれば……。そんな悩みを解決してくれそうなコックピットが,今回取り上げる「AP2 Foldable Racing Wheel Stand」(以下,AP2)である。AP2は,香港のAPIGAが開発し,国内ではゲートが正規代理店として取り扱っている。
AP2は「ステアリングコントローラのステアリング部とペダル部を載せるスタンドのみ」で構成されており,使用しないときは折りたたんでコンパクトにできるのが特徴だ。実勢価格も3万円前後(※2013年3月13日現在)と,コックピットの中では比較的安価な部類に入る。
ドライビングシートはオプションパーツとして用意されているので,とりあえず導入時は手持ちの椅子を使うことにしてコストを抑え,納得いかなければシートを追加購入するのもいいだろう。コックピット入門用の製品としてはなかなか期待できそうな製品である。
というわけで,前置きが少々長くなったが,実際にAP2といくつかのオプションパーツを試すことができたので,その使用感をお伝えしてみたいと思う。
スタンドアームの長さや
ペダル部の取り付け位置は調整可能
AP2はいくつかのパーツに分かれた状態で製品ボックスに収められており,使用するには簡単な組み立て作業が必要になる。製品の構成は以下のとおりだ。
- パイプフレームで組まれたパーツ「base bracket」(以下,ベースブラケット)
- 大小さまざまな穴の開いた鉄板のようなパーツ「pedal platform」(以下,ペダルプラットフォーム)
- ベースプラットフォーム底に取り付ける脚パーツ(4つ)
- 取っ手付きネジ(大2つ,小4つ)
- プラスドライバーが必要な数種類のネジ(計6本)
- 英語と中国語で書かれた簡単な取扱説明書
各パーツは,気泡緩衝材(プチプチ)にくるまれて製品ボックス(段ボール箱)に梱包されている |
ベースブラケットは,太さ約30mmのスチール製角パイプフレームで組まれており,箱から取り出したときの大きさは約450(W)×750(D)×170(H)mm。スタンドアームの先に,ステアリングコントローラのステアリング部を載せる「wheel mounting platform」(以下,ホイールマウント)が設けられている。
ベースブラケット底面の4か所にあるネジ穴に脚パーツを締め込んだ後,ペダルプラットフォームをプラスネジ4本で固定。そしてスタンドアームの付け根にある固定用のネジ穴に取っ手付きネジを締め込めばパーツの取り付けは完了だ。
パーツの取り付けが完了すると,右上の写真のような外観になる。冒頭でAP2を折りたたみ可能なコックピットと紹介したが,これが折りたたんだ状態となる。
折りたたんだ状態から,ゲームプレイに使用できる状態にするには,ちょっとした作業が必要だ。スタンドアームの付け根にある「取っ手付きネジ」を抜いてスタンドアームを引き起こし,引き起こしたところにちょうど2か所用意されたネジ穴のどちらかに,再び「取っ手付きネジ」で固定するのである。ネジ穴が2か所あるのは,スタンドアームの角度を調整するためだ。
このとき,スタンドアーム部の上端に用意された取っ手付きネジを緩めると,スタンドアームの長さを調整できる。スタンドアームの全長は,最も縮めた状態で約57cm,最大に伸ばした状態で約87cmだった。
ただし,スタンドアームを伸ばすと,座る位置がその分だけ後退して,ペダルプラットフォームに置いたペダル部がプレイヤーから遠ざかることになる。スタンドアームの長さを調整するときはペダル位置とのバランス取りを行ったほうがいいだろう。
スタンドアーム先端のホイールマウントは,左右のネジを緩めることで若干ながら傾斜角を調整可能だ。ホイールマウントには,EndorのFanatecブランド製「Porsche 911 GT2 Wheel」「Porsche 911 GT3 RS V2 Wheel」や,Guillemot製「Thrustmaster T500 RS」(以下,T500 RS),Logitech製「G27 Racing Wheel」(以下,G27)のステアリング部に対応したネジ穴が開けられており,ホイールマウント下側から取っ手付きのネジで確実に固定できる。
次に,ステアリングコントローラのペダル部を置くペダルプラットフォームだが,こちらの取り付け位置は3段階で調整でき,最大65mmほど前後にずらせる。
ペダル部はペダルプラットフォームの傾斜面に設置するのだが,ここにはスライド式のストッパーが用意されている。ペダル部がストッパーに引っかかってずり落ちない仕組みだ。
さらに,ホイールマウントと同じく,ペダルプラットフォームにも多数の穴が開けられており,各ステアリングコントローラのペダル部裏にあるネジ穴を使えば,ペダル部をネジ留めすることもできる。確実にペダル部を固定し,ペダル部がずれてしまう心配をすることなくプレイしたいなら,ネジ留めがオススメだ。
豊富なオプションパーツを使えば
さらに快適なドライビング環境が手に入る
ここまでAP2のパーツと組み立て方法を紹介してきた。ステアリングコントローラのステアリング部とペダル部だけでプレイするなら,あとは椅子を用意するくらいでいいのだが,ギアシフト部やドライビングシートも取り付けて使いたいなどといった場合には,オプションパーツが必要になる。
今回は「AP2 Gearshifter Mount」(以下,ギアシフターマウント)と,「APIGA Keyboard Mount」(以下,キーボードマウント)という2つのオプションパーツを実際に試すことができたので,その機能や使用感をお届けしておきたい。
まずギアシフターマウントは,ステアリングコントローラのギアシフト部をAP2に装着するためのパーツだ。AP2の公式Webサイトには,Logitech製「G25 Racing Wheel」(以下,G25)とG27のほか,一般的なステアリングコントローラのギアシフト部の取り付けが可能と記載されている。
ギアシフターマウントには,AP2のスタンドアームに取り付けるための穴が設けてある。AP2側の取り付け穴は,スタンドアームを約100mmほど引き出したところにあり,ギアシフターマウントを左右のスタンドアームどちらにも取り付けられる仕組みだ。固定はギアシフターマウントに付属するネジで行う。
なお,今回はThrustmaster T500 RSのギアシフトである「TH8 RS Shifter」は用意できなかったため,このマウントにTH8 RS Shifterを取り付けorネジ留めできるかは未確認だ。製品写真などから筆者が推測する限り,クランプでの取り付けはできそうだが,T500 RSユーザーはその点に注意してほしい。
さて,続いてのキーボードマウントは,PCのキーボードを載せるためのパーツだ。普段コンシューマ機でレースゲームを楽しんでいる人は意外に思うかもしれないが,PC用レースゲームではキーボードを併用する場合が多い。とくにドライブシム系タイトルでは多くのスイッチ類をキーボードで操作することになるため,手元にあったほうが便利なのだ。PC用でレースゲームをプレイしたい人は揃えておきたいパーツだと言える。
こちらもギアシフターマウントと同様にAP2のスタンドドアームに取っ手付きネジで取り付けるのだが,厳密に言うと,取り付ける場所はAP2のスタンドアームの太い側(=伸びない側)だ。キーボードマウントのアームも少しだけ伸縮可能な構造になっており,角度も自由に決められるので,椅子に座ったまま操作しやすい位置にキーボードを配置できる。
キーボードマウントは右側設置用の「APIGA Keyboard Mount right」と,左側設置用の「APIGA Keyboard Mount left」が用意されており,それぞれ別な製品であるため,購入時には注意が必要だ。今回はギアシフターマウントを左側に配置したかったため,キーボードマウントは右側設置用を用意した。
キーボードマウントの大きさは約400(W)×170(D)mm。一般的なフルキーボードなら問題なく載せられる大きさだ。
マルチメディアキーボードの中でも大型で,テンキー部分が外せる構造になっているMicrosoft製キーボード「SideWinder X6 Keyboard」を載せるとさすがに不安定さを感じたが,テンキー部分を外すと,マウント部の手前側にある折り返し部分にちょうど良く収まってくれた。
なお,今回実際に使うことはできなかったものの,上で紹介したもの以外にも,さまざまなオプションパーツが用意されている。
シートもゲーム用のものを揃えたいという人には,専用シート「APIGA Racing Seat Red&Black」や,AP2に専用シートを取り付けるためのフレーム「AP2 Rear Seat Frame」がある。
AP2とAP2 Rear Seat Frameがセットになった「AP2 PLUS Foldable Racing Simulator」も販売されているので,こちらとAPIGA Racing Seat Red&Blackを購入するほうが,個別に揃えるよりコスト的には安くなるようだ。
さらに,AP2前方のプレイしやすい高さに42インチサイズまでの液晶テレビを設置できる「APIGA LCD TV Mount」,27インチまでの液晶ディスプレイ3台を並べて設置できる「APIGA Triple LCD Monitor Mount」,ホイールマウントのサイドに取り付けて,マウスを置いたり,スピーカースタンドとして使ったりできる「APIGA Mouse/Speaker Mount」などが用意されている。ただし,この3製品については,筆者が調べた限り,国内で取り扱っている店舗の存在を確認できなかった。
壁に立てかけての収納はなんとか可能だが
ステアリングコントローラは外したほうが無難
使わないときは折りたたんで収納できるのが特徴となっている本製品だが,果たしてどの程度コンパクトに収納できるのだろうか。使わない時は壁に立てかけたり,ちょっとした隙間にしまっておけたりすれば便利なので,実際に試してみた。
ステアリングコントローラを装着していない状態でも,かなりの重量がある。転倒したり,壁に傷などをつけてしまったりといったことが起こりがちなので,注意が必要だ |
このように,AP2の本体を,(固定作業は必要になるものの)立てかけるような形で収納できるのは分かった。だが,使用時にいちいちステアリングコントローラを取り付けなければならないのは,やはり手間だ。というわけで,T500 RSとG27のステアリング部とペダル部を取り付けたまま収納できるかを次に試した。
ステアリングコントローラを取り付けた状態でも折りたたむことは可能だったが,やはりAP2単体で収納する場合よりはスペースが必要になる。また,当然ながらステアリングコントローラ分の重さが加わるため,転倒には単体時よりさらに注意したほうがいいだろう。ステアリング部が当たって壁などを傷付ける可能性も頭に入れておきたい。
結局のところ,面倒でなければ,ステアリングコントローラは取り外して収納したほうがよさそうだ。
だが,筆者はステアリングコントローラの取り外しが面倒なので,スタンドアームだけ倒して部屋の端のに置いている。占有スペースは通常状態と変わらず,コンパクトさもまったく感じられないが,スタンドアームを倒すだけでも存在感は和らぐ気がする。
定番ステアリングコントローラを設置して
使用感をチェック
今回,T500 RSとG27,そしてMicrosoft製「Xbox 360 ワイヤレス レーシング ホイール」(以下,Xbox 360ワイヤレスホイール)の3製品をAP2に装着してプレイすることができた。順に使用感を紹介するので,これらのステアリングコントローラでの使用を考えている人はぜひ確認してほしい。
●Thrustmaster T500 RS
ステアリング部とペダル部どちらもプラットフォームへのネジ留めが可能 |
T500RSのステアリング部は専用のクリップを取り外し,AP2付属の取っ手付きネジを使ってホイールマウントに固定する。T500RSのステアリング部は非常に重いため,ホイールマウントの下から覗き込んでネジ止めするときにステアリング部を落とさないよう注意したい。
ペダル部もかなり大きく重いが,ペダルプラットフォームへの設置に問題はない。T500RSのペダルテンションはほかのステアリングコントローラと比べて強力なので,プレイ時にはペダルをしっかり踏み込む必要があるのだが,激しいペダル操作でも不安定さは感じられなかった。
ペダル部を吊り下げ式にしても安定した操作が可能でプレイに集中できる |
●Logitech G27
量販店などでも手に入り,コスト的にも手が出しやすいG27は,ステアリング部,ペダル部,ギアシフト部のすべてをネジ止め可能で,AP2との相性は抜群 |
ステアリング部は非常にコンパクトな作りのため,ホイールマウントからそれほど大きくはみ出さない。もちろんネジ留めがベストだが,ステアリング部にある2つのクランプでも十分に固定できるという印象だ。
ギアシフターマウントは,オプションパーツ紹介の段でも触れたように,ドライビングポジションの左側に配置した。これは右ハンドル車をイメージしたためだ。
標準のクランプによる固定と,ネジ留めを試してみたが,やはりネジ留めのほうが安心して操作できた。
そしてペダル部は,ペダルプラットフォームにあるストッパーとネジ留めによる固定方法を試したが,両方とも問題なし。ペダル部をペダルプラットフォームの後端の折り返しに当てて,手前側をストッパーで固定してもいいが,それでしっくりこないときは,ストッパーを取り外し,向きを変えて取り付け,ペダル部の後ろ側を押さえるような使い方を試してもいいだろう。
●Xbox 360 ワイヤレス レーシング ホイール
ただし,ホイールマウントの長さが足りず,ステアリング部の中央部分としか接触しないため,激しいステアリング操作では動いてしまって少々危険だ。
この問題はDIYショップなどで買える滑り止めシートを使うことでかなり改善されるので,実際に使用するときは試してほしい。
ペダル部は,ストッパーをペダル部の前方または後方を押さえることでまったく問題なく使用できた。
最後に,ドライビングシートが付属しないAP2でプレイするにあたって懸案事項となる椅子についても触れておきたい。
ドライビングシートではない普通の椅子を使用するときには,座ったときの目線がテレビやディスプレイより若干低く,テレビをやや上目使いで見るくらいの高さにすると非常にプレイしやすくなる。
低過ぎるとテレビを見上げる形なって首が疲れるし,ステアリングが視界を遮ることになるかもしれない。逆に座る位置が高すぎても,首が下がり,自然と身体が前傾姿勢になって,やはり疲れてしまうのだ。
高さ以外では,背もたれの有無も重要。背もたれがあれば,身体を支えてくれるので,疲れにくくなる。
ドライビングシートを用意するのがベストだが,写真のような折りたたみ椅子でも快適にプレイできた。ディスプレイ機器の高さや座面の高さ,背もたれの有無など,自分のプレイ環境に合った椅子を見つけてゲームに没頭したい |
リビング用の椅子では座る位置が高すぎ,テレビを見下ろす形になってしまってプレイしにくく,丸椅子では背もたれがなくて短時間で疲れてしまうことになった。結局,一番プレイに向いていたのが,折りたたみ椅子だった。
今回使用した折りたたみ椅子は,幅が約400mm程度のコンパクトなタイプで,座る位置は床から300mm程度。背もたれ付きで,今回のプレイ環境に非常にマッチしたのだ。
もちろん,環境によってテレビの高さは異なるため,人によって最適な視点の高さは変わってくるだろう。また,何より手元にある椅子の種類も異なるはずなので,これは試行錯誤しながら最適なものを見つけてほしい。
期待したほどのコンパクトさはなかったが
しっかりとした作りの初心者向け製品だ
それでいて価格も比較的抑えられているので,実車のようにステアリングコントローラを配置してドライブゲームを遊びたいという,コックピット初心者に合っていると思う。まずはAP2と普段使っている椅子を組み合わせてみて,さらに競技車両に近い環境が欲しければ,ドライビングシートなどの購入を検討するという形が用意されているのもありがたいところだろう。
コンパクトさについては,筆者は収納時にスタンドアームを倒すだけにしたため,期待したほどではなかったというのが正直なところだろうか。
とはいえ,手持ちの椅子を使うようにすれば,一般的なシート付きのコックピットと比べて確実に収納スペースを減らせる。また,筆者のような面倒くさがりでなく,なおかつ転倒防止策が用意できる人であれば,折りたたみ状態で壁に立てかけて収納し,さらにスペースを減らすこともできそうである。
ステアリングコントローラは持っているが,さらにワンステップ上のプレイ環境を整えたい人,少しでもコンパクトなコックピットが欲しいという人は,AP2を試してみてほしい。
APIGA公式サイト
「AP2 Foldable Racing Wheel Stand」販売ページ(パソコンショップアーク)
「AP2 Foldable Racing Wheel Stand」オプションパーツ販売ページ(パソコンショップアーク)
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