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“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
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印刷2012/02/25 00:00

インタビュー

“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー

“芝村イズム”のルーツは飲み会

英雄的資質を持った現代の若者達


4Gamer:
 戦術オペレーターである主人公は,常に戦場を俯瞰視点で見ていますよね。なぜこういった描き方をしようと考えたのでしょうか?

画像集#012のサムネイル/“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
芝村氏:
 戦争をどう描くか……と考えたとき,血が出たり臓物が飛び出したりといった表現を使うことがありますよね。しかし実際に銃を撃ってみれば分かりますが,音もそんなに大きくなかったりしますし,映画のような大激戦って,今はほとんどないんですよ。

4Gamer:
 戦争の形が変わったんですね。

芝村氏:
 人間ひとりの価値が大きく上がったことで装備が変化し,戦争もかなり淡々としたものになりました。それが今のリアルなので,そのまま描くと非常に虚無的な小説になってしまいます。そうならないように考えた結果,俯瞰視点で描くことにしたんです。
 それこそ,「ガンパレード・マーチ」のようなゲームの制作経験が役に立ったんですよ。状況を平坦に説明しながらも「ヤバイんだ!」という感覚を読者に伝えたかったんです。

4Gamer:
 なるほど! 読んでいる最中,ずっと頭の中に「ガンパレード・マーチ」の戦闘場面が浮かんでいた自分は間違っていなかったんですね。

芝村氏:
 よく訓練されていますね(笑)。

4Gamer:
 読んでいて,非常に近い雰囲気を感じていたんです。芝村さんの作品ではそういった“箱庭”的な環境の中で物語を展開させていく手法が多いように思えるのですが,やはりこだわりがあってのことなのでしょうか?

芝村氏:
 当事者でなく,なるべく俯瞰で人々を見てみたいんですよね。その考えが箱庭的な描写に繋がっているのではないかと,自分では思っています。両論併記ではありませんが,いろいろな人がいろいろな意見を言っていて,それぞれ面白いから全部入れちゃおうという発想です。

4Gamer:
 なるほど。どれか一つの意見には偏りたくないと。

芝村氏:
 全部並べたい主義というか,弁当で言えば幕の内弁当が大好きな派閥なんですよ。もちろん,一つの意見にこだわって,究極の答えを見出すのも面白いと思うのですが。「どれが正しいか」ということは私には決められませんし,読者もそう思っているだろうというイメージで動いているので,なるべく広く描くようにしています。

4Gamer:
 そのような考えを持つようになった原点は,どこにあるのでしょうか?

芝村氏:
 飲み会です!

4Gamer:
 なんと(笑)。

芝村氏:
 まぁ,飲み会などでいろいろな人と話をしてきた結果として,自分なりの答というものは持たずに蓄積してきた話を参考にするのが,私にとっての物語の作り方の原点なのかなと思っています。分かりやすく言うなら「答を出さない」ことが,私的な答なのではないかと。

4Gamer:
 「ガンパレード・マーチ」もそうでしたが,芝村さんの作品では主人公が偏った意見をあまり持たない……チームをまとめるリーダー的なキャラクターとして活躍しますよね。これも,「答を出さない」という考えが大本にあるのでしょうか?

画像集#013のサムネイル/“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
芝村氏:
 時々,「本当の英雄とは何か」と考えるんです。私はまだ会ったことがないのですが,もしも会えたら一緒に飲んでみたいですね。
 これは個人的な考えなのですが,本物の英雄ってインディ・ジョーンズやマクガイバーのようなヒーローとは多分違うんですよ。リアルには奇跡も魔法もありませんから。となると,リスク計算のうまい人間が真に英雄たりえると思うんです。

4Gamer:
 ただ勇敢なだけでは,英雄になれないということでしょうか?

芝村氏:
 勇敢に戦って死ぬのではなく,生き残った英雄がいたとしたら,それは相当に計算高くてイヤなヤツなんじゃないですか。例えば,切り落とされる腕を選ばなければいけないような状況に陥ったとしたら,5秒くらい考えてから冷静に「左腕で」と言えるようなヤツなんだろうなと。そういった自分の中の“英雄像”を想像しつつ,作品を書いています。

4Gamer:
 だからこそ,本作の主人公もああいったドライな性格になったんですね。

芝村氏:
 はい。それと,先程も言ったように現代の若者を反映しています。つまり,今の若者は英雄向きの性格なんですよ。イヤな時代を生きていると思います。もし日本の若者を輸出したら,イヤな活動も含めてかなり活躍するとも思いますし。そのあたりは日本国内に留めておいたほうが,よっぽど世界のためかもしれません(笑)。

4Gamer:
 なまじリスク計算ができるから,冒険をしたがらないという面もあると思います。

芝村氏:
 そうですね。例えば大震災のとき大きな暴動が起きなかったのは,今の若者があえて冒険しない計算高さを持っているからだと思います。もしもアメリカのロサンゼルス近辺であのクラスの地震が発生して原発が爆発したなら,確実に暴動が起きますよ。単に失業率が上がった下がったで暴動を起こしているわけですから。つまり,日本にはそれだけ多くの英雄的資質を持った人々が多いということでしょう(笑)。

4Gamer:
 そう言われると,確かに英雄的なのかも……。

芝村氏:
 ただ残念ながら,日本ではそれが普通だから目立たないというだけの話ですね。

4Gamer:
 そういえば,本作ではジブリールのように戦場に駆り出される少年少女兵が登場しますし,「ガンパレード・マーチ」でも若い世代が戦いに参加しますよね? そのへんにも共通したテーマを感じるのですが,いかがでしょうか?

芝村氏:
 悲しい話なのですが,現実問題として少年少女兵は無視できないレベルで多いのです。戦争が大人のものだった時代は,とうの昔に終わっています。ベトナム戦争の頃から,すでに多くの少年少女兵が戦いに参加していたんです。

4Gamer:
 当時はどのような状況だったのでしょうか?

芝村氏:
 ベトナム戦争時のアメリカには徴兵制が敷かれていて,1年間戦えば元の生活に戻ることができたんです。その関係で,戦場に立つのはいつも若者で,古参兵や大人の兵士というのは非常に少なめでした。その点に関して今でも同じです。大人は戦場に立たず,若者の戦争になっている。

4Gamer:
 恥ずかしながら,あまり実感がありませんでしたね……。

画像集#014のサムネイル/“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
芝村氏:
 民間軍事会社の傭兵にしても,ベテランと呼ばれる人間はいるのですが,最近は人件費を節約するという考え方のもと,少年兵を下請けとして使うのが珍しくなくなっています。なので今戦争の物語を描こうとすれば,少年兵について書かないことは嘘になる。リアルじゃないんです。

4Gamer:
 ジブリールのような少女も,フィクションの存在とは言い切れないんですね……。

芝村氏:
 「ガンパレード・マーチ」もそうですが,戦争で負けている側には必ず少年兵が出てきますよね。夢物語ではなく,単純にリアルを追い求めるとそうなるんです。そういった背景を理解したうえで本作を読んでいただいて,似たようなニュースを見たときにイヤな顔をしていただければなと思います。

4Gamer:
 そうですね。「ガンパレード・マーチ」も淡々と戦闘が進行しているように見えて,プレイしているうちに状況の悲惨さに気付いていく作りでしたね。本作にも,それと近いものを感じました。

芝村氏:
 そう言っていただけると非常に嬉しいです。代わり映えがしない……という見方もできますけど。

4Gamer:
 いやいや,読んでいて「芝村さんだなぁ」と嬉しくなりました。

芝村氏:
 何をやっても「芝村だ」と言われるのは,ちょっとビックリしますね。Twitterで料理のことを呟いても,「芝村さんだなぁ」なんてリプライが返ってくるという……落語みたいなこともありました。

4Gamer:
 それだけファンの間では芝村さんのイメージが固まっているということですね!

芝村氏:
 以前,漫画原作の仕事をしたときも編集者がすごく勉強していて,「ここはなぜこうなってないんですか?」とか「芝村さんの作品ならこうでしょ!」とか言われたりしたんです。さらには「いつもどおり太った男を出してくださいよ!」なんて言われて,「これ少女漫画だけどいいの!?」なんて思ったり。

4Gamer:
 かなり「分かってる」編集者ですね(笑)。

芝村氏:
 「私が作者なんですけど……」という状況になることはよくあります。それが面白くてしょうがない(笑)。

4Gamer:
 もしかして,今回もそういうことがあったり?

芝村氏:
 書き終えたあとで「あれ,そういえばこれが出てないですね?」なんて言われました。きっとほかの作家さんも,こんなふうに“自分らしく”されていくことがあるんだろうなぁと思いますね。

4Gamer:
 ネタバレになりそうなのであまり詳しくは聞けないところですが,本作は今後どういった展開になっていくのでしょうか?

画像集#015のサムネイル/“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
芝村氏:
 まだ決まってはいないのですが,2プランほど考えております。再び海外で戦争に身を投じる形か,もしくは日本が軍事大国として戦場になるようなパターンですね。実は,このインタビューのあとに編集者と詳しく打ち合わせするんですが。


4Gamer:
 どちらも面白そうですね……楽しみです。

芝村氏:
 それと,読者の反応も重要ですね。「ジブリールちゃん可愛い!」みたいな感想ばかりだったらどうしようかと(笑)。

4Gamer:
 「人工エルフ最高!」とか(笑)。

芝村氏:
 そのときは簡単ですよ。手のひら返して「ですよね! 自分でも最高だと思ってたんですよ!」とか言っちゃいます(笑)。

4Gamer:
 じゃあ今後の展開次第では,サブキャラクター達の再登場もありえるんですかね?

芝村氏:
 そういった部分はぜひ書きたいところではありますね。彼らはビジネス上,味方になることもあれば敵になることもあると思います。主人公のキャラクターが特殊なこともあり,本作だけでは民間軍事会社のアイデンティティを描き切れないんですよね。そのあたりを,今後も書いていきたいです。

4Gamer:
 まだ分からないとは思うのですが,全何巻くらいになりそうですか?

芝村氏:
 現時点では構成的に,全3巻くらいを目標にしたいなとは思っています。あまり長すぎても読者的に辛いでしょうし。

4Gamer:
 そして芝村さんといえば,やはり世界観的に他作品との繋がりを期待せざるを得ないのですが……。

芝村氏:
 想定してはいますが,この作品から入ってくれる方もいると思いますので……やるとしても,うまい見せ方を考えていきたいですね。

4Gamer:
 いきなり主人公が精霊手とか使い始めたりしたら,いろいろと台無しですもんね。

芝村氏:
 ファンにニヤリとしてもらいたいという気持ちはありますが,超展開すぎてワケが分からないと言われるのは避けたいですね。

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