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稲船敬二氏は,今何を考え,何を目指し,どこへ向かっていくのか――離脱から5か月。氏の現在の活動を聞いてみる
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印刷2011/04/02 00:00

インタビュー

稲船敬二氏は,今何を考え,何を目指し,どこへ向かっていくのか――離脱から5か月。氏の現在の活動を聞いてみる

30年以上の歴史をもってしても,ゲームの社会的地位が向上しないのはなぜか


4Gamer:
 しかしそうやってほかのジャンルと比較するといつも思うのですが,どうしてゲーム業界は,そうやって「生産国」に変なこだわりがあったり,“ゲームしか作りたくない”というアウトプットへのこだわりが顕著に表れるんでしょうか。

画像集#005のサムネイル/稲船敬二氏は,今何を考え,何を目指し,どこへ向かっていくのか――離脱から5か月。氏の現在の活動を聞いてみる
稲船氏:
 一番の問題点は,ゲームの社会的地位なんですよ。

4Gamer:
 私が個人的に好きな話題になりました。

稲船氏:
 珍しい人がいますね(笑)。最近よく言うんですけど,「松下幸之助,本田宗一郎は素晴らしい。では任天堂の山内 溥さんは,彼らに比べて明確に劣っているんですか?」と。

4Gamer:
 それは私も問いたいですね。

稲船氏:
 世の中が任天堂の山内さんに着目して,なぜ任天堂という帝国を作れたのか,彼はどんな人物なのかを考え始めたら変わると思うんですけど。

4Gamer:
 そのためには,何をどうすれば良いと思いますか? 私もそれなりの時間,ゲーム業界に携わっていますが,なぜゲーム業界は,その影響力や実態に比べてこんなに地位が低いのか,ずっと考えているんです。地位が高くなりたいとかそういう話ではなくて,純然たる疑問といいますか,「もっと世間で認められてよいもののはずなのに」という強い思いといいますか。

稲船氏:
 ちょっと前に,あるクリエイターと話していたんですが,ゲームにアカデミー賞クラスの,国際的に認められた賞があってもおかしくないはずです。それができれば,変わると思うんですよ。そのために世界のゲーム会社やゲームの協会が,お金も力も出さないといけません。これは日本だけでやっても駄目だし,アメリカだけでも,ヨーロッパだけでも駄目です。

4Gamer:
 今あるもので,一番近いものはなんですかね……GDCかな?

稲船氏:
 いや,該当するものはないですね。これを本気で考えてやれる経営者に,世代が代わらなければならないんです。今の経営者世代は,そんなお金を使って何になるの? と考えてる人も多いでしょうし。

4Gamer:
 何になるかと問われれば,「何にもなりません」としか言えませんが……。会社には直接なんのリターンもないですし。でもそういう問題じゃないですよこれ。

稲船氏:
 そうです。この賞に5億円をかけました。じゃあ,来年に50億になって返ってきますかというとそんなわけないですね。重要なのは,20年後のゲーム業界を見据えた投資ができるのかどうか,という話です。そうすれば,自分達の子供の世代,孫の世代のゲーム業界を守ることができます。でも,今のままでは守れないんです。

4Gamer:
 うーん……それは守ろうという気がないだけじゃないですか。そこまでのことを考えていないと思うんですよ。さきほどの話じゃないですが,業界に対して責任を感じていないわけですし。

稲船氏:
 ええ,考えていないですね。

4Gamer:
 以前から,ゲーム業界関連の社長クラスの人に会うたびに,できるだけ同じようなことを聞いてみてるんです。“なぜ,ゲーム業界は産業として認められていないのか”と。

稲船氏:
 それでみなさんの答えは?

4Gamer:
 多くの人は,一様に口を揃えて「そうですか? 今で十分認められているでしょう。何の問題もありません」と。

稲船氏:
 でしょうね。

4Gamer:
 むろん,私の問いに賛同してくれる人もいますし,同じように憂いている人もいます。私の意見が絶対正しいなんて思ってはいませんが,想像していたよりもずっと多くの人が「いまで十分。問題なし」と思っていることには,愕然とします。

稲船氏:
 そりゃあ彼らは,地位が低くないですしね。一部上場企業の社長や会長とか。それだけの大きさの組織のトップに立っているにもかかわらず,業界を俯瞰して見られていなくて,自分中心でものを見ているんだと思います。
 多くの株を持っていて,多くの資産があって。そうすると,食品業界や鉄鋼業界,車産業の人達と比べて,もらっているものはそう変わらないですからね。

4Gamer:
 うーん,それはそのとおりですしそれを否定するわけではありませんが……そんなことでいいんですかね。

稲船氏:
 だからダメなんですよ。僕らの世代でも,そんなことを考えている人が少ないし,万が一にも人前で口に出しちゃうと,「バカなんじゃないの?」という顔で見られますよね?(笑)

4Gamer:
 ええ,見られました(笑)。

稲船氏:
 何言ってんのコイツ? と思われたりするわけです(笑)。でも,例えばとあるゲームプロデューサーとも同じような話をしたことがありますが,その人も危機感を感じているそうです。ちゃんと分かっている人はいるんです。だから,そういう人と連合を組むしかないと思っているんですよ。

4Gamer:
 まさに幕末然とした話になってきました。

稲船氏:
 そう。できたら,そういう人達と一緒に団体を作りたいですね。ゲームクリエイター出身の経営者だけの団体を作りたいんですよ。資格は,社長/会長/経営者といったトップが,かつて,もしくは今,ゲームクリエイターかどうか,というだけ。そんな変な団体を作りたいです(笑)。

4Gamer:
 あぁでも確かにちょっと毛色が違う面白い団体になるかもしれませんね。先ほども話に出ましたが,ゲーム業界を仕切っている人の結構な数がクリエイター出身「ではない」というのは,それはそれでとても良い面もあるんですけど,なにかやはり最後の部分で心もとない不安を感じます。

稲船氏:
 ですよね。それでその団体でメディアとも組んで,世界に呼びかけてアワードをやりたいですね。海外でもメディア主催のアワードをやっていますが,それを合同で一緒にやって,それが一般のニュースで流れるくらいのものにしたいんです。

4Gamer:
 そもそも,ゲームにはその力が土壌としてあるはずなんです。

稲船氏:
 そうです。それだけの才能とお金が,業界で動いているのに,それをうまく使えていないんです。それは,パブリッシャが閉じていて,クリエイターを囲ってきたことが原因で,今にこんな状況に至ってるんですよね。僕は脱走……。

4Gamer:
 どちらかといえば脱藩では。

稲船氏:
 そうですね(笑),脱藩したので,それは間違ってるよとみんなに言って回ってるんです。「そうだね」という人が増えてくれば,いずれは幕府を倒せるはずです。


芥川賞のように,業界に「宮本賞」を作るべきだ


4Gamer:
 しかし,本当に業界の偉い人達は,それを疑問に思ってないんでしょうか。それとも私がトンチンカンで子供じみた考えなんでしょうか。……もしくは,分かってるんだけど面倒なので分からない振りをしている?

画像集#006のサムネイル/稲船敬二氏は,今何を考え,何を目指し,どこへ向かっていくのか――離脱から5か月。氏の現在の活動を聞いてみる
稲船氏:
 たぶん後者でしょう。江戸幕府としては,鎖国していることを当たり前にしちゃいたいんです。「何言ってるの? これで良いんだよ」という状態が,もう300年続いているというわけです(笑)。

4Gamer:
 うーん,なるほど……。
 確かに経済的な地位は大切です。人には個人の幸せを追求する権利がありますし,そこに固執してがんばるのは,なんら悪いことではありませんし,それが企業の成長の原動力にもなりうるわけですよね。しかしその「経済的な地位」を持ってしまうと,全体の利益に寄与できる,文化的な,カルチャーとしての地位には目が向かないものですかね。余裕ができて,普通に考えればそっちに目がいきそうなものですが。

稲船氏:
 いってないですね。これが,マリオが発売してからまだ5年,とかいう時期だったら,そんなことを言っている場合じゃなくて,まずは地位の確立だろうと言えますが。もうマリオから25年,ゲーム業界が30年以上です。確実に地位を確立していておかしくないはずなのに,そこは何も変わっていないんです。

4Gamer:
 ある程度の先進国だと,きっと多くの人がマリオを知ってますよね。

稲船氏:
 極端に言えば,ミッキーマウスと同じくらいに知名度がありますよね。

4Gamer:
 本当にそのくらいのレベルかもしれません。

稲船氏:
 でも,それを作ったウォルト・ディズニーと,マリオを作った宮本さんは,知名度という意味で同じじゃないですよね。同じにするためには,ある種のヒーローを作らなくてはいけない。

4Gamer:
 まぁ宮本さんが同じ知名度になりたいかどうかは分かりませんが,少なくとも国民栄誉賞くらいはもらって然るべきだと思うんです。

稲船氏:
 確かにそうですね(笑)。ゲーム業界の確立のためには,宮本 茂というクリエイターのヒーローと,山内 溥という経営のヒーローを,無理矢理にでも立てないといけないんです。

4Gamer:
 コンシューマゲームの礎を築いた人達ですからね。

稲船氏:
 そうですよ。彼らが世界のゲームを変えたんです。これはもう日本の任天堂じゃなくて,世界の任天堂ですよ。それはつまり,彼らは世界のヒーローなんです。
 でも,日本の一般的な人に宮本茂と言っても,「誰?」と言われてしまうことがありますよね。それが悲しいです。ウォルト・ディズニーと言って「誰?」という人はいないのに。いつだったかは,マリオを指して「これ日本人が作ったの?」と言われたこともあります。

4Gamer:
 何が悪いんでしょうね。我々メディアの責任もあるんでしょうけれど,今後どうしていくのが良いと思います?

稲船氏:
 難しいですね……。赤塚賞,手塚賞みたいに,まずは宮本賞を作ってみるとかどうですかね。

4Gamer:
 ああ,でもそれは本当に良いかもしれない。

稲船氏:
 宮本賞を取ったクリエイターは売れますよ! 実際に芥川賞といった賞は,新人の発掘にも貢献していますし。だから,宮本さんが「これ面白いね」と言って,注目されていない小さな作品を指してそこに宮本賞が贈られれば,世間から注目されてメジャーになっていくかもしれないわけですよ。

4Gamer:
 そして引き抜き合戦が行われて,どこぞのお金だけ持ってるようなパブリッシャーとかが急にお金を積みだすわけですね。

稲船氏:
 そのとおりです(笑)。でも,それはそれでアリじゃないですか?

4Gamer:
 ええ。少なくとも,今よりは前に進めます。

稲船氏:
 だから,ゲームクリエイターがゲームを作っているだけじゃダメなんですよね。ゲーム業界の構造も考えなくてはならない。これが僕の考える「コンセプト」なんです。いまの状態で仕方ないじゃなくて,こうしようと理想を掲げることで,ゲーム業界を変えていくんです。
 大体においてそういうことを言うと,「すでにほかの団体があるんだから無駄だよ」とか「宮本さんがそんなことに協力するわけないよ」とか,やりもしないで最初からなんでもかんでも無理だよと言っているからダメなんです。

4Gamer:
 とりあえずなんにでも「無理」って言う人は,世の中にいっぱいいますよねえ。

稲船氏:
 そうなんです。でもまぁそういう人は置いておいて,これが一つ一つできてくれば,面白いことが起こるんじゃないかなと思います。少なくとも何らかのムーブメントを起こしたいですね。
 ……まぁきっとこのインタビューを読んだ人は,「理想論ばっかり掲げてホントに稲船はバカだな。いいから早くゲーム作れよ」と思ったりするでしょうけど(笑),それじゃあダメなんです。ゲームを作るのは,業界の開発者であれば誰でもできます。僕じゃなくても,面白いゲームは作れます。僕も当然面白いゲームを作る気でいますけど,それ以外もやらないといけないんです。せっかく稲船敬二という,ある程度の知名度があるものを持っているんだから,それを使わないと損ですしね。

4Gamer:
 ぜひ十二分に使っていただきたいです。

稲船氏:
 そうして,ゲームの社会的地位が認められれば,ゲームにしか興味がないとか,ゲームのアウトプットしかできないとかいう人だけではなく,多彩な能力を持った人達がゲーム業界に入ってくるようになると思います。

4Gamer:
 そう,それが大きいんです。社会的地位が向上して注目を集めれば,いろいろな考えやいろいろな視点を持った人が業界に入ってきますし。

稲船氏:
 そうです。そしてこれは,たぶん4Gamerなどのゲームメディアも同じです。

4Gamer:
 いま同じことを言おうと思ってました。

稲船氏:
 地位が向上すれば,ゲームにしか興味がないゲームメディア希望の人ばかりではなく,ゲームというテーマは一つの目的に過ぎず,メディアとしていろいろなことをいろいろな手段で報道したいと思って入ってくる人も増えると思います。そういうところからも,ゲーム業界は変わってくると思います。これは日本だけの問題ではなく,世界的にそうなってほしいんですよ。

4Gamer:
 はい,まったくもっておっしゃるとおりです。


時代の流れは早いんです。10年したらゲーム業界がなくなってますよ


画像集#007のサムネイル/稲船敬二氏は,今何を考え,何を目指し,どこへ向かっていくのか――離脱から5か月。氏の現在の活動を聞いてみる
稲船氏:
 それに産業としての地位が上がると,仕事が楽になりますよね。こちらから働きかけなくても扱いたいと言ってくれますから。

4Gamer:
 産業としてキチンと認知されないと外からのお金が入ってきづらくなるので,全体的に停滞しがちになるというデメリットもありますよね。

稲船氏:
 ええ。海外では僕みたいな人間が辞めると,いろいろな投資家やファンドがお金を出すよと声をかけてきますよ。

4Gamer:
 そうでしょうねえ……。海外だと,プロジェクトファンドがいっぱいありますし。

稲船氏:
 でも日本にはないですね。そういう意味では,苦労もあります。ゲームのことを理解していないと「稲船」を理解できないので,稲船と“お金になる”がイコールで結びつかないんです。

4Gamer:
 まだそういうものですかね。

稲船氏:
 その意味でも,ゲームは社会的地位が低いんです。地位が高ければ,ファンドが放っておきません。

4Gamer:
 結局のところそういう部分が,真綿のようにゆっくりとじわじわと,ゲーム業界の首を絞めてきているんですね。

稲船氏:
 しかしそういうことを真面目に考えると馬鹿扱いされる状況も良くないでしょうね。

4Gamer:
 ジェネレーションが変われば変わりますかね? 

稲船氏:
 それだけではないと思いますけど。

4Gamer:
 稲船さんは今45歳ですよね。このあたりの世代から上になると,もう逆にゲームに思い入れが少なくて,あまり考えないんですかね。

稲船氏:
 かもしれませんね。だからこそ,変わらなきゃいけない。でも,時代の流れが速いので,変わってくれることを待ってられません。あと10年したら分かるよと言われても,10年したらゲーム業界がなくなってますよ。

4Gamer:
 概ねにおいて同感です。我々(4Gamer)は,PCゲームから始まったメディアですが,コンシューマゲーム情報の取扱いを始めてから2年以上が過ぎます。しかし私は最初,コンシューマ業界のあまりの閉鎖感に驚きました。

稲船氏:
 というと?

4Gamer:
 統制とルールと腹の探り合いばかりで,全体として前へ前へと進んでいける感じがあまりしないんですよね。「良い意味での混沌」が感じられないというか。続編ビジネスは,基本的に縮小再生産をしてるだけですし。そしてそれは,個人的見解として述べさせてもらえるなら,いまでもあまり変わりません。でも,稲船さんを始め「これではマズイ」という人もちゃんと大勢いるんだ,と分かったのは,とても恥ずかしながら,実はごく最近の話です。

稲船氏:
 そうですね。そういう危機感を共有できる人がいるんだと分かったのは,僕にとっても会社を飛び出した収穫です。カプコンでは,部下として言うことを聞いてくれる人はいっぱいいましたが,仲間がほしかったんです。

4Gamer:
 部下はすべて仲間,というわけではないですしね。

稲船氏:
 ええ。部下は得てして上司に乗ずる傾向があるので(笑)。

4Gamer:
 普通はそういうものですが(笑)。

稲船氏:
 部下じゃない状況下で「思っていることが一緒です」と言ってくれる人が,カプコンの中ではほとんどいなかったんです。もしかしたら僕が見つけられてなかっただけなのかもしれませんが。なので,出てきて良かったな,この人達の力を借りればなんとかなるかもしれないな,と思えます。

1+1は2であることは自明の理。なぜそれを見ない振りして過ごすのか


4Gamer:
 しかし業界全体もさることながら,昨今はそれよりミクロなレベルで業界全体にピンチが訪れつつありますよね。

画像集#004のサムネイル/稲船敬二氏は,今何を考え,何を目指し,どこへ向かっていくのか――離脱から5か月。氏の現在の活動を聞いてみる
稲船氏:
 会社,というレベルの話を指してます?

4Gamer:
 そうです。経営者にとって最大の,かつミニマムなミッションは,会社を守り,社員の生活を守ることですが,それすらおぼつかなくなってしまいそうな会社がたくさんあることが,心配であり,心が痛い問題でもあります。

稲船氏:
 そうですね。おっしゃるとおり,経営者側は当然会社を守らないといけないし,資産も守らないといけない。それで言うと,業界がどうとかではなくて,切羽詰まっている人も多くいますよ。
 この状況下で「なんとかなるんじゃない?」と思っている経営者は危険だと思います。

4Gamer:
 ほんの少しだけ歴史を振り返って冷静に考えてみれば,ボーッとしててもなんともならないというのは自明の理だと思うんですが。

稲船氏:
 そうです。1+1が2になるのは,誰にでも分かることです。ゲーム業界も,日本のゲームシェアが世界の10%であるという歴然とした数値は出ているわけです。
 今の日本のゲームは,50万本売れたら大ヒットだと言われる時代です。でも,50万本売っても,1本5000円だったとして,もういろんなものを端折って分かりやすい話しかしませんが,売り上げは25億円にしかならないんです。25億円しか売れない作品を,30億円使って開発していれば,絶対に儲からないのは誰にだって分かります。誰でも分かるのに,なぜ世界で売っていかなきゃいけないのかを真剣に考えないんです。
 500万本売れれば,250億円の売り上げが立ちます。じゃあ,開発費が30億円かかっても,50億円かかっても関係なく儲かるわけです。これは簡単な理論ですよね。算数ですらない。そのために,どうやって世界で売るかを考えなきゃいけない。ただそれだけなんです。

4Gamer:
 ……前回もお聞きしたんですけど,本当にそんなレベルの話からしなきゃいけない状況なんですか? やっぱりまだ信じられません。

稲船氏:
 むろんみんながみんなそうだというわけではありません。果敢に挑戦している人達だってたくさんいます。でも多くの人については,そういうレベルだと思いますよ。だから問題なんだとずっと言い続けてきました。

4Gamer:
 うーん……。

稲船氏:
 僕は,世界で売るための方法を,少なくとも計算式を作って解きました。数学者として。1+1は2だと解いたのだから,少しは力になれますよ,と。
 でもそこで,力になってくれと,すぐに言える会社は少ないですよね。1+1が2と言える数学者が社内にいないということが分かっていて,それを外から解きますよと言っても,みんなちょっと待ってて,と言うんですよ。

4Gamer:
 解かれては困る人がいるんじゃないですか?

稲船氏:
 でしょうね。社内にいる数学者達が困るんですかね? 逆に自分達に能力がないと認めてしまうことになってしまうから。

4Gamer:
 あまりにありがちな話ですね。

稲船氏:
 だから,みんな経営者に対して反対するのかもしれませんね。「できないですよ! 彼は,ペテン師ですよ! 絶対にやめましょう!」って(笑)。

4Gamer:
 そこまでいくとネタだとしか思えないんですけど(笑)。

稲船氏:
 全部が全部真実というわけではないですよ。でも,そんなイメージで間違っていないと思います。

4Gamer:
 カプコンという看板が外れた“稲船”だから余計にそうなんでしょうか。

稲船氏:
 でも“稲船”に,復活のためのキーワードがあるのではないかと思ってくれている会社はありますね。だから,すごくお話を聞いてくれて,積極的に取り組みの話をさせていただいています。

4Gamer:
 そんな会社が,それなりの数があるのなら,まだ大丈夫かなという,変な安心感があります。そもそも稲船さんのことを心底どうでもいいと思っていれば,会うわけがないですしね。

稲船氏:
 会っても社交辞令で,挨拶だけして繋いでおくでしょうね。

4Gamer:
 「ぜひ何かの機会に!」というお決まりの文句と共に。

稲船氏:
 そうです。でも,お会いした各社とも,そんな感じはないですね。どこも真剣に考えているけど,決断力という部分の踏み込みがちょっと難しい,という感じを受けます。

4Gamer:
 でも経営サイドの人間が大きく踏み込むには,大変な度胸が必要ですよ。

稲船氏:
 そうですね。でもいまの僕の立場で言うのは変ですが,僕が経営者なら何の迷いもなく踏み込みますよ。だって,何かをしなきゃいけないのは確実なんです。成功するかどうかを議論するレベルではなくて,動かなきゃいけないんです。

4Gamer:
 はい,よく分かります。しかしどちらの心情も理解できる身としては,経営者が迷うのは,やはり守らないといけないものが,いっぱいあるからだと思うんですよ。それがいいものであれ,悪いものであれ。必要なものであれ,必要ないものであれ。

稲船氏:
 そうですね。でも僕の中には,そういうコンセプトでブレていない部分があって,大手のパブリッシャさんに稲船これやってと言われたときに,失敗したらどうしよう,できるかなこの会社でという不安は全然ありません。
 1+1なんだから,絶対に2で合っているでしょう。もしそれが間違っていたとしたら,採点した人が間違えた以外にありえません。人的ミス以外はないというくらい,自信があるんですよ。バカじゃないかと思われるかもしれませんが。

4Gamer:
 そういうところ,以前からまったくブレていないですね。

稲船氏:
 この自信は何なのかというと,カプコンで開発のトップとしてやってきた7年間で付けてきたものです。自分の理論を出して,その理論どおりに動いて,そして答えを出した。これは,偶然ではなくて,こうすればこうなると思ったことがそうなったんです。それがずっと続いたから,絶対にこうなると思えるんです。

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